男色家で女嫌いだっていう公爵様からエーリンのおうちに結婚の申し入れがありました

壺中天

第1話

「あんまりドキドキし過ぎて、心臓が口から飛び出しそうです」

 初めての愛を囁かれた少女は、尨毛むくげの雛鳥が羽ばたこうとするように、わたわたと腕を振り回した。

「大丈夫ですよ。飛び出して来たら、私が捕まえて上げましょう」

 その肩を掴んでそっと引き寄せる。

「逃がさないで下さいね」

 小柄な彼女は上向いてパクンと口を開けた。

「可愛い人ですね。食べてしまいたい」

 肩に掛けていた手を静かに背中へと滑らせ、もう一方を腰へ回す。深く接吻し舌を絡めた。

「食べないで下さい! 舌を食べられたらしゃべれません、心臓を食べられたら死んじゃいます!」

 息継ぎが出来なかったらしい彼女は押し退けようとしながら憤慨する。

「ほう、それは残念です。仕方がないから鳥籠に入れて置いて楽しむとしましょう」

 生まれたての子鹿のようによろめいているのを支えてやった。

「なんですか、あなたは魔王ですか? エスター様!」

 こちらにすがりながら頬を脹らまし、彼女のぷんぷんはまだ収まらない。

「おやおや、私にそんなことをいうとは勇者ですね」

 揶揄からかうように微笑んでみせる。

「うーん、もう! 退治しちゃいますからね!」

 どうやら回復したのか、ぴょんぴょん跳ねてポカポカ胸を叩く。

「朗な声で歌う私だけの小鳥。既にあなたは私をとりこにしていますよ」

 姫はまっ赤になってうつむいた。



 こうして、勇者な姫と魔王様な公爵とは結ばれて、末永く幸せにくらしましたとさ。

 めでたしめでたし。

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男色家で女嫌いだっていう公爵様からエーリンのおうちに結婚の申し入れがありました 壺中天 @kotyuuten

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