第4話「蒼柳聖という少女(後編)」


 結果から話すと、犯人は二人いた。

 この事件は、同一犯人による犯行ではなく、個別の二人の犯人による別の事件だったのだ。


 そして、ただの暴漢でも無い事が、明らかになるのだった。




 事件A。

 暴行殺害事件。

 犯人。岩島五郎。


 彼は、恨みによる犯行を口にした。


 非情に、複雑な事件であった。


 彼はその日、普通に仕事から電車で帰宅するはずだった。

 車内はホームタウンへのラッシュで、都会ほどではなくとも、そこそこに満員電車状態にあった。


 仕事に疲れていた彼は、すぐにでも家に帰りたかった。

 帰ったところで何がある訳でもない。

 恋人もいなければ友達も少ない彼は、家に帰っても寝るくらいしか無い。

 楽しみは漫画やアニメ、ゲームなど。

 それすらも、最近では疲労に負けて遊ぶ余裕も無い状態。


 面倒毎に巻き込まれるのも嫌。

 平穏に暮らしたい。

 ただ、それだけの人生だった。


 しかしその日、彼がヒーローになりうる事件が発生したのだ。


「痴漢よ!! この人痴漢です!!」

「なんだって? 痴漢なんて最低だな許せねぇ!!」


 女性の声を皮切りに、周囲がざわめき始める。

 女性に手を取られたのは、気弱そうな男性だった。

 いかにも奥手そうで、痴漢なんてまるでできなそうな男。


 男に対し、別の男が飛び掛る。


「こいつ痴漢だぜ! 警察よべ!!」


 周囲に呼びかける。

 周りの人間もなんだなんだと、痴漢? 最低だなと男を見る。


「ち、ちが、わ、私は、やって、ない」


 オロオロと自らの無罪を訴える男。


 やがて駅に着き、引っ張られるように連れ出される男。


 だが、彼は見ていた。

 男が、痴漢なんてやっていない事を。


 男は、両手をポケットの中に入れていただけなのだ。

 女性に痴漢なんてしていない。

 見ていたからはっきりわかる。


 けど、面倒毎は御免だった。

 それでも、彼は口にした。


「その人、痴漢じゃないですよ」


 痴漢冤罪なんて、痴漢よりももっと許せない。

 彼は男女平等主義者だったのだ。


「はぁ!? あんたもこいつの仲間!?」


 訳のわからないレッテルを貼られる。


「きちんと見ていました。その人はやってませんよ」

「じゃあ誰がやったってのよ!」

「知りませんよ。あんたの尻なんて見ていない」

「何よあんた! あんたが痴漢なんじゃないの!?」

「なんでそうなるんですか?」


 くだらない言い合いになる。

 これだから嫌なんだ。女に関わるのは。

 彼は辟易しながら駅員に事情を説明する。


「アイツも痴漢の仲間なのよ!!」


 最後まで女は発狂していた。


 途中、正義面した男に胸倉も捕まれた。

 それでも怯まずに冤罪を主張した。


 何とか、冤罪男は解放された。


 男に感謝され、小さな満足感に浸りながらも帰る途中の事だった。


 裏路地で、正義面した男とあの女が喋っているのを聞いてしまったのだ。


「むっかつくあの男。あとちょっとで示談金ふんだくれたのに」

「別に気にすんなって。顔は覚えたべや」

「覚えたからなんだってのよ。むかつく何あの似非正義面。マジむかつく」

「次はアイツはめてやろうぜ。どうせまた同じ電車に乗るんだろ?」

「あぁ、なるほど」

「クソ正義面しやがってあの糞ゴミ正義マンが。今度は誰も邪魔しねぇ。アイツが痴漢になる番だ」

「私たちの邪魔した事、後悔させてやらないと!」

「あいつだけじゃねぇ、親兄弟からまでふんだくってやろうぜ」

「いいねぇ、ザマァ」


 全てはグルだったのだ。


 女が痴漢だと騒ぎ立てる。

 男が正義面して捕まえる。

 冤罪で相手を追いつめ、示談金をふんだくる。


「こんなていの良い小遣い稼ぎねぇよなぁ」

「ねぇ? 私って天才でしょぉ?」

「お前は悪い女だなぁ」

「んもぅ、私だけの罪にしないでよぉ。アンタが遊ぶ金欲しいっていうからぁ」

「家から持ってくればいいだろうに」

「それはダメ。夫にバレちゃう」

「悪い女だなぁ」

「そんな悪女に惚れたあんたも、悪い男なんだよ」


 裏路地の暗がりで二人キスをする。

 そんな様子を、彼は眺めていた。

 バレないよう、離れた影から。


 やがて、別れの挨拶をすますと、分かれ道で二人が別れる。


 男は繁華街へと向かう。

 一方、女は……人気の無い路地へと消えてゆく。


 彼は考えた。


 もし、このまま見過ごせば……食い物にされるだけだ。

 自分がもし、痴漢冤罪なんてされたら……あんな風に、誰かがかばってくれるか?


――ありえない!!


 アイツは運が良かっただけだ。

 俺が偶然、アイツも財布気にして両手ポケットに入れてんのかな? って見てなければ、絶対にありえなかった事なんだから。


 俺だってそうだ。

 痴漢冤罪を恐れて両手を挙げて、ポケットに手を入れてなければ、いつ財布をすられるかわからない。

 だからポケットに手を入れる。

 痴漢冤罪、オア、スリの被害しか無いのだ。


 だから、今、身を守るしかないんだ。


 彼は覚悟を決めた。身を守るために。


――女の後を追った。


 思えば、女と関わってろくなことなんてなかった。


 小学生の頃。彼は女子にいじめられていた。

 酷い罵倒を繰り返され、言葉のナイフで心を抉られ続けていた。

 だからと言って、言い返せば女子に口では勝てない。

 勝ったとしても、泣かせれば教師が来て悪者にされ、結局親まで呼ばれて不幸になった。

 黙っていても、心が抉られて不幸になった。

 頭にきて殴れば、男子が女子に暴力を振るうなんて、と教師に叱られ親まで呼ばれて不幸になった。


 女と関われば不幸にしかならない。


 それは中学、高校でもそうだった。


 大学でも、会社でも。女は徒党を組んで彼を不幸にしてきた。

 心を言葉のナイフで抉り、反撃しても怒っても何をしてもこちらが悪者にされ不幸になった。

 罪を押し着せられた。反論して論破され押し着せられた。

 悪いのは向こうなのに、叱ったら泣いてこっちが悪者扱いになった。

 奴は、こちらを見て舌を出して嗤って嫌がった。


 そうだ、いつもそうだ。

 女はいつだって俺を苦しめてきた。

 あいつも、俺を食い物にしようとしている。


 俺の全てを奪い尽くす気だ。


 親兄弟にまで難癖つけて潰しにかかるつもりなんだ。

 俺がやらなきゃ、俺がやらなきゃ、俺がやらなきゃ、俺がやらなゃ!!!



 だから、これは正義なんだ。

 正しき行為。悪への罰なんだから。



 彼の脳裏に、もはやそれ以外に選択肢は無かった。

 過去の人生と、彼の今が、そしてこれからが、それを選択させた。


 誰もいない夜の小道。

 女は無防備に家路に向かう。


 そこへ――。


 全力で駆けてからの、後頭部への拳打!!


 何度も、何度も!

 何度も何度も何度も何度も!!


 殴って、殴って、殴りぬいた!!


「た、たすけ、て、ごめ、たす、ごめんなさ、たじゅっ――」


 倒れた頭を何度も踏みつけ、亀のように縮こまるその体を執拗に、頭部だけを狙って殴り続けた。


 動かなくなったら、今度は近くのコンクリートに向けて、何度も叩きつけ、叩きつけ、グチャグチャと、みずっぽい音がしても、何度も何度も何度も何度も叩きつけ、全力で投げつけた。


 持ち上げて叩き落し、持ち上げては叩き落す。


 パワーボム? プロレスの技のような、そんな感じの、頭部を地面に叩きつける投げ技。

 それで何度も頭部だけを執拗に叩き付けた。


 やがてグシャッと、骨や中身が砕けるような音がし始めた頃。


 男はようやく理性を取り戻す。


 そして、事件が発覚するのを恐れて、逃げた。


 これが、第一の事件の真相。

 男を罪人にして儲けようとする悪魔が、ただ私刑に処されただけ。


 何の悲劇ですらない。

 ただ、死ぬべき理由がある人間が、断罪されただけ。


 私刑であるがゆえに彼は罪人だけど……。


 被害者が一方的に被害者で、加害者が一方的に悪人な訳でもない。

 殺されるべき理由があった悪党が、駆逐されただけ。


 殺意はあっても、情状酌量のある……?

 例えなくても、自業自得なだけの、胸糞の悪い事件だった。



 事件B。

 強盗傷害事件。

 犯人。伊藤和明。


 彼は、恨みによる犯行を口にした。


 非情に、複雑な事件であった。


 彼は普通に街を歩いていた。

 今日は何をしようか。

 煌びやかな街をぶらつくのも楽しいものだ。


 だが、唐突に衝撃を受ける。


 女性と体がぶつかったのだ。


「あ、すいません」


 会釈して、歩き出す。

 その時、何か嫌な予感がした。

 ポケットが、何か軽い?

 急いでポケットをまさぐる。


 財布が、無い!?


 急いで走るように去ろうとする女性。

 すぐに気付いた。スリだと。


「待て!」


 追いかけて、財布を取り返そうとする。


「返せ!!」


 とっくみあいになり、女性の鞄から自分の財布を見つけ出す。


 掴み取り、取り戻そうとするも――。


「誰か、助けて!!」


 悲鳴をあげたのは女性の方。


 なんだなんだと、周囲は当然ざわめく。


 その時、男がのしかかる。


 彼の持っていた財布を奪おうとする女性に加勢し、財布を強く奪い取ろうとする。


「強盗が! 恥ずかしくないのか!!」


 はぁ!?


 盗人はあっちだぞ!?


 彼は当然応戦する。


「この悪党が!!」


 男は彼に拳を放ち、彼は地に崩れ落ちる。


 感謝する女性と、正義面するアホ男。


「ふざけんな! そっちがスリだ! クソボケ!!」


 やがて警察が現れる。


 女性は逃げ出す。仕方ないので男を警察に突き出す。


「あいつ、スリです。そしてこいつがスリを助けた罪人だ!!」


 結局、警察に何度も強盗なんじゃないかと疑われた。

 財布も盗まれ、酷い目にあった。


 男も、スリを助けたとはならないと釈放され、彼だけが損をした。


 男であるだけで、女性の方が被害者であるかのように見られる。


 いつもそうだった。


 不平等。


 女は、女というだけで優先的に守られる。


 逆に男は、男というだけで犯罪者予備軍扱いだ。


 子供の頃からそうだった。


 小学生の頃。彼は女子にいじめられていた。

 酷い罵倒を繰り返され、言葉のナイフで心を抉られ続けていた。

 だからと言って、言い返せば女子に口では勝てない。

 勝ったとしても、泣かせれば教師が来て悪者にされ、結局親まで呼ばれて不幸になった。

 黙っていても、心が抉られて不幸になった。

 頭にきて殴れば、男子が女子に暴力を振るうなんて、と教師に叱られ親まで呼ばれて不幸になった。


 女と関われば不幸にしかならない。


 それは中学、高校でもそうだった。


 大学でも、会社でも。女は徒党を組んで彼を不幸にしてきた。

 心を言葉のナイフで抉り、反撃しても怒っても何をしてもこちらが悪者にされ不幸になった。

 罪を押し着せられた。反論して論破され押し着せられた。

 悪いのは向こうなのに、叱ったら泣いてこっちが悪者扱いになった。

 奴は、こちらを見て舌を出して嗤って嫌がった。


 そうだ、いつもそうだ。

 女はいつだって俺を苦しめてきた。


 女は怖い?

 怖いなんて言うから奴らはつけあがる。

 奴らに言うべき言葉はこうだ!

 女はクソだ! クズだ!! 生きる価値も無いクソゴミゲロカス野郎共だ!!


 今回もそうだ。

 財布を盗まれたのに、こっちが犯罪者みたいにされた!!


 許さない!!!



 だから、これは正義なんだ。

 正しき行為。悪への罰なんだから。



 彼は街で何度も女を探した。

 この駅付近を使わないはずが無いと。

 そして、見つけ出した。


 それは都合よくも夜だった。

 帰り道も、人気の無い場所のようだった。


 こっそりと後をつけた。

 そして――。


 背後から襲い掛かった。

 後頭部を全力で殴打した。

 何度も、何度も。

 何度も何度も何度も何度も。


 持ち上げて、叩き付けた。

 地面に。

 何度も何度も何度も!!


 高く持ち上げては落とす。

 高く持ち上げては落とす!!


 繰り返す!


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!


 怒りの限り!


 憎しみの限り!!


 女に対する憎悪の限りにそれを繰り返した。


 そして、せめて盗まれた金が帰ってくることを願い。

 財布を奪い、去った。


 これが――真相。


 悲劇でも何でもなかった。

 またもや、自業自得の――。



 私は失意に崩れ去る。


 私の怒りは何だったのだ。


 一方的な被害じゃない。


 加害者だって被害者じゃないか。

 何だこれは?

 なんなんだこれは!!


 私は何のために、こんな事件のために苦痛の中、努力したのだ!?



 そして。

 私の絶望は、それだけに終わる事はなかった。



 第三の事件が起きていた。

 その事件は、迷宮入りはしなかった。


 女性を背後から、無数の硬貨の入った皮袋で頭部を殴打する事件。


 犯人はすぐに見つかった。


 犯人は竹中時雄。

 誰でも良かった。ムシャクシャしてたからやった、と口にした。


――という事にされた。


 そして――警察は、この事件の全てを、彼に押し付けようとしていたのだ。

 私が、ほか二件の真犯人を見つけなければ、彼が全ての犯人にされていたのだ。


 私は犯人をこの目で見た。

 そして、心を見た。

 彼が口にした犯行理由も耳にした。

 警察も、犯人の独白を耳にしたはずなのだ。


 それでも、警察は真実を隠蔽し、ムシャクシャして、誰でもいいからやった、という事にしたのだ。



 三人目の犯人。彼の犯行理由はこうだった。


 バイト先で差別されていた。

 男というだけでゴミのように扱われ、いじめられていた。


 他の男たちは女の気を引くために彼をいじめる側に立った。

 彼を守るものは何も無かった。


 男共は女をひいきして甘やかし、男である彼だけに全てを押し付けた・

 女共は何度と無く、彼の心を言葉のナイフで抉り、時には肉体的苦痛さえ与えた。


 顔に傷をつけるとバレる。

 なら腹だね。

 え? 腹よりもさァ。


 睾丸を執拗に蹴り飛ばされ、血尿を出した事さえあった。


 思えばいつだってそうだった。


 男であるだけで、女性の方が被害者であるかのように見られる。


 いつもそうだった。


 不平等。


 女は、女というだけで優先的に守られる。


 逆に男は、男というだけで犯罪者予備軍扱いだ。


 子供の頃からそうだった。


 小学生の頃。彼は女子にいじめられていた。

 酷い罵倒を繰り返され、言葉のナイフで心を抉られ続けていた。

 だからと言って、言い返せば女子に口では勝てない。

 勝ったとしても、泣かせれば教師が来て悪者にされ、結局親まで呼ばれて不幸になった。

 黙っていても、心が抉られて不幸になった。

 頭にきて殴れば、男子が女子に暴力を振るうなんて、と教師に叱られ親まで呼ばれて不幸になった。


 女と関われば不幸にしかならない。


 それは中学、高校でもそうだった。


 大学でも、会社でも。女は徒党を組んで彼を不幸にしてきた。

 心を言葉のナイフで抉り、反撃しても怒っても何をしてもこちらが悪者にされ不幸になった。

 罪を押し着せられた。反論して論破され押し着せられた。

 悪いのは向こうなのに、叱ったら泣いてこっちが悪者扱いになった。

 奴は、こちらを見て舌を出して嗤って嫌がった。


 そうだ、いつもそうだ。

 女はいつだって俺を苦しめてきた。


 女は怖い?

 怖いなんて言えば奴らはつけあがる。

 奴らに言う言葉はこうだ!

 女はクソだ! クズだ!! 生きる価値も無いクソゴミゲロカス野郎共だ!!


 女が憎い。

 女が憎い!

 女が憎い!!


 えせフェミニストどもは増長し、男の楽しみを奪うべくツイッターで暴れまわる。

 そのせいで、親友は自殺した。

 彼は応援していた。

 幼少期からの友人を。

 その友人はイラストが得意で、可愛らしい女性キャラを書くのが得意だった。


 そして、ご当地キャラで認められた。

 彼にとっても誇らしかった。

 何も出来ない何のとりえも無い自分と違って、親友は努力した。

 だから認められた。

 祝福した。


――だけど。


 キャラが卑猥だ。イメージダウンだ!


 いきなり御当地キャラが取り消された。


 罵倒の嵐が彼の親友に襲い掛かった。

 それは痛烈なる言葉の刃。、


 悲惨な人生の末、やっと得た奇跡だった。

 その事は、親友である彼が一番よく知っていた。


 その奇跡が、裏切られた、


 女共のせいで!!


 女はいつだってそうだ。

 自分だけは被害者面して。

 優先されて、当たり前のように守られて。

 男を、不幸に叩き落すんだ!!


 殺す!!


 女共はみんな殺す!!



 だから、これは正義なんだ。

 正しき行為。悪への罰なんだから。



 彼は憎しみにかられ、憤った。

 そして、事件を知った。



 夜、人気の無い道で、女性を、背後から――。



 同志がいるのだ。

 ならば、これに乗らなければ!!


 深夜の路地。

 女性の帰宅を待ち。


 襲った。


 背後から殴り飛ばし、殴打した!!

 何度も、何度も何度も何度も何度も!!



 重傷者、死者。

 合わせて4名。


 それらはなんと、たった二日の出来事だった。


 彼は――。


 憎かったのだ。


 女性が、憎くて憎くてたまらなかったのだ。


 誰のせいで?



――。



 これは犯人の主張なんかじゃない。

 私の結論だ。

 賛否両論……いや、否定の言葉しか無いだろうが。

 どうか、被害者関係者と、加害者両方の心がわかってしまう人間の戯言だと思っていただきたい。



――恨まれるような事をしなければ殺されない。



 それが、私の結論だ。



 世の中は、一般的に、犯罪を行う側が常に最悪だとされてしまう。

 異論は無い。

 その通りだ。どんな理由があろうとも、罪を行ってしまえば、その人が悪いのだ。

 それは……わかっている。


 けど、それでもわかってほしい事があるのだ。


 これは、彼らの罪を帳消しにしようとする意図なんて無い。

 これは、“解決策”なのだ。



 理由がなければ、罪は起こらない。

 誰だって平穏に幸せに暮らしたいのだ。

 それを、罪を犯してしまえば台無しになってしまう。

 それなのに、どうして人は罪を犯してしまうのだろう?


 それは、理由があるからなのだ。


 当然だ。


 誰だって、罪を犯して刑務所になんて入りたくないのだから。

 誰だって、幸せに暮らしたいのだから。


 それなのに、罪を犯してしまう人がいる。


 何故?


 それは、理由があるからなのだ。


 その理由を理解しなくては、犯罪は減らない。


 違うだろうか?


 だから、私は彼ら罪人の罪を軽くしたくて言うのではない。

 今後、悲しい事件が起きないために、あえて言わざるをえないのだ。


 理由が無ければ、犯罪は起こらない。


 だから、不当な殺し以外の事件において、こう言わせていただきたい。


 不当に恨まれないならば、殺されないのだ。



 もちろん、嫉妬などの身勝手な恨みだってある。

 その場合は、罪人が悪い。

 どうしようもない、身勝手な事件だってある。

 その場合は当然だ、罪人が悪い。


 当たり前だ。


 だが、だからこそ、言いたい。


 恨まれなければ、殺されない。



 恨まれる理由があるから、殺されるのだ。



 警察は、そんな事を考えもせず。

 罪人は罪人らしく、誰から見ても悪でなければならないとばかりに、事実を隠蔽した。


 事件は三人の模倣犯。

 理由はムシャクシャしてやった。

 対象は誰でも良かった。


 そう、調書に書いた。

 マスメディアもそう報道した。



 だから、これは良くある事件で終わってしまった。

 何の意味も無い。学びも無い。

 次に、このような事件を起こさないための、何らかの布石さえ残さない。

 いつも通りの……ただの事件として忘れ去られる事になる。


 誰でも良かった。

 ムシャクシャしてやった。

 日頃からストレスを抱えていた。

 部屋にはアニメやゲームがあった。


 報道機関は同じような言葉を繰り返す。


『またかよwww』

『誰でも良いとか言う奴に限って弱い奴しか狙わない件についてwww』

『な、マジあれなんなん?』

『あのさぁ……』

『あのさぁ』

『あのさぁwww』

『なんで強い奴狙わないんですかねぇ』

『誰でもいいなら強い奴殺してみろよwww』


 反応はいつもの通り。

 これじゃあ、誰も学べない。


――次に、活かせない。



 別に弱い者を狙いたかった訳じゃない。

 ただ憎かった。


 女性が弱いから狙われたのではない。


 “女性が憎まれて”狙われたのだ。


 その事実は、永遠に、誰の元へも届かない。

 だから、繰り返される。


 恨まれる行為を行ったから殺された。

 恨まれる行為を行った誰かのせいで、巻き添えのように殺された。


 誰も、その事実を知る事ができない。


 きっと、また同じような事件が起こるのだろう。

 その時、きっとまた、同じような報道がなされるのだろう。


 何も学べないから、何の対策も練られず、何も変わらずに、同じ事が起きる。永遠に。



 TVは報道する。

 犯人逮捕。

 性的暴行のつもりはなく。

 加害者と漫画、アニメ、ゲームに関係性は!?


『おいw エロゲがあったとかの話どこいったんだよww』

『まぁたマスメディアお得意の二次元のせいですか……』

『あのさぁ……』

『あのさぁ』

『あのさぁwww』



 耳障りなテレビを消す。

 静寂が訪れる。


 私は、自分の部屋で一人、呆然とするしかできない。



 私は許さない。

 横暴な行為で勝手に男性から恨みを買い、その結果、勝手に恨まれて、同属を苦しめる者たちを許さない。


 フェミニズムという正義を語り、ミサンドリストという悪を成す者を許さない。

 男性を差別し、自身の有利のためだけに行動し、男性から恨みを買う女共を許さない。


 彼女たちの横暴が、同属を苦しめている現実を私は許さない。


 その現実を、私は許せない。


 女性の恨みを勝手に買って、個人の被害でなく、他者にまで撒き散らす馬鹿女が許せない。



 ……許せない。



 これは、全ての事件に対する意見ではない。

 ごく一部の、被害者が自業自得である事件に対してのみの意見である。


 全てとは言わないが、一部事件に関しては、殺される側にも問題があるのではないか?

 ならば、その行動に責任を持つべきなのだ。殺した側だけに一方的に責任を押し付けるのはアンフェアなのではないか?


 当然、全てとは言わない。

 今回の二件のような、ごく一部の事件についてのみだ。


 そして、もちろん、だからといって罪が無くなるものでも軽くなるものでもない。

 犯罪は、犯した側が悪いに決まっているのだから。


 けれど、殺される側がきちんと責任をもって行動できたならば、無くせた事件なのではないか?

 ならば、これは本当に一方的に加害者だけを断罪できる事件なのだろうか。


 それでも、被害者に配慮して、真実は報道されない。

 そりゃそうだ。

 殺された貴方の母の方が実は悪人でした、なんて被害者家族に言えるはずも無い。

 世間体的にも、そんな事実は都合が悪い。


 犯人は、犯人だけが一方的に悪者でなければならないのだから。


 けど、そのせいで、学ぶべきものも学べない。


 これら事件を二度と起こさないための対策が、練られない。


 同じような事件を起こさないためにも、その事実を公にすべきなのに。できない。


 未然に防ぐためには、それが不可欠だというのに。


 世間も、社会も、警察も、マスメディアも。

 次の事件を起こさない努力よりも、犯人憎しで叩く事で手一杯だ。



――馬鹿なんじゃないのか?



 被害者の権利ばかり見て、今後の事を考えない。

 加害者の権利を、と言うつもりはない。ただ、未然に防ぐために、と言いたいだけ。



 なのに、それを言い出せない世界がある。



 犯罪者は叩きまくれ。


 そう言わんばかりの、事件の理由と今後の対策を一切考えない報道ばかり。



 今日も、どこかで大暴れしただの、誰だかが報道されている。

 保健所で手がぶつかっただの、そんな小さなくだらないことでも、犯罪者のレッテルを貼られてしまえば“大暴れ”なのだそうだ。


 学校のいじめは犯罪にならないのに、鉄道職員へのつばかけが暴力で犯罪になるという矛盾だらけの世の中。


 くだらない。


 実にくだらない。



 蒼柳聖。


 私は人の心が読める。


 けれど、それは何の役にも立ちはしない。



 世界は、こんなにも醜く腐っているからだ。



 社会も、世界も、何もかも。



――実にくだらない。



 真実はいつも一つなんて言葉があるがあんなのは嘘だ。


 真実なんてのは人の数だけ存在する。


 一つなのは事実だ。


 そして、あんな難解な事件、起きないのも事実。


 だが迷宮入りする事件はある。


 それも事実。



 蒼柳聖。


 私は人の心が読める。


 けれど、それは何の役にも立ちはしない。



 それでも、せめて。



 私の力で、世界をよりよく導きたい。



 それだけが、私の望みなのです。




 この物語はフィクションです。

 実在する団体、組織、人物、あらゆる全てと一切関係がありません。

 このような事実は一切存在するはずもなく、事実のように書かれていようと、全ては筆者の妄想の産物に過ぎません。


 架空の地方都市を舞台とした、架空の物語以外の何物でもございません。


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蒼柳聖は心が読める 金国佐門 @kokuren666

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