正反対の君に恋をする 〜スクールカースト〜

@20191219

第一話 失神という出会い

ここは、由緒正しき瑞雲学園。全国の秀才たちが集まる日本一の学校だ。毎年受験者が、定員の5倍という人気ぶり。特に中等部の倍率は少子高齢化の中、年々上がっていくという異例の学校。そんな難関校に合格するには、IQ120以上であること。二ヶ国語以上話せること。水泳、球技、陸上、体操競技どれか一つが群を抜いてできること。容姿端麗であること。この4つがすべてクリアできないと、入学試験ですら受けることができない。そんな大前提があっての入学試験は、筆記試験、声楽試験この二つ。そして、晴れて合格するのは、わずか200人。そんな中等部に、今年初めて特待生が二人入学した。特待生とは、瑞雲学園の中でも群を抜いているものがある生徒のことで、入学試験を受けず、授業料などもろもろのお金が一切かからない、学園で一番期待される生徒のこと。一人は、瑞雲学園1と呼ばれる外見とジュニアサッカー日本代表という運動神経、IQ180以上の秀才。小野寺隼人。運動はできないし、見た目もいまいち。唯一できるのが勉強で、IQ220.世界一難しい試験と呼ばれる世界基準の試験を満点で合格。おそらくこの学園一のブスで、運動神経が悪く、一番の秀才。それが私、橋本琴音。

♪琴音side♪

はあ。私は制服を着ながら、溜息をついた。鏡に映った自分を見る。制服は、物凄くかわいい。黒のジャケットに瑞雲エンブレム、グレーのチェックのスカート、赤と黒のストライプのネクタイ。きっと美人が着ればさぞかし似合うのだろう。だが、私の場合はそうはいかない。今日は入学式。私は学校指定のスクールバックを持ってリビングに向かった。

「おはよ~。」

「おはよう、琴音。制服かわいいわね。よく似合ってるわよ。」

「お母さん。お世辞はいらないから。」

「何言ってるの。あなたはうちの誇りよ。まさか瑞雲に行くことになるなんてね。」

「私だって、普通に公立に行くと思ったのに。特待生として瑞雲に入るなんてね。もう行かなきゃ。じゃあね。」

「頑張ってね!お母さん応援してるから。」

瑞雲の入学式は、親が来ない。なぜなら、全校生徒出席の一大イベントだからだ。

私は、そんなことを思いながら平凡すぎる街を歩く。住宅街を歩いていると、近所のおばさん達が、

「まあ橋本さんのお嬢さん、瑞雲学園なのね。お金に余裕があるのかしら。」

などと囁いている。

全くその通り。普通だったら、うちなんて絶対にいけない。言うならば、お嬢様、おぼっちゃまの学園だ。私は本来なら通るはずもなかった、東京都港区青山を歩く。瑞雲学園は、青山一丁目駅から徒歩5分。三階建ての超モダンな校舎が瑞雲学園中等部だ。私は、全中学生が憧れるその格式高い門を恐る恐るくぐった。

★隼人side★

 朝が来た。俺は自分の部屋を見渡す。そんなに広くない部屋に、サッカーのトロフィーや、学業の賞状が所狭しと並べられている。ごみ箱には、昨日の卒業式でもらった、ラブレターが捨ててある。そして、クローゼットの淵には、ハンガーに掛けられた瑞雲学園の制服。

「昨日卒業式だったのに、今日には入学式か。やってられるかよ。」

と呟きながらもハンガーにかけてある制服を着る。瑞雲の制服はどこかよそよそしくて着心地が悪い。外から、騒ぐ声が聞こえる。窓からのぞくと、小学校の時の親友たちだ。どうやら遊びに行くらしい。卒業遠足って言って、遊園地に行ったり、映画を見に行くって言ってたな。俺はいけないけど。もともと、瑞雲なんて行きたくなかった。普通の公立の中学校に入って、友達と喧嘩したり、怒られたりして、みんなで受験勉強したりして、ってつもりだったのに、母親が瑞雲の誘いに乗ったせいで、卒業の翌日に入学なんてことに。しかも、サッカー部に強制入部。サッカーは好きだけど、違うことをやってみてもいいななんて考えてたのに。

「隼人!学校に行く時間でしょ!」

母親の声がする。

「行くよっ!」

そう叫んで、急いで新品のローファーを履いて外に出た。

それから、1時間がたち、俺は瑞雲学園の校門の前に立っていた。

「小野寺隼人?」

低めの男子の声がする。後ろを振り向くと、そこにはガタイの良い、いかにも球児という感じの坊主といかにも頭のよさそうなメガネのひょろっとしたチビが立っていた。(でも顔はなかなか。さすが瑞雲クオリティ)

「俺が小野寺隼人だけど。」

すると正反対な二人がこっちに駆けてきた。

「僕は、富永浩太。よろしく。」

とチビが早口で言った。

「俺は、館林進一。よろしくな。」

とガタイの良いほうがいった。なんとなく話が合いそうで、面白そうなやつらだったから、一緒に体育館へ向かった。そしてずっと気になっていたことを聞いた。

「なんでおれの名前を知ってたんだ?」

すると、浩太が俺の目をしっかりと見ていった。

「そりゃあ知ってるよ。瑞雲学園始まって以来の特待生だからね。ばっちり調べたよ。小野寺隼人。サッカージュニア日本代表で、IQ180以上の秀才。小学校時代は、モテモテで年間15人から告白・・・・・・」

俺は浩太を睨んだ。

「これ言っちゃだめだった?」

上目づかいで聞いてくる。

「ダメに決まってるだろ。っていうかその情報、誰から聞いたんだよ?」

「これは企業秘密ということで勘弁してもらいたいですね、ハイ。」

俺はぷっと吹き出した。こいつは面白い。

「それより、もう一人特待生がいるんだろ?確か、超優秀らしいけど。」

「そうそう、今日来るまでずっと浩太が語ってた奴だろ。」

と進一が言った。

「そう!超優秀なんだ。橋本琴音。IQ220以上の天才。これはあのアインシュタイン以上なんだよ。たぶん世界一頭の良い中学生。それでいて、顔もそこそこ可愛い。ほら。」

と、浩太が写真を見せてきた。どうやら、卒業式の写真らしい。真っ黒な肩までのミディアムで、まつ毛がくるんとたれ目な目。真っ赤な袴を着ていて、よく似合っている。どちらかというと、和風な顔で、地味な感じの美人だ。

「へえー、あの子じゃない?」

進一が、前を歩いている背筋のピンとした女の子のことを指差した。

「絶対そうだよ!隼人行ってきてよ、お願い!」

浩太が俺に、向かって必死に言った。

「なんで、俺なんだよ?浩太が行けばいいじゃんか。」

「いやいや、隼人は第一印象がこの学園で一番いいからね。そこは隼人が。今度、アイスおごるからさ。」

「じゃあ、絶対おごれよ?」

俺はそう言って、前の子の肩をツンツンとたたいた。

「橋本琴音ちゃん?」

「ハイ。そうですけど。そちらは?」

明らかに警戒心むき出しの声色。写真の通り、影の薄い美人だ。すぐ忘れていしまうタイプの。

「俺は、小野寺隼人。君と同じ特待生なんだ。これからよろしくね。」

笑顔を添えてみる。すると、琴音は、ぱたっと倒れた。

「橋本さん!大丈夫?」

肩をゆすってみる。反応はない。しょうがない、保健室に運んでやるか。俺は先生らしき人に声をかけた。

「すみません、保健室ってどこですか?」

「第一校舎の横の別館みたいな小さな建物ですよ。大丈夫ですか?お手伝いしましょうか?」

「大丈夫ですよ。これは僕のせいなので僕が責任を取らないと。ご厚意ありがとうございます。」

よいしょっと、琴音をおんぶする。軽い!これならすぐだな。俺は保健室らしき建物へ急いだ。すると、途中で琴音が目を覚ました。

「橋本さん?大丈夫?」

「ひゃっ!」

そして、琴音はまた倒れた。やれやれ、やたらと失神する天才か。手がかかる。

これが、俺らの・私たちの出会いだった。


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