妄想捩じ込みシンクロニシティー

naka-motoo

妄想捩じ込みシンクロニシティー

 わたしは過去とシンクロする。

 そういう能力を授かって産声上げて。

 女子高の一員と今はなってる。

 一番シンクロしたい過去は。

 まだ戦争が続いていたあの日。


『ねえ。死ぬのかな。わたしたち』

『どうかな。分かんないよ』

『まだ死にたくないよ』

『わたしだって』

『昨日、あのひとが手を振ってくれたの』

『へえ』

『河向こうから。ちょうど連峰の稜線に夕日が落ちていくところで。知ってた?日が沈み切るその一瞬手前でね、稜線が真っ黒になるの』

『知らなかった』

『そうなの。それで夜になるのよ』


光ヶ崎ひかりがさき!」

「ふあ?・・・」

「『ふあ』じゃない。またか」

「はい。シンクロしてました」


 白昼夢を見た。

 授業中に。


「ねえ光ヶ崎。その女の子たちってかわいいの?」

「そういう言葉じゃ表現できないよねえ。可憐、ていうかさ」

「戦場なんでしょ?」

「戦場だよ」


 88回目の白昼夢だったよ、今日のが。

 88回目なんだよ。


『幻燈! 早く逃げて!』

『ダメだよ。もう絶望してしまいたい』

『だって、あのひとに遭うんでしょ?』

『昨日、死んだわ』

『えっ・・・』


「はっ・・・!」

「大丈夫? 光ヶ崎?」

「大丈夫・・・じゃない、みたい・・・」


 突然、わたしはそこに居た。

 今鳴海が話しかけてきてたはずなのにもう居ずに。


 青い空に、青よりも波の照り返しの白がまぶしい、表面上は楽園のような日差しの中に、わたしは立ってた。

 小説を思い出した。


 その小説はガトリング砲に立ち向かう武士の小説だったのに。

 どう見たってわたしの今いる場所はただひたすら銃弾と砲弾と火炎放射を浴び続けるそういう場所。

 人が斃れて、でも伸ばす手がね。


 どうしても届かないんだ。


 手が届かないなら、じゃあ、どうすればいいの?


 赤ちゃん。

 女の子。

 男の子。

 お姉ちゃん。

 お兄ちゃん。

 おかあさん。

 おとうさん。

 おばさん。

 おじさん。

 おばあちゃん。

 おじいちゃん。


 みんな、死ぬの?


 ねえ。


 カシューン!


 炸裂音がするよ。

 でも音だけじゃない。

 こんなに離れてるのに、頬が焦げそう。


 ギャギャギャギャギャギャギャ!


 残響音が鳴った瞬間にまた新しい弾丸が発射されるからこんな音になるんだね。


 血、って、何色だっけ?


 少なくともわたしの中では血の色の定義は変わったよ。

 どす茶色だよ、血は。


『ねえ。逃げなよ』

『え』

『死んじゃうよ』

『やだ』

『じゃあ早く』


 パキン!


 ああ。小ぶりの爆弾ってこんな音なんだ。

 つい聞き入っちゃうな。


『早く行くんだ!』

『あ。あの・・・』

『片腕を無くしても、それでも!』


「光ヶ崎!」

「う・・・ん」

「大丈夫? コーヒー、飲む?」

「ううん。要らない。ねえ」

「なに」

「分かったよ」

「なにが」

「わたしのひいおばあちゃんの、左腕がない理由」


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