第二話 信蔵vs一 1

前回のあらすじ

空飛ぶアジトで元十二支のメンバーと出会った

信蔵が『能力保有者スキルホルダー』だったらしい。一と戦うことになった。

信蔵と一の絶叫が響き渡った。

    ☆   ☆   ☆

「どうしてこうなった!!」

信蔵は嘆くように叫んだ。

今信蔵と一は『第一戦闘訓練室バトルルーム』にいた。模擬戦をするためだ。『第一戦闘訓練室バトルルーム』は無人の仮想空間を作り出す部屋で細かく設定を調整できる。模擬戦をやるにはもってこいな部屋だった。

今回の設定はこんな感じとなっている


   場所:六宮むつのみや学園高等部

   気温:21.6℃

   風速:校舎外:約6~10m/s   

     校舎内:約0~1m/s

   気候:晴れ

   時刻:16:25

   季節:春

ステージ内:利用可能

オブジェクト


 『六宮学園』とは信蔵と『彼女』の通う私立の進学校だ。ファンタジーなのに学校があるのかというと答えはイエスだし、もちろん大学までしっかりとある。この世界には『スキル』というものが存在し、種族というものが存在している。だがそれと同時に文明が発達しており教育施設や住宅街などがあり権利義務の保障もなされている。教育を受ける権利や生存権も存在する。もちろん貨幣制度もしっかりと存在している。


 そこでみなさんは疑問に思うかもしれない。どうして信蔵が私立高校なんかに入れたのかと。正確に言うと信蔵は幼稚園の頃からこの『六宮学園』に通っている。しかし『六宮学園』は孤児を受け入れたりしている慈善事業を行っている団体ではない。当然入学するのにも授業を受けるのにもお金がかかる。上流階級がうような学校ではないにしても、だ。どうして彼が私立の学校に通えたかというと、偏にそれは『』のおかげだ。『』が入学金から授業料から『六宮学園』に通うのに必要な諸費用すべて払ってくれたからだ。もちろん、無償ではない。無償ではないが、学校に通えなかった信蔵を(孤児であったら学校には基本的に幼稚園から通えない)学校に通えるようにしてくれた、その事実だけでも信蔵は大変な恩を『』に感じているのだ。

 

 しかも、信蔵は高校に入って間もないころとても荒れていた。『』はそんな信蔵のそばにずっといて支え続けてくれていたのだ。だから信蔵は『』の存在を疑ったとき自殺にまで追い込まれ、『』を助けるためならどんな危険に身を突っ込むことも辞さない覚悟を持つことができたのだ。


 ・・・と話がそれた。『六宮学園』は敷地面積500平方キロメートルを誇るネクスティア最大の学園。そもそもこの世界には5種類の学校がある。一つ目は魔法能力の習得を目指す魔法学校。二つ目は軍隊や騎士団に入る兵士を育成する練兵学校。三つ目は学問の研究と発展を目指した学士学校。四つ目は冒険者を目指すものが入るアカデミー。そして最後にその全てを備えた総合学園である。総合学園さえあればなんとかなるんじゃないかとなりがちだが覚えうる内容の深さがやはり総合学園の方が浅くなってしまう傾向もあったりする。『六宮学園』は総合学園にあたる。つまり、信蔵はすでにある程度の戦闘技術は身に着けている。これはほかの一般人に関してもそうだった。こんなファンタジーな世の中なのだ。どこに危険が潜んでいるのかわからないのは皆さんの認識で間違っていない。その上、信蔵は一般人の中ではとりわけ筋のいい青年だった。ただし、一般人にしては、ではあるが。


「ほんと、どうしてこうなった!!?」

 信蔵はまだ愚痴っていた。そんなに愚痴っても仕方ないことなのだが、まあ愚痴りたくなるのも仕方ない。

「一さんは前の十二支だろ?そんな相手と戦えるはずないだろ」

 信蔵は負けるのが怖いと思っているわけではない。今の信蔵の強さは『彼女』を助け出すという意思の強さである。ついでにいうとそれをさらった奴らに対する恨みの強さでもある。それを向ける相手に一は当てはまらない。無駄な犠牲は出したくないと思っているのだ。黒樹はそんな信蔵の心情を察して尋ねる。

「信蔵君、本気かい?流石に元とはいえ十二支なんだから一も君に簡単には負けないよ?」


 もちろんだが、一が負けるとは思っていないが信蔵が負けるとも思っていなかった。元十二支は元十二支だ。それに負けるようならば影夢には到底かなわないということだ。ただで負けてもらっては困ると黒樹は考えていた。


「もちろん負けるつもりはないですよ。あいつを助けるまでは全部勝ちます」


 信蔵は自信をもってそう告げた。ただし、信蔵もそこまで簡単に勝てるなどとは考えていない。黒樹が言ったように一は元十二支なのだ。少し前までは普通の高校生(この世界の高校生は戦闘の授業もあるのだが)だった信蔵には、当然普通にやっては勝ち目がない。あるはずもない。だが場所は信蔵が通っていた六宮学園なのだ。時間帯の指定まで信蔵が許された。そこに信蔵の勝機があると考えていた。


 上にあるスピーカーから声が響く。


「まあ、今回は負けとけや。俺にだってプライドはあるからな。負けてやれねえよ。今回は負けて経験積んどけ。」


 一も影夢との戦いを生き残ったのだ。ただの高校生に負けるとは、到底考えられなかった。これは自信のあるなしとかそういった話ではない。

 しかし信蔵の自信はゆるがない。


「それじゃあ始めるよ。」

 

 黒樹の宣言の後『第一戦闘訓練室バトルルーム』の景色は夕方の学園へと姿を変えた。


 ☆     ☆     ☆

 今回は六宮学園の説明をしよう。六宮学園は先程述べたように総合学園だ。ついでにいうとこのネクスティア初の総合学園である。もともと、この世界に職業選択の自由はなかった。親の職業に子どももつく。そういう世襲制が基本の世界だった。そこに異世界からやってきた六宮鋭治ろくみやえいじがこの学園を作り、職業を選べるだけの学を与えた。……異世界人がいるのかだって?ああ、まだ話してなかったね。答えとしてはいるよ。異世界人は世界各地にいる。ごまんとってほどじゃないけどね。異世界人であることを明かしているものもいるし、明かしていないものもいる。ただし異世界人には世界を救う権利はない。世界を救うことができるのはその地に住む人間だけだ。だが、彼らは信蔵くんたちを手助けしてくれるだろうし、邪魔もしてくるだろう。人間みんなそうだって?だから、そういう他の人間と変わらない存在だっていう話だよ。

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人生に絶望した少年がなんとか世界を救う 雨宮r @amemiyar

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