第一話 『能力保有者』

 前回のあらすじ

 九月信蔵くがつきしんぞうを連れ去られてしまった。しかも彼女のことを誰も覚えていない。人生に絶望していた九月のもとに風見かざみケディが現れる。ケディは九月が救世十二支だと告げ、彼女を助けるすべがあることを教えてくれる。九月は救世十二支になることを決め、ケディにアジトを案内してもらう。そのアジトは空に浮かんでいた。


                  ☆  ☆  ☆


「おぉ~。こいつが新しい十二支か」


 アジト(天空建造物)の中に入ると騒々しい声が鳴り響いた。


「ただいま帰りました」


 ケディは礼儀正しくあいさつした。

中には三人の男女がいた。


「お帰りケディ。彼が次世代の十二支だね。何の十二支?」


眼鏡をかけた身長が高く優しそうな男性だ。


「彼は『』です」


そうケディが答えた瞬間大きく笑い声が響いた。


「そうか。そいつが『犬』か。おもしろいな」


そう言いながらがたいのいい褐色の男は立ち上がり大声を出して笑っている。


「まずやらなくちゃいけないことがあるでしょ」


そう言ったのは髪の長いお姉さんのような女性だ。

三人ともモデルをやっていてもおかしくないくらい整った容姿をしている。


「あなたは狗井坂いぬいざか信蔵君ね。私はティア。そしてこの眼鏡が黒樹くろきで、もう一人の暑苦しいのがはじめ。私たちはもともと救世十二支だったのよ。」

「そうだったんですか。これから仲間として、よろしくお願いします」

「あぁごめんね。私たちでは『あなたの十二支』には入れないの」

「どういうことですか?」


九月は首をかしげた。


「ちょっと深い事情があってね。今は言えないんだけど。まぁ君やほかの十二支のサポートや人手が必要な大規模な戦闘にはガンガン参加させてもらうから。よろしくね」


そう言ってティアはニコッと笑った。


「改めてよろしくお願いします。くが・・・狗井坂信蔵です。」


九月は言い間違えそうになった。当然だ。言いなれていないのだから。ただ、九月は自分の本名がばれ狗井坂ではないとばれたら彼女を助けに行けないと思っていた。全部杞憂なのだがまぁそういうわけで九月は彼らをだまそうと思った。(まぁぜんぜんだませてないんだけどね)


「で…君の武器はなんなんだい?」

「武器?!!」

「そう武器さ。ほかの十二支なら大体分かるんだけれどね。『馬』なら何らかの武術を極めた人がなるし、剣士は『虎』だから剣を使うことが多い。だが『犬』は違う。その代によって変わってくる」


黒樹はそう言った。

しかし、九月は武器を持ったことがない。闘いとは無縁の生活を送ってきたからだ。


「武器は持ったことがないです。戦いもあいつがさらわれたあの時が初めてだったんで。まあ、あいつがさらわれた時も竹箒で戦ったんで武器とは言い難いっすけど…」

「竹箒で!!?」


ケディは驚きの声を上げた。当然だ。魔王の軍勢はたとえ下っ端だろうと竹箒で戦えるほど弱くはない。それに傷らしい傷は一つも負っていないのだ。驚きの声の一つや二つ上げたくなるというものだろう。


「あっ、当然っすけど二本使いましたよ」


二刀流です、と自信ありげにいう九月。しかし一本だろうと二本だろうとあまり焼け石に水だ。どころか素人が下手にやると刀(今は箒だが)の方に振り回されることになる。そうなったら威力は半減だし隙だらけだ。


「いや~あの黒仮面強すぎですよ。影移動したり・・・あれが魔王軍の平均レベルなんすか?だとしたらやばいな~。まあ次は勝ちますけど!!」


ポリポリと頭をかく九月。しかし黒樹の顔は珍しく驚愕の色に染まっていた。黒仮面に影移動と来れば一人しか思い浮かばない。


「信蔵君。本当に黒仮面の男なんだね?」

「へ?俺なんか変なこと言いましたか?」

「いや。問題ない。・・・・・・しかし通常の武器ならいざ知らず竹箒で奴の相手取って無傷とは…」


ただの高校生がである黒仮面の男と戦ってぴんぴんしているのがそもそもおかしい。

しかし黒樹にはその原因に心当たりがあったらしい。


「信蔵君。君は『能力保有者スキルホルダー』かもしれない。」

「『能力保有者スキルホルダー』ですって!!」


ティアが珍しく驚きの声をあげる。彼女はめったに感情を表に出さない。といっても無感情というわけではない。笑いもするし涙も流す。ただ人前では本心を見せるようなことはめったにしないというだけだ。これは彼女の剣の師匠が一番初めに教えてくれたことらしい。

そんな彼女が驚いたということはよほどのことだ。


「スキルホルダー?」


しかし九月はよくわからないといった顔をしている。

そんな九月を見てケディは驚きながら説明する。


「シン。あなたの周りにもいると思うけど『能力保有者スキルホルダー』っていうのは能力者のことを言うのよ。正式名称が『能力保有者スキルホルダー』というわけ」


九月は合点がいった。能力者ならうちのクラスにも数人いる。しかし、自分が能力者だとは思っていなかった。というか、自分にはこれという能力がなくそつなくいろいろこなせる程度だったから少しわくわくしている。自分がどんな能力を持っていたのかが分かることが。


「たぶん勘蔵さんならわかってるんだろうけど・・・なにか『スキル』について心当たりがあるかい?勘蔵さんに聞いたことでもいいけど」

「いや、心当たりはないです。というか勘蔵ってだれっすか?」


九月の頭の上にははてなが浮かんでいる。


「あちゃー。それすら聞かされてねーのか。狗井坂、おめーのおやじさんだよ。狗井坂勘蔵さんだ」


一は頭を抱えてそういう。

九月…いや、信蔵は驚いた。まさか自分に親がいるとは思っていなかったからだ。いや自分が生き物である以上親はいるはずなのだが、幼いころから孤児院で生活してきたから物心がついたときには親という存在はいなかった。

狗井坂のはずなのに九月という名字だったのはそういう理由だった。

ちなみに九月という名字は九月の終わりごろに拾われたという安直な理由だったりする。信蔵という名前は彼がその名札を握りしめて捨てられていたからだそうだ。


「えっ?いやっは?父さん?俺に父さんなんかいるんですか?」

「そりゃあいるわよ。シンも人間でしょ?」


ケディが突っ込む。


「どこにいるんですか!!こんなに俺に苦労させてどこをほっつき歩いてるんですか!!」


信蔵は無性に腹が立ってきて声を荒げた。しかし黒樹は首を振り、


「すまない信蔵君。彼は先の戦いで行方をくらましているんだ」


と申し訳なさそうに言う。


「さて、話を戻すけど君の『スキル』に関しては大体予想がついてる。六魔将の一人影夢幻魔を相手に無傷で退けたんだ。それも竹箒でだ。この時点でこんな芸当ができる『スキル』のパターンは武器使用に関するものということがわかる。」


スラスラと述べていく黒樹。


「武器使用に関する『スキル』だと3種類ほど考えられる。」


そして指を3本立てて続ける黒樹。


「1つ目は竹箒専用の『スキル』であるという可能性だ。まあこれは使い勝手が悪すぎるのでできれば違う方がいいと願っている。そして2つ目は棒状の武器を使用することに関するスキルだという可能性。これの可能性が一番高い。だが、僕は3つ目の武器使用全般に関するスキルだと踏んでいる。」


どうしてですかとケディが訊ねる。


「竹箒は純粋な棒武器とは認めてもらえないからね。」


武器として認めてもらえるかどうかも怪しいと黒樹はそう言う。

信蔵はどうして竹箒が純粋な武器として認めてもらえないそんなことを黒樹が知っているのか疑問に思った。

だが話はどんどん進んでいく。


「一番の理想を述べるとしたら武器ではないものでも武器に近いものならば武器として扱える『スキル』だといい。」


信蔵君は素人だからね。そういってパンっと手を叩く。


「まあいろいろ理屈をこねたが試した方が早い」

「試す?」


小首をかしげる信蔵。


「今から君には一と真剣勝負の模擬戦をしてもらう」

「「は?!!ハァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!?????」


信蔵と一の絶叫が響き渡った。



   ☆  ☆  ☆



さて、本日はネクスティアにおける『能力保有者スキルホルダー』についてお話しましょう。お送りいたしますは私、草津仁太くさつじんたでございます。ネクスティアには剣も魔法もあります。魔法にもさまざまな種類がありまして、魔法を使うのに『スキル』は必要ありません。しかし『スキル』により威力を底上げしたりすることができます。『スキル』とは固有のものであり、『同スキル』を持つことはありません。『能力保有者スキルホルダー』は現在ネクスティアの人口の1割を締めています。また、ファルムス協会は魔力排斥主義であり、能力至上主義であります。

 以上草津仁太がお送りいたしました。

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