称号スキル
「今からこの水晶を使ってソウヤ殿に称号スキルを付与します」
一般的に知られる能力獲得の為のプロセスは3つあり、属性スキルのような先天的なものを除けばそのいづれかに分類される。
先ずは普通に鍛錬で身に付ける場合。
次に元々の素質である程度の方向性が決まっている場合。これは所謂特殊能力なんかが代表的で、生まれ持って備わっている訳ではないがその人の人柄と人生経験的に予測を立てることが出来る。
一見すると前に紹介したケースとそんなに変わらないと思うが、その実本質的には先天的なものに極めて近い。
例えばアルシェがどんなに刀や槍を振るったとして、元々武芸の才能が無い彼女に【黎明の神器】は宿らない。あれは湊のような節操なしだから発現したのであって、彼女でなくとも経験値ゼロの状態からいきなり複数の武器を掛け持ちすること前提の能力を有する愚か者が、果たして何人居るだろうか。一流の武芸者ほど一つのことを極めると云うが、そういう常識人にこそ湊の能力は似合わない。
そして最後。
上2つのどちらにも属さず、称号を得ることでしか発現しない通常能力を俗に称号スキルと呼んだりする。
「でも称号を得たからと言って必ずしも能力が刻まれる訳ではない。そう言ったのは他ならぬアンドレーフさんですよね」
「ええその通りです。称号による恩恵にはスキル以外にもアビリティの上昇や魔力消費を抑えるといった効果を発揮するものもあります。ですがソウヤ殿のような剣士タイプは高い確率でスキルを授かるので強ち間違いではないのですよ」
称号スキルには加護や名誉などといったモノもこれに含まれており、アルシェのように高い地位にいる者ほど肩書きが多くなる傾向にある。
実際先天的なものを除けば彼女が獲得した能力の半分は称号スキルであり、これらの能力は普通に会得したものと比べて強力な効果を持つものが多い。中には罪人であることを示すネガティブな称号もあるが、これ等のスキルは存在自体稀有であることから稀少スキル、それより上は超稀少スキルなんて言われたりもし、欲しがる者が大半だ。
「そして称号スキルを得るのに最も簡便かつ安全であるのがこの
これが行うのは文字通り継承と、伝授。
継承については追々語るとして、伝授の方は今述べたように称号を得たい時に使用する。ラクマリアを用いたとて必ずしも恩恵を受けられるとは限らず、当然ながらシステムが定めた条件に達していない場合は無効となる。
例外として職業に関することなら一人一つまで自由に設定でき、その後変更したり新たに追加したい場合には従来の方法に則ってもらう事になるが。
「普通の人はこれを使って剣士やら商人の称号を得ますが、
何処か遠い目をしつつ、それでいて瞳の奥に確かな熱を感じる笑みを浮かべながら滔々と言葉を紡ぐ。表情を変えることすら稀とされる彼がそんな分かりやすい変化を遂げるほど今の主君を慕っているのだと分かり、何人かが驚いた様子をして見せる。
「じゃあ爽弥さんだけなのもうち…私達がまだ特殊能力に目覚めていないからっていうのが理由ですか」
「ええその通りです。今称号を授かっても二度手間なので今回は機会が無かったという事に。ステータスに拘り過ぎてもそれはそれで問題ですから」
レベルが低い内から能力に頼りきりになってしまうと後で伸び悩む。爽弥のように素質がある程度認められているなら慣らす意味で授かることもあるが、未だどんな能力かも分からぬ子達に同じことをする意味は薄い。アンドレーフの言うように二度手間になるのがオチだ。
「そういう事なら躊躇う理由はありません。この水晶に手をかざせば良いんですか?」
自分だけという事もあり僅かに優越感に浸る。アーティファクトの上に手を掲げ、アンドレーフに良否を問うた。
「そのままで結構です。そこに魔力を流したら発光するまで待っていて下さい」
案外簡単なんだなと心の中で思いながら言われた通りの手順を踏む。
最初に飛ばされた時は魔力を流す事すら儘ならなかったが、4日目辺りでコツを掴み今では全員出来るようになった。手掌から僅かな温かみを感じると、うすぼけた光と共に水晶がぼうっと音を立てる。
「……」
「無事完了したようですね。もう解いても大丈夫ですよ」
「えっ、これで終わりですか」
「はい、ステータスを開いてみて下さい。称号と共に何かが変化している筈ですから」
説明が簡単なら結果もすぐかと心の内で吐露し、言われた通りステータスを開くと確かに変化が認められた。
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個体名 ソウヤ=イクマ
種族:
称号:「勇者」「異世界人」「特殊保持者」「近接魔法剣士型」
力:320
体力:310
俊敏:310
精神:300
魔力:385
【特殊能力】
《反転の
【通常能力】
《光属性 Lv2》 《闇属性 Lv1》
《剣術 Lv1》 《付与拡張術 Lv1》
《身体強化 Lv3》 《カリスマ Lv1》
《観察 Lv2》 《異世界翻訳 Lv15》
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レベルが上がっているのは先程のテストなど含め、この世界で経験を積んだからだ。最初の内はモンスターなど倒さずとも鍛錬で経験値を得ることが出来るのでここでは然して重要ではない。
それより注目すべきなのは称号の欄の「
「どうですか、何かしらの変化はあったでしょう」
アンドレーフに促され、それらを説明する。
「…ふむ、「
「ふおおぉ、カッコいい~!」
後ろでオタク連中が感動に打ち震えているが、無視して話を続ける。
「字面だけ見るに特殊能力と併用して使うことを前提にしてると思われます。そして放出型や干渉型を苦手としていることから魔法は付与特化のようですね。わざわざ近接などと限定にしてる辺りそれは明らかでしょう」
見方を変えると遠距離での攻撃手段が限られているということなので、周りとの連携を意識した戦いが求められる。【反転の剣】の特性が「属性付与」で、今回得たスキルも付与なのを考えるとそれしかない。
「そうですか…。魔法を撃てるんだったら戦闘が楽になると思ってたけど、流石に多くを望みすぎたかな」
至極残念そうに首を振ると、それを見かねた伊織と柚乃が横から口を挟む。
「そんなことありませんッ、爽弥君は謙虚な方です! それに遠距離攻撃なら任せて下さい。爽弥君が苦手なところをカバーするのも
「そうよ遠くの敵なんて柚乃に狩らせておけば良いの。
爽弥に向けられているようで、しかし私という言葉を強調していることからも牽制の意味が多分に含まれているのは確かだ。二人の視線が火花を散らし、部屋の空気感を僅かに上昇させる。
「あのー、一応
「我々には縁のない世界ですね。そのまま爆発しろ」
話に加われなかった残る前衛2人も、ある意味修羅場と化した様子を皆と一緒の所から眺めた。
幻想九尾の転生録《プロローグ》 暦月 @kimuchinabe05
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