第32話

ほね太郎が雪月家来を真っ二つにすると、シャケを始めバーティーメンバーから歓声が上がった。

しかし、その様子にアキは真っ二つにされた雪月家来にどこか違和感を感じた。


おかしい、なんで真っ二つになってそのままなんだ?


アキがそう不思議がっていると後ろからシャケが小突いて来た。


「なーに変な顔してんだよ、俺達で今まで誰も勝てたことの無い敵を倒したんだぞ?」

「お前はほとんど何もしてないけどな」

「んなっ、俺の回復がなけりゃ今頃全滅だぞ?」


アキの冗談にシャケがのり、全員で笑っていると不意に真っ二つになった雪月家来が上半身を浮遊させ、下半身の上に乗ると動き出した。


「まだ生きてたか!!」

「また、れよ……我はもう戦えぬ」

「喋った?!」

「「シャベッタァァァァア!!」」

「そこなバカ男二人うるさい」


アキが後ろにいるバカテンションの男二人を黙らせると雪月家来はアキの目の前へと近付いてきた。

それにアキは警戒をし、いつでも攻撃を受けれるようにしていた。


だがその警戒は無駄に終わった。

雪月家来がアキの目の前で膝を付き、頭を垂れたからだ。


「…………ふぁ?」

「若、いや……若はもういないのだったな、お主なんと申す」


全く持って訳の分からない状況にアキが戸惑い呆然としていると、後ろからシャケがちょいちょいとつつき現実へと引き戻した。


「あ、ああ、名前だな?アキだ」

「アキと言うのか、アキ、お主に我が主であった者の形見を受け取ってはもらえぬか?」


雪月家来はそう言うと帯刀していた刀を朧気な腕で掲げアキに差し出す。


「頼む、我が消えればこれすらも消えてしまう。だから、我が主がいきた証を……頼む」

「わかった、使ってはやれないが証を持っておくぐらいはするさ」

「ありがとう、たけき美しい姫よ」

「はぁ?!おま」


アキが雪月家来に何か言おうと口を開いたその瞬間、張り詰めた糸が切れたのか雪月家来の身体が塵となり銀世界へと消えていった。


「俺は男だ馬鹿野郎!!」


雪月家来が消え去った後には彼の甲冑とアキの叫び声を残った。

ついでにシャケの腹を抱えて爆笑する声も響いていた。




~~~




アキは先程までの疲れにより猫背になりながらぐでんぐでんと身体を揺らしながらシャケ達と一緒に歩いていた。


「あぁ、なんかどっと疲れた……」

「そりゃあんだけはしゃいでりゃな、お、腕生えてきた気持ち悪」


アキの愚痴を軽く流したシャケは、時間経過により復活した腕をマジマジと見て呟いていた。


「私の方も生えてきたけど、ニュッて生えてきて気持ち悪いね」


ミーの方も手が生えてきたらしく苦笑いを浮かべながら刀を振り調子を確かめていた。


「おいバカミー、歩きながら武器を振るな当たったらどうすんだ」

「ちゃんと調整してるから大丈あっ…………」


ミーの素振りに呆れた様子でムイスラが叱るがそれは無駄に終わった。

ミーの手から黒猫丸がすっぽ抜け前にいたシャケの背に突き立てられた。


「ミーィー?」

「あ!その!ごめん!!」

「鉄拳制裁!!」

「ムギュッ?!」


ミーの必死の謝りも虚しくシャケの拳骨がミーの脳天に入り、ミーは短い声を上げ両手で頭を押えうずくまった。


「全く、続けてBOSSに行こうとしてるってのに何してくれてんの?」

「ご、ごめんちゃい」


涙目で謝るミーにシャケは溜飲が下がり、黒猫丸を引き抜き怪我を治療すると黒猫丸をミーに返す。


「さっさとBOSSを終わらせよう、さっきの戦いで何となく戦い方は分かったからいけるよな」

「はい!」

「これでいけなきゃ困るな」

「あたりめーだろ」

「僕がいれば大丈夫ですよ」

「お前はさっきほとんど何もしてないけどな」

「私と黒猫丸に任せて!!」


シャケの質問に各々が応えるとシャケはBOSSの待つ部屋の扉を開け放った。


そこからは先程と変わらず、アキが引き付け範囲攻撃などを全て防ぎ。シャケ、ミー、タブリンが隙の出来た所に物理の強烈な一撃を入れ、エストは魔法でのダメージを与え削っていった。


因みにムイスラは相手のモーションなどを見て次の攻撃の予測、それに合わせた指示、仲間へのアイテムなど色々な役割をしてサポートに徹していた。


そして十分もかからないうちにBOSSであるウィンタージェネラルの討伐が完了した。


「なんか弱かったな」

「いや、さっきのが強すぎなだけだ」


意外とあっさりと終わったことにアキが感想を漏らすと、ムイスラがため息混じりにそう言い返してきた。


「まさかあいつと出会ってその上勝っちまうとはな」

「だな、アキがいてくれたおかげかね」


ムイスラが若干放心状態に入りながらそう漏らすとシャケはアキの方を向き、ニッと笑いながら言う。


「アキちゃん、良かったらまたパーティー組まない?」

「あの、できたらまた行きましょう……だめ、ですか?」

「そ、その時はよろしくな、基本的にソロだから逆に助かる」


パーティーの温かさに当てられたアキは少し照れながら言葉を返し、その後全員とフレンドとして追加しログアウトしたのだった。



イベントまで残り25日

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