第2話 続・婚活が仕事より難しいって本当ですか

「いやー、ルリちゃん来てくれてほんとによかった! ありがとね」

「いえ……」

時刻は夕方6時。

梅雨入りが宣言されたばかりのこの時期、まだまだ空は明るいが、海の近くにいるとノースリーブでむき出しになっている腕に当たる風が冷たく感じられる。

そう、ここはとある港。

目の前には、電飾で飾り立てられた大型クルーザーが一隻。

そして隣には美女。

膝丈の黒のスーツに、胸元からは控えめなフリルを覗かせ、ロングヘアをアップにした佇まいは一見シンプルだが、着こなす人間自体がゴージャスな雰囲気を放っている為、人目を引かずにはおれない。

首から下げた『関係者』のプレートがなければ、今宵の男性参加者たちが我先にと殺到したことだろう。

しかしながら彼女は、関係者どころかこの『ハイスペック男性と仲良くなりたい☆カワイイ女子集まれ☆』と銘打ったパーティーを主催するイベント会社の社長である。

「可愛い女子が何人かでもいてくれると、その他大勢もなんとなく可愛く見えてくるから不思議よねー」

「ちょ、いいんですか主催者がそんなこと言っちゃって!」

「いいのいいの、まだそんなに人来てないし」

近寄りがたい雰囲気の彼女が、その実明朗快活で地声も大きい、姐御というよりアニキとでも呼びたくなるようなさっぱりとした性格であることは瑠璃もよく知っている。

かつて職場の先輩であった彼女の名は、横田弘美。

現在の瑠璃の上司の妻である。

尊敬する先輩と、長年憧れ続けた職場のエースが結婚したのは2年前のこと。

弘美は結婚を機に独立し、小さなイベント会社を立ち上げた。

最近では小さい会社ながら斬新な企画を打ち上げると、業界でも注目されているらしいと部長経由で聞いている。

「やっぱりこの時代、婚活業界はどんどん進化していくと思うのよね」

「はぁ」

「色々あたためてる企画はあるんだけど、最初はオーソドックスなパーティーで現状を把握したくて、協力をお願いしたわけ」

それに、と瑠璃を横目で流し見る。

「婚活、うまくいってないんでしょ? 直樹から聞いたんだけど」

この仲良し夫婦が、と内心で毒づく。

そもそもなぜプライベートも極まれりな瑠璃の婚活情報が、職場の上司にだだ漏れなのか。

悲しいかな、社会人になってからというもの仕事が面白すぎて、プライベートをおろそかにしすぎた結果、学生時代の友だちとは疎遠になり、職場の人間関係が全てとなってしまった。

必然的に相談ごとは、仕事・プライベートの区別なく同期や同じ課の人間にすることになる。

するとなぜか、職場の誰に相談しても婚活関連の相談ごとに限り、翌日までに社内メールで情報が共有(漏洩ともいう)されている。

じゃあ相談なんかそもそもしなければいい、という話になるが、そうもいかない。

一つには、瑠璃の経験不足から、恋愛がらみのアドバイスしてくれる存在が必要であるということ。

もう一つは、婚活それ自体が難解かつ理解不能であり、毎度毎度価値観が180度変わるような体験を短時間でさせられてしまうが故に、誰かに話さずにはいられないという理由が挙げられる。

婚活宣言から早3ヶ月が経過しようとしているが、忙しい仕事の合間を縫って参加した婚活パーティーおよびその後のデートは、いずれも不本意な結果に終わっている。



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婚活中の三十路OLが異世界トリップしたらハイスペック貴公子たちが争奪戦をはじめました @nonrin

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