婚活中の三十路OLが異世界トリップしたらハイスペック貴公子たちが争奪戦をはじめました

@nonrin

第1話 婚活が仕事より難しいってほんとうですか?

「実は私、来春結婚することになりましたぁー!!」

「うそー!おめでとう!!」

それは月一で開かれている同期会でのこと。

いつもと同様、それぞれの課での人間関係のトラブルや顧客に関するグチ大会で終わると見せかけて、最後の最後に特大の爆弾が用意されていた。

十数名が集まった居酒屋の一角がどよめき、拍手とともに大いに沸く。

その爆弾を投下したのは、唯一同じ企画営業部で働く同期だった。

そして彼女はわたしの最後の砦でもあり…。

「ルリ、ごめんね! あんたを残していきたくはなかったんだけど!」

「うっさい黙れ! そしておめでとうと言わせて!!」

同期の中で唯一の独身仲間であったことは確かだが、それはそれ。

祝福する気持ちに嘘偽りはない。

がっちりとハグをし、乾杯の音頭を取り、未来の旦那さまとの将来の計画に耳を傾け。

そして宣言した。

「わたし婚活する!!」

えーっ!?と先程とは異なる悲鳴にも似た声が複数上がり、さすがに店員さんが飛んできた為、会はお開きとなった。

そして翌日にはフロア・部署問わず「ルリ姫、婚活するってよ」という言葉が爆発的に流行した、らしい。

そこは噂の不思議というもので、本人の耳に入ったのは夕方、しかも外回りから帰った後のこと。

定時を回り、人もまばらとなったフロアでPCを立ち上げ社内メールをチェックすれば、以前所属していた部署やら新入社員研修でお世話になった先輩後輩やらその他もろもろからの「ここの婚活サイトがおススメです」「婚活でしてはいけない100のこと」「取引先の家具職人の息子がバツイチなんだけどうんぬんかんぬん」のメールで、スクロールする指が止まらない。

「この会社は暇人の巣窟か…!!」

「ぶはっ!! いやーさすがだよ古賀原、人気者は違うわやっぱ」

絶句する瑠璃の頭上には、PCを盗み見て口元を押さえているものの全然笑いが押さえきれていない上司の姿がある。

瑠璃が仰ぎ見ると、涼しげな目元が細められ悪戯を楽しむ子どもような笑顔になっている。

「横田部長! 人のメール勝手に見ないで下さいよ!」

「ごめんごめん、昼間の感じからして、そういうメール来てるんじゃないかと思って帰ってくるの楽しみにしてた」

「…売上報告より楽しみにしてたわけですね?」

「いや、それはまた別の話」

そう言ってキュッと引き締まる表情に、何度胸をときめかせたことか。

この老舗家具メーカーの営業一課で、長年売上成績トップを維持し続けていた横田は、入社以来ずっと瑠璃の目標であり憧れだった。

35歳の若さで営業部部長として指揮を執るようになってからは、営業部全体の底上げを図り、見事それを成し遂げ、ますます社内外からの評価を高めている。

瑠璃が契約書の束を手渡すと、ざっと内容を確かめた後に顔を上げ瑠璃をまっすぐに見つめた。

「古賀原」

「はい」

横田の精悍な顔立ちを間近で拝むたびに思うことがある。

仕事ができてカッコよくて部下思いとか、どこのドラマの設定キャラなの、と。

もしこれがドラマだったら、流れ的に恋人役は営業一課唯一の女性社員のわたしのはずなのに、と。

「うちの奥さんの会社、最近婚活パーティー事業に参入したらしいから、いいパーティーないか聞いてみるよ」

「お気持ちだけで結構です!」

スパン!と音がしそうな勢いで断り、その勢いのまま「お先に失礼します!」とフロアを後にする。


現実はこんなものなのだ。

仕事ができてカッコよくて部下思いで決断力もある人は、人生のわりと早い段階で自分に相応しい伴侶を見つけて幸せを掴んでいる。

要領が悪くてイマイチ優柔不断な人間は、一つのことにかまけているうちにいつの間にか周りと差がつき、幸せの意味すらよくわからなくなっている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る