31話 女子二人でも姦しい

 なんだか気恥ずかしい会話の後、瀬戸さんは過去クリスタの身に降りかかった出来事をつらつらと語る。


 それは少し前にニュースで取り上げられたかのような、テレビの向こうの遠くの話のように感じていた出来事そのものだった。


 だがそれは身近で起きていた。クリスタを普通の女の子と評した一方で彼女のもつを俺は理解していなかったと思い知らされる。


 全てを話し終えたあと、瀬戸さんは試すように「それで、どうします?」と俺の顔を覗き込むように見る。




「......どうもしない。どうにも出来ない。悔しいけれど」



「そうだね、それが正しいよ。今、友也くんが味わってるそれはってやつだよ。これでお互い様ってやつだね」




 学園外では近くに俺がいて、学園内では瀬戸さんが近くにいた。全てはただ近くにいた人が勝手にやったことなのだ。互いにそれを知ることなく。

 まるで言外に『あなたは特別じゃない』と言われたかのようだった。




「瀬戸さん、君は一体どうしたいんだ...?」




 行き場のないモヤモヤが胸を支配し、どうにかしろとざわつかせる。そんな言葉の一端が口から漏れ出ていた。




「別に。...ただのイジワルですよ」




 瀬戸さんは唇を尖らせると拗ねるようにそう言った。


 そして再び訪れた無言の空間を引き裂くように、浴室の扉が開いた。




「はーっいいお湯だった...ってどうしたんですこの空気?」




 乾ききってない髪をバスタオルで拭きながら、このいたたまれない空気に困惑しているようだった。


 大きめのTシャツに短パン姿のクリスタ。

 少し慣れてきてはいたものの、細長い手足や健康的な肩甲骨が惜しげもなく晒され、ドキリとさせられる。

 つまり目の毒なわけで、




「おっおひょぉおおおお!!たまらん!たまらんよゆきりん!ねぇ、ノーブラ?今ノーブラ?ノーブラなのゆきりん?!」



「え、いや、ちょっとやめて綾音ちゃん!」



「生乳揉んだるでぇ!ひゃっほぉおおう!」




 なんだか毒の量が増えた気がする。どんな状況か見たい!でも見たらあとで何言われるか分からないから見ない!ああ、でも見たい!


 いつのまにか、淀んだ空気は霧散していた。

 どうやら瀬戸セト 綾音アヤネは空気を支配する能力がある。

 苦手なやつと知り合ったものだと改めて実感させられるのだった。




 ☆




「にゅふふふ、これがいつもゆきりんかわ寝てるベッド」




「綾音ちゃんのお布団は隣に敷いたからこっちに「とうっ!」あっちょっと!」




 気がついたら、ゆきりんのベッドにダイブしていた。

 あん、いい匂い。濡れるわ。




「もう!綾音ちゃん人の話聞かないんだから」




 そう言ってプリプリするゆきりん。マジジャスティス。

 枕に顔を埋めて鼻で大きく息を吸い込むとシャンプーの匂いが鼻を通って血液全てに流れていくようだ。おふっ、たまりませんわい。




「えっちょっと嗅がないでよ!恥ずかしい!」




「私は嗅いでいない。ただ抱かれているだけさ」




「抱かれてるって何に?!?!」




 ワタワタするゆきりん。恥ずかしがり屋なところもマジエンジェル。

 枕を口元に寄せたままベッドの上から部屋を見渡すと、真新しい机や本棚が目に入る。

 あの男が買ってあげたのだろうか。まるで父親だな、と嘯く。


 淡い色で統一された部屋は女の子らしくて『ゆきりん』って感じがする。




「もう寝るよ?明日早く起きて一回家に帰るんでしょ。週末に来てくれれば良かったのに」




 呆れるように言われると、確かにそれはそうだな、なんて思ってしまうのだが結果的には来て良かったと思っている。


 それに簡単に寝させたりしないよ?いっぱい聞きたいことあるんだから。女子トークの始まりだ!




「一緒に寝てくれたら素直に寝るよん。うひひっ」



「え、絶対嘘じゃん...」




 そう言いながらも「しょうがないなあ」なんていってくれるゆきりんが私は大好きなのだ。

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君がついた嘘の嘘。 29294 @29294

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