あたしが詩人だったなら

杜甫口(トホコウ)


夢を見よう

歳を取るにつれ

誰か点けてくれた灯り

明日が潰えてゆく


ついに夜がわからなくなるとき

この目に映るものを知る

今も

明日にもないもの

一瞬の

美しいもの

あたしが出会えたかもしれなかったもの


あたしが詩人なら

話を聞こう

突然あの人とした会話を思い出す

今も

明日にもないもの

きっとあたしが弱っていなければ

聞くこともなかったこと


あたしが詩人なら

息を嗅ごう

人の苦しむ匂い

とうとう無視した

今も

明日にもないもの

懐かしい香り

人のやさしさ


あの日のものを味わおうよ

あたしが残してしまったもの

食卓の

上に浮かんだいくつもの顔

あたしが食べなかった


感じよう

あまたの感情

肌を刺して伝わる

あの人の気持ち

ひと時も感じなかった

針ばかり突き刺してきた

この道

今足元が光っている


柔らかな灯り

明日の終わり

あたしはいったい

なにを残せただろう

あたしはいったい

なんと言えばよかったんだろう

きっと夢も残せただろう

あたしが詩人だったなら

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あたしが詩人だったなら 杜甫口(トホコウ) @aya47

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