愛を叫んだその先に

軽佻浮薄

第1話

僕はある少女に恋をした。

それがいつからか分からないけど多分それを意識したのは、つい此間からでそして僕はこの気持ちを彼女に伝えると決心した。

若さ故の過ちなんて言う人もいるかもしれないけど、僕は直ぐにでもこの感情を発散したかったんだ。

それは自慰と変わらない本当に傍迷惑な行為だったんだけど、彼女はそれを知ってか知らずか話しがあると話しかけたら、放課後の教室で話そうと言ってくれた。

まだ僕が何を伝えるかは言ってないけど、薄々感づいているとは思う。

僕にしてはかなり真剣な趣で話したし、彼女は何だかんだ中学三年間で同じクラスだった。

全てを察せられていると知りながらも僕は階段を登る。

校舎には西日が照り付け、校内には限られた特別教室ぐらいしか生徒は居らず三年生の教室がある第二校舎に人の気配はない。

外では運動部の皆んなが必死に練習しているし、校舎裏であまり褒められない事をしている素行の悪い奴らもいた。

そして最上階。厳密に言えば屋上もあるから最上階て言うのはおかしいのかもしれないが、そんな知識のない俺にはそこまで深く考える理由も余裕もなかった。


「─────っ」


唾を飲み込み高鳴る鼓動を抑えつけるように右手でワイシャツを握る。

深呼吸をして奥歯を噛み締め、そして僕は思った。

断られたらどうしよう────と。

そこからは不安が頭の中で錯綜し無限に引き伸ばされ精神を蝕んだ。

そうしたらあとやれるのは逃げるようにその場から逃げる事だけだった。


「───バカ……………」


そんな姿を教室から彼女が覗き込んでいたとも知らずに。

そのまま家に帰るとリビングには姉貴とその彼氏がソファを独占してテレビを観ながら談笑していた。


「あれ、その感じだとフラれちゃったの?」

「黙れバカ姉。お前には関係ない」

「私に相談したのが運の尽きよ───しばらくはそれをネタにいじってやるんだからね」


姉貴は紺色の薄いタンクトップを着て隣にいる耳にピアスを開けた不良ですと自己紹介しているような格好の彼氏といちゃつきながらそんな事を言ってきた。

正直殺してやりたかった。

だからか分からないけど僕はそんな姉貴に突っかかってしまった───ただの八つ当たりである。


「このクソガキが───ッ!!」

「────っがあ……………。」


姉貴と喧嘩していた筈なのに隣にいた彼氏にまで飛び火してしまい状況は悪化。

彼氏にあれやこれやを言ってやったら前歯を折られそうになり腹にも何発も入れられて俺は家から追い出された。

姉貴が笑っていた事がひたすらに憎い。

いつか機会があったら八つ裂きにしてやりたいぐらいだ。


「どうするか────あの彼氏やっぱり泊まるよな。家に………公園で寝泊まりする訳にはいかないし」


だが携帯電話もなくポケットに入っていた小銭はさっき自動販売機で清涼飲料水に錬成してしまったから誰とも連絡が取れない。

第一友人の電話番号なので憶えてないから意味などないが。

仕方なく近くの公園のベンチで今日の出来事を反芻する。


「やっちまったな───明日からどんな顔をして学校に行けばいいんだよ。」


彼女に酷いことをしてしまった。

こんなの許される事じゃあないし許されてはいけない事だ。

もう口も聞いてはくれないだろう。

けど、これは丁度良かったかもしれない。

受験に本腰を入れなければならない時期だし、いい踏ん切りになる。

もう少し前向きに行こう。

彼女からしたら、とてもたまったものではないけど。


「─────。あれ………風が強くなったか?」


そよ風が段々と力を増していき前髪がなびき始め、草木が揺れ公園に備え付けられた遊具達も動き出す。

そして風の発生源が空だと気づき恐る恐る上を見てると自販機よりも大きな何かが勢いよくこちらに向かって落下していた。


「─────!」


咄嗟に前へと仰け反りベンチから離れる。

運良く直撃は免れ、瞬間交通事故の様な破壊音と共に俺が座っていたベンチは大きなクレーターへと変わっていた。


「なんだよ───これは………」


額に汗が滴り瞳孔は開き身体が緊張しているのを感じる。

そのまま尻餅をつき立ち上がることすらままならない。

誰か今起きている事を説明欲しい。

そんな要望は直ぐ様に叶えられた。

一人の白く小さな天使に───いいや、それは白い悪魔だったかもしれない。


「───私はクリミア。魔法使いみたいな事をしているわ………今はユリウス歴で何年かを教えてはくれないかな。そこの少年───君に言ってるのよ?」

「……………………」


砂埃が立ち込めるクレーターの底から現れた長い白髪の赤い瞳を持つ俺より二、三歳下ぐらいの細身の少女は裸で自信に満ち溢れた表情でこちらを見つめている。

色々と異常な状況に開いた口が塞がらない。


「翻訳の術印が効いていないのかしら?確かに存在しない言語でも言霊の通った人の言語なら効力を発揮する筈なんだけど───ふむ。もしや人ではないのかな………君」

「いや───その、まだ事態を飲み込めなくて…………人が空から降ってきたのは産まれて初めてな経験だからさ」

「私も空から墜落したのは両手で数えるほどしかない。」


白髪赤目な彼女の声色は一見冷たいようで此方を突き放すようではなく少しの優しさが感じられる。

けど裸なのが色々とぶち壊していると思う。

それで一旦目を逸らして頭の中で言葉を探す。


「ユリウス歴が何なのかは分からないけど。今は西暦2016年です。」

「西暦か。まって────じゃあ、私は2000年近く封印されたままだったの。けど何故それが今になって解けた?トリガーは何……それに肉体にも様々な欠損と影響があるし、肉体の若年化に伴う魔力消失が引き起こる例など聞いた事がない………だとすると根こそぎあの剣に───」

「その、いいですか………僕が質問しても」


顎に手を当てながら長々と独り言を話しだす裸の彼女に堪らなくなり、少し声を荒げてしまった。


「うん。許可しましょう少年───けど、このクリミアに一体何を?」

「その………なんで上から降ってきたんですか?」

「いい質問ね。私は今から二千年ほど昔にとある魔剣を自分諸共封印したのよ。その魔剣と言うのが曰く付きな代物で彼のブーフ・グロースが鍛え上げた魔剣で持ち主が変わっても持ち主を支配して魂を喰らい続けるモンスター。だから私はあの魔剣を追って───そして封印した。自分自身を対価にして封印した筈が私は今ここで降ってきた。つまり道連れした魔剣も恐らく、私と同じく解放された。」

「君の近くに落ちたのは偶然だと思いたいけど、もしかしたら君はあの魔剣と何やら絆あるのかも。魔剣は再び力を得ようと新たな宿主を探し人を喰らい出す────と今の状況を踏まえて君の質問に答えるならば、私にも現状はよくわからない。私は1世紀もあの魔剣を追ってきたけど初めてなイレギュラーだから」


長々と喋るから色々と内容が整理できない。

そもそも誰だよブーフ何とかって、魔剣とかいきなり言われてもよく分からない。

けど、凄く要点を無視して噛み砕くとこんな感じかな。


「───つまり悪い奴がまた人を襲うから、この街が危ないと?」

「要約するとそんな感じかしら。まあそんな事は明日考えればいいわ。少年……私は君に依頼する───服と眠る場所が欲しい。あと明日の朝食とそれなりに書物が集まる場所に案内を願いたい。報酬は私の身体だ………今は貧相かもしれないが、東洋人は痩せている方がいいと聞くしね」

「昔の日本人は膨よかの方が良かったらしいですよ───魔法使いさん。」


さて、どうしてくれようか。

この素っ裸でアルビノな彼女を無視してこの場を去るか、それとも面倒で胡散臭い事に首を突っ込むか………答えは決まっている。

もう既に僕は興奮しているのだ。

勿論、性的な意味じゃあない───こんな不思議な事に興味を示さない男がいるのだろうか。

これから僕のする事は一つだけ。

だから僕はこう繰り返した。


「───まあ何かの縁だし、ちょっと面白そうだから付き合いますよ。一先ずこれを着てください。あと身体とかそう言うのはご遠慮を」


流し目で彼女の健康的な白い肌と胸の膨らみを確認しながら、彼女が自分の守備範囲ではない事を再確認する。

俺にはロリコン趣味はないし、目の前の少女が可愛いからって犯すほどケダモノじゃあない。

初めてやるなら、やっぱり和姦がいい。

いや、待てよ。彼女がオーケーなら和姦じゃあないか───そんな煩悩と戦いながら、着ていたワイシャツを脱ぎ彼女に着させる。

何も着ないよりは遥かにマシだし、今は麻痺して何も思わないが、それがいつまで続くか分からない。

それに下にはTシャツを着ているから俺の方は大丈夫だ。


「そう───これは有り難く頂戴しましょう。」


彼女はYシャツの着方が分からないのかボタンを留めずに羽織るだけでサイズの違いで大切な所がギリギリ隠れているけど、どうにも見てはいけない部分が見え隠れしているのが悲しい所だ。


「僕の家に泊めるので付いてきてください。」

「うん、恩にきるわ。ありがとう」


さて問題は二つだ。

あの不良彼氏と白い彼女の服だ。

後者は姉の物を拝借するとして、不良彼氏に気づかれたらなんだか面倒くさい事になる。

ベッドはまあ布団があるからそこで俺が寝て、自分のベッドで彼女を寝かせればいい。

そのまま公園を出て家までの道のりで色々と彼女を質問責めにした。


「クリミア……さんは魔法使いなんですよね?魔法で服とか作れないんですか?」

「さん付けは辞めて。呼び捨てで構わないわ。厳密に言えば魔法使いではないしエーテルによる元素魔術は専門外。私はどちらかと言うと存在しない物を存在し得ない存在してはいけない物を魔力ちに編む事に長けているのよ。それに私は魔術師ですらない───これでも私は亜術の祖だからね」


また新しい言葉だ。

けど僕は挫けず質問を繰り返す。


「亜術て何ですか?話しを聞いている限り初めて聞く言葉です」

「前のめりなのは結構。亜術と言うのは私が基盤を作った魔術の亜種で言わば君らの言葉で言う忍術の様な物よ。魔術の亜種だから、亜術───シンプルで分かりやすいでしょ?」

「魔力で肉体に影響を与え肉体の一部分又は全体を魔力に戻し、生身では成し得ない現象を引き起こす。それが亜術よ」

「なんだかよくわからないです。」

「それはそうでしょう。一瞬で理解されてしまったら私の1世紀にも及ぶ苦労が浮かばれないし」

「例えば亜術て言うのって、どんな事が出来るんですか?」

「そうね。あまり余剰魔力がないから一瞬しか出来ないけど少し見てて」


クリミアは自分の右手を血が滲むまで噛み締め、血が地面に滴ったその時───変化が現れた。

手足は伸び髪も地面につく程伸びて、さっき程までワイシャツで隠せていた肌が隠しきれなくなる程に胸が膨らみ───つまり結果だけを答えるなら、彼女は一瞬にして十年ほど成長したのだ。

大人びた、赤目の白髪の彼女はとても美しく僕は見蕩れてしまった。


「────ふう。これて終わり」


そして再び一瞬にして身体が縮み元の姿へと戻ってしまった。

なんだか残念だ。

もう少し眺めていたかった。


「あれが私本来の姿だ。べっぴんだったでしょ………まあともかく亜術とはこんな力よ」

「───正直今は狐に包まれた気分です。」

「それでいいわ。神秘を知らぬ物は最初は錯乱するものだし───君は少し物分かりが良すぎて怖いぐらいよ。それに親切ずきるしね」

「今時の中学生はこんなもんですよ」

「───やっぱり、この時代について知りたい事が色々あるわね。若いのに教養があるなんてやっぱり変だわ………君はあまり賢しい人間じゃあないのにね」


口に出ててますよ、クリミアさん。


「───本よりも素早くて優秀な媒体がありますよ。情報収集については。インターネットと言うのですが家で使えるので」

「ではぜひ、それを使わせて頂きましょう。」


そんなこんなで家に着いて姉貴達が起きない様に恐る恐る扉を開けて、引き出しから姉貴の服を適当にかっぱらって自分の部屋へと入った。


「なかなかいい部屋ね。二人には、ちょっと狭いけど内装もいいし、この光る装置には驚かさせられたし。それでインターネットと言うのはどこにあるのかしら」

「服を着て待っててください。パソコンを起動させるので」

「ふむ。わかったわ───それとそろそろその堅苦しい敬語を辞めても誰も非難しないと思うけれど。」

「そう───かな?じゃあ待っててクリミア」

「ええ、いつまでも」


まあ直ぐ点くけど。

姉貴の服はクリミアにはサイズが合わないらしく、少し肩が出ているが余りに気にしているようではなかった。

ボタンに関しては教えたら直ぐに仕組みを理解して完全に着こなしてしまった。


「それで───これをこう押すと検索出来ます。」

「ふむ。インターネットを考えた人も素晴らしいけど、どちらかと言うとコンピュータをこんな形にしたパソコンを発明した人は称賛に値するわね。これはとても使いやすくて便利な演技。」

「それは良かった。じゃあ僕は眠いで先に寝るね」

「ええ、構わないわ。ただ部屋の光は消してもいいけど、この机の光は点けていても構わないかしら?」

「ああ、いいよ好きに使って───」

「ええありがとう。」


そうして僕は布団を敷いて一先ず眠りに入った。

後から知った事だけど、クリミアは朝までパソコンで調べ物をしていたみたいだ。





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夢を見た。

その内容は苦しくて、刹那的な感情が入り乱れる混沌の悪夢。

これは彼女の記憶だ。

彼女の両親は剣に呪われ父親は、その剣で自ら腹を裂いて死に母親は剣で幼い娘を殺そうとして、逆に娘に首元を斬られて死んだ。

一人になった彼女は運良く剣には呪われず、その頭身を鞘に戻して再び眠らせた。

それから十年後。

彼女はその事を乗り越えて幸せに暮らしていた。

そのトラウマの事をすっかり忘れて、明日に向かって歩んでいたのだ。

そして彼女も一人の女で、笑顔で過ごす好きな人の後ろ姿を追っていた。

運良くその好きな人と再び同じクラスになり、その気持ちを募らせる毎日。

そして彼に呼び出され彼女は待ち焦がれていた───けど結果は散々な物だった。

彼は寸前で思い留まり、逃げ出したのだ。

それ事態はいい。

踏み切れなかったのはしょうがない事だし、その悲しみ以上に彼女は彼を愛していた。

だがその心の隙を見逃す剣ではなかった。

剣は彼女に囁く。

我を抜けと───彼女は誘惑に負け、両親と同じ過ちを繰り返す。

彼女は両親とは違い呪われた剣に適応し、怪物となった。

人を喰らう悪鬼と成り果てた彼女は夜の街に消え、彼女にナンパをする者───心配して声をかけた者───行きずりの知らぬ者を老若男女を問わず喰らって回った。

彼女が再び正気に戻るのに一週間もの月日が経った。

それは深手を負ったからだ。

心臓を串刺しにされたのだ。

彼女の暴走が止み───そして考えた。

備えなければと………。

もう彼が知る彼女はいない。

それは怪物だ。

人喰いの鬼は一週間ぶりの学校を堪能する。

不敵の笑みを浮かべながら。






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朝の目覚めはとても良いものではなかった。

多分悪い夢を見ていたせいだと思う。

どんな夢だったか憶えてないけど、とても不愉快な夢だったのは確かだ。


「目が覚めたか───少年。その感じだと今朝の目覚めは良くなさそうね」

「ああ、最悪だったよ………クリミア。あれ、それって」


クリミアは寝る間も惜しんであのまま、齧り付く様にデスクで調べていたみたいだったが、それよりも引っかかる事が一つ。

デスクの上には食べかけのトーストとコーヒーの入ったマグカップがある。


「そこにあるトーストとコーヒーはどうしたんだ?」

「ああこれは其方の姉君から頂いたたんだ。」

「えっ───。」


姉貴にクリミアが見られた。

それって色々とヤバくないか。

姉貴に女を部屋に連れ込んだ事がバレて服を勝手に頂戴した事がバレている。

それは死刑宣告みたいなものじゃあないか。


「姉貴はなんて?」

「ふむ。私を見るや君が立派になったと言って喜んでいたよ。朝食も振舞ってもらったわ………君の姉はかなりの人格者ね」

「あれが人格者なら犯罪はシリアルキラーを除いて誰も起こさないよ」

「それにしても私が眠ている間に文明は加速度的に進化したみたいね。私が生きていた時代とは見違える程に───ここ数千年の出来事は昨晩で概ね理解出来たけど神秘に関しては様々な言語で挑戦してみたけど、どこにも信憑性のある情報はなかった。既に魔術は廃れ歴史は新たな神秘を得たらしい」

超能力ロジカルの事?」


物思い吹けながらクリミアはこう繰り返す。


「そう、俗に言う超能力。ここ数年で数を増やし、そして科学的にその存在が証明された。これは正しく我ら術者にとっての銀の弾丸だ。文明から存在を拒絶されたのよ」


クリミアは指を銃の形にして撃つモーションをする。

ロジカル、ロジック呼び名は色々あるけど意味としては理論が分からない力。

超能力の事を指す。

今では人口の0.001%。1000人に1人はロジカルを持っているて言われている。

大抵はイメージ通り、手のひらから炎を出したり早く走れたりでサブカルチャーで散々やり尽くされた物が多い。

偉い学者はそんなロジカルを脳がもたらした新たなプラシーボ。

脳に存在しない領域をあると自覚した力とか言ってたりする。

僕にはよく分からないけと。


「どうしてそう思うんだ。」

「ロジカルは謂わば人類の新たな進化の可能性。突然変異だ───DNA的なルーツは同じクロマニヨン人の様だがそれは人間とは相反する存在だ。我々人間は今まで新たな人間の可能性を否定してきた。狼男に吸血鬼や人造人間や幽霊の類すらだよ。それは神秘を人間以外が振るうのを恐れたからだ。だから新たな人類の進化を否定し、それらを狩って回っていんだよ。異端としてね───だが今はどうだ。天敵は自らの腹から産まれ出てて全く同じ種として受け入れられてしまった………頑固な術者は隠居するか、それこそシリアルキラーに成り果てて自らが異端となり狩られるか。それならば神秘の痕跡がインターネットに無いのも頷ける───これは中々に遺憾だ」


人類は異端を恐れた。

自らがネアンテールタール人になる事に恐れ、人類が永劫に繁栄し続ける為に異端を否定し拒絶していたのだ。

だが例え魔法使いでも歴史の流れには逆らえない。

異端を腹に受胎告知された母親は父親がいなくとも異端を愛したに違いない。

罪深い女として蔑まされたとしてもだ。


「人類は新しい生物を受け入れたんだ。超能力は第一次大戦で発生し、第三次大戦が未だに起きてないのは彼ら超能力者に対して差別をする考えが第二次大戦が終わり間違いだと多くの人々が気づいたからだ。差別がどれだけ精神的な人類の進化を停滞させるかをだよ」

「少年は随分と詳しいんだね」

「授業で習ったから………」


流し目で誤魔化す。

なんだか少し胸が熱い。

これも全部さっきの悪夢のせいかもしれない。


「そうか。私は化石だよ───それにだ少年。私をそこら辺の魔術師と一緒にするのはやめてくれ。異端狩りなどに興味は最初からないし、差別が愚行だとヘブライ人の母を持つ私はよく知っている。まあ私は宗教には興味はなかったがね………個人的に神秘が薄まった現代が少し寂しく思えただけだよ。」


今は気分が良くない。

これ以上話すのは辞めたほうがいいだろう。

今の僕は、なんでも上にいるものを憎らしく思うアナーキストみたいだ。


そしてクリミアは両手を組み神に祈る様なポーズで立ち上がり、今だに布団の上で座りこんでいた俺の方へ身体を持ってきて覆いかぶさる様に俺の上に乗っかる。


「どうか情けない老婆を慰めてはくれない?」


からかって遊んでいるのだろう。

だったらそれは大成功だ。

今なら彼女を犯されると思うだけで下半身は熱くなるし、サイズの合わない服から見える白い鎖骨のラインがどうにも今の僕には刺激的だ。

顔も人形の様に整っていて、もし同じ年齢だったらこのまま押し倒していかもしれない。


「残念だけど、歳の差でするには僕の経験不足が足を引っ張るから丁重にお断りするよ。」


そしてクリミアは息遣いが聞こえる様な距離で耳元に向かって喋り出した。


「それは残念。なら話を変えましょう少年。魔剣はやはり私と共に解き放たれたみたい。昨晩ニュースになっているだけでも四件の殺人が起きてる。あれは大食らいだから実際にもっと喰べているはず」

「それをどうやって止める気なんだ」

「今の私は万全じゃあない上に力の大半を魔剣に持っていかれた───だからあれを再び封印するには君の力が必要だ。今の私には防戦ぐらいしかできない。」

「残念だけど、僕にはロジカルなんてないぞ」

「いいや、君はバッテリーになりさえすればいいんだよ。今の私は魔力が少ないんだよ………インディアンの矢でガソリンタンクに穴を開けられたデロリアンの様にね」

「バックトゥーザ・フューチャー見たの?」

「いいや、君のパソコンに術式を忍ばせてインターネットの情報をひたすら解析して私の頭に記憶させているんだよ。これはそれの成果さ───調べ物をしながら術式を組んだから随分と時間はかかったけどね」

「話を聴いてると何でもありだな。その力」

「私は恐らく人類史の中で五本の指に入る術者だ。それぐらい朝飯前だよ」


無い胸を張るクリミア。

なんだか少し可愛いが流石に長いこと俺の上にいるのは鬱陶しいから一旦立ち上がる。


「それでどうやってその魔剣とやらを探すんだ、クリミア」

「簡単さ。ここに撒き餌がある」


俺を指差すクリミア。

成る程俺をデコイにするのか。

うんうん───それは。


「ふざけるな。」


その提案をひと蹴りしてやった。






---






僕とクリミアはそのまま家を出て事件現場へと向かった。

学校は丁度良かったから、サボってきた。

正直に言えば彼女に会える気がしないからだ。

次に彼女に会ったらなんて言われるかが分からない。

それに今はこっちの方が重要だ。

あんな姉貴だが、死なれたら朝御飯を作る人が居なくなって困る。

それに唯一の残った家族だ。

もう誰にも死なれたくは無い。


「事件が起きたのは駅前で一件。そこから数百m先の路地と自販機の前で二件で駅から離れた廃墟ビルで一件───計四件。恐らくは人の多い駅に向かって移動していった魔剣はこの廃墟ビル付近に生息している」

「クリミア反対かもしれないだろう。駅から廃墟ビルに向かって移動したかもしれない」

「ふぅ、これを見てもそんな事が言える?」


ここは事件の起きた駅から離れた廃墟ビルのすぐ近くの空き地。

色んな工事で使いそうな材料が置かれていて、広さは下手な家よりも広い。

そこで無造作に土管の中に隠された無残な死体があった。


「────」

「死体を見るのは初めて?普通なら吐くか何かすると思うが君は至って冷静ね」

「初めてじゃあないから………」


顔は強張り顔から血の気が引いていく。

死体の数は十は超えるだろうか。

手足がバラバラでよくわからない。


「一先ず埋葬してあげましょう」

「警察には?」

「そうね。そっちの方がいいかしら───なら通報する前に少しだけ待って」


クリミアは死体の肉片を指でちぎって口の中に入れた。


「おま───なんて事をしているんだ!」

「まあ待てよ少年。これはあれだサイコメトリーだよ………ふむ今回の宿主は凶暴だな。だが、かなり冷静でもある。背丈が低くく充分な知性を備えた皮は女だな。」


僕は顔をしかめながら恐る恐る聞いてみる。


「それはどんな事が分かるんだよ」

「被害者の持っていた情報と被害者が最後に観た情報を閲覧出来る。そこから派生して何が何を視たかを算出し、次にどれを調べるべきかが分かる。要は証拠から新たな証拠を探しているんだ」

「それで何がわかったんだ。」


クリミアは手に着いた血肉をポケットから取り出した姉貴の物であろうハンカチで拭いながら、話してくれた。


「魔剣の宿主は女。身長は160cm前後で理性が強く充分な知性を備えながらも凶暴性の残る危険な年頃。恐らくは十代後半程の学生か、もしくはその逆の知識の深い老齢の女性のどちらかだろう。魔剣に昨日だけで十数人の魂を喰らい夜になれば再び腹を空かせて人を襲う。」

「どうやって捕まえるんだ」

「簡単よ。宿主のボディを破壊して行動不能にする………まだそれほど時間が経っていないから共生もまだ完全ではない。なら人体操作もまだ不完全で再生もままならない。そして死体の隠し場所はわかっている………通報するのはこれから設置する宿主がブービートラップで死んでかね。術式を敷くのを手伝って」

「宿主は殺すしかないのか?」


それは重大な事だ。

魔剣が悪なのは理解したが魔剣に寄生された人間も被害者ではないか。


「残念だが宿主を救うのは難しい。狂犬病にかかった犬を全部救っていたらキリがないだろ。それに今の私には生け捕りなんて到底不可能だよ───恨むなら私を恨め。」


クリミアの冷たい声色に遊び半分でいた自分が恥ずかしくなった。


「被害者はこれ以上増やしたくはない。だからさあ、君も手伝ってくれ」

「俺は一体何をやればいいんだ?」

「まず私の血をこの空き地の角に垂らしてくれ今この瓶にいれるから」


クリミアはポケットから取り出した小瓶に手首から血を垂らす。

最初は冷やっとしたがクリミアが手首に噛み付き出血させると何とも緩やかに血は瓶へと注がれる。


「なんとなくでいいから均等になるように。あとそれから────」


作業は一時間以上を要した。

大体はクリミアの血を溢したりするだけで何という訳もない事だ。

何でもクリミアが言うには人を殺して間もない奴がここに侵入したら空き地が炎に包まれて、そいつの体が爆ぜるらしい。

なんとも恐ろしい魔法使いだ。


「じゃあ後はひたすら待つだけ。ほら望遠鏡を君の部屋から拝借してきたんだ───ここで張り込む。それだけの事よ」


僕とクリミアは空き地から少し離れた廃ビルから待ち伏せする事にした。

何でも接近して戦うと間違いなく負けるらしい。

術師は遠距離で戦うのが常とはクリミア談だ。

そしてそれから六時間後。


「───こないな」

「ああ、もう少したら姿を現わすだろう。私の仕掛けは完璧だ───嗅ぎつかれる事はない」


それから十二時間後。


「僕は今からコンビニに行くけど何か欲しい物ある?」

「あんぱんと缶コーヒー」


それから二十四時間後。


「昨日奴は何の事故も起こしていない。私の読みだと、間違いなく今日現れる」

「そうか。じゃあ本腰を入れないとな」


クリミアも昨日は眠りにつかず目の下には微かにクマができている。

魔法使いも寝不足には勝てないらしい。

その日も魔剣は現れなかった。

そして次の日の朝。


「これは恐らく、貯蔵があるんだろう」

「貯蔵てどう言う事だ、クリミア。」

「簡単な話だ。最初の事件の日に喰いきれなかった分を攫ったんだ。そしてそれを喰って飢えを凌いでいる───かなり狡猾だ。なら今日明日に必ず現れる」

「じゃあ益々眠れないな。」

「そうだ。だから今は耐える時だ」


その日の夜。

長い西洋風の長剣を引きづる様に持つフードを被った奴が空き地の近くに現れた。

何で銃刀法違反で捕まれないかが疑問だが多分、通報した奴と警察を両方とも殺しているんだろうと勝手に結論付ける。

それは空き地に近づいていき、そして足を踏み入れた瞬間───空き地は一瞬で火の海になった。

地獄の業火に包まれたフード被ったそいつは咄嗟にその場から離れようとしても動けない。

むしろ徐々に空き地の中へと引きずり込まれていく。

粘着質な炎は蜘蛛の巣の様に獲物を絡み捕らえる。


「成功だ。いかにあれが強かろうと一か月も経たずして共生は完全にならない。ならあのまま再生出来ずにボディは壊れ魔剣は宿主を失う」


クリミアの成功を喜んでか少し眠気の不機嫌は落ちついている。

だがそれも束の間だった。

フードのそいつは肩口から腰にかけての部分を開き、大きな口の様な物を自分の肉体で象って炎を口で吸い込み始めた。


「なに………あいつ魔力を変化させている。元素変換だ───嘘だろ。宿主に魔術を使わせるなんて見たことがない………こんの初めてだ。」


驚きのあまり両手頭を抑えるクリミア。

これも私の力の影響かなんて小声で呟きながら。

彼女もこんな素っ頓狂な顔をするんだなと思いながら、炎を全て吸い込んだそいつがその肩から腰に掛けてある───その大きな口で上げる大音声に驚愕した。


「────ギャアアアアアアアアア────」


あんなのは人の出していい叫び声じゃあない。

怪物の雄叫びだ。

耳を抑え叫びが止むとクリミアはすぐさま立ち上がる。


「ここは危険。アイツこっちに気づいたらしい───炎のダメージもあるみたいだけど、あんなのが相手では部が悪すぎる。一旦引いて逃げないと殺される」

「いや、もう遅いみたいだ」


フードのそれは大きな口を閉口させて元に戻った体で腰を低くくして、こちらまで飛んできた。

数百mを一瞬で跳躍し、そいつは廃ビルは破壊しながら僕達がいる階に現れる。

建物の破壊音よりも素早くそいつはこっちに向かってきた。


「────」


クリミアは僕の前に立ち咄嗟に手首から出した血を銀色の薄い壁にして守ってくれた。

薄い壁は柔軟性が有る様でそいつの繰り出した剣戟は引き伸ばされクリミアの顔の前で勢いを失う。

そしてすぐ前クリミアは次の手に移る。


「圧壊────」


その言葉で壁は飛び散る様に破裂する。

だが、フードはそれを器用に躱す。

頭を曲げ、腰を曲げ、足を曲げ───それは明らかに人間の関節では成し得ない動きだ。


「─────下がって、」


クリミアは右の手首に噛みつき血を垂らしながら僕の肩を掴んで一歩後ろに後退させる。

だがそのほんの数秒の動作すらフードは五指を強く握り締めてクリミアの胴体に一撃を喰らわせる。

人体が潰れる音と共にクリミアの胸には大きな風穴が空いていた。

クリミアは僕を守ろうとしてこんな重傷を負ってしまった。


「─────」


血のあぶくを溢しながらクリミアは血を光らせ、僕を連れてその場から離脱する。

気づけばそこは見慣れた僕の部屋で、クリミアは血を流しながら倒れていた。


「クリミア───!!」


クリミアに駆け寄って抱きかかえる。


「大丈夫。私の傷は直ぐに塞がるから───それより君は平気かい?」

「ああクリミアのおかげで傷一つない。」

「それは良かった。じゃあもう一度あそこに戻ろう」


クリミアは僕の手を退かし、立ち上がる。

胸の風穴は完全に塞がっていて服には大きな穴がそのまま残っていた。


「アイツは恐らく今頃剣を拾い上げ、獲物を探しに行こうとする筈。今ならまだ私でも戦える───これ以上強くなられたら対処すらままならなくなる。まず君にこれを渡すわ」


塞がった胸元に手を押し込み一本の装飾されず柄も無い銀色の剣を取り出した。


「これは?」

「名前はない。けど、これは魔力こそ宿ってはいないがれっきとした名剣よ。軽く扱いやすく、そしてしなやかで切れ味もいい。狙うなら胸───心臓を破壊して欲しい。頭は切り落としても循環させる物が有る限りアイツは動き続けるから」

「いや───僕は………」

「頼むわ。これが終わったらキスしてあげるから」


なんだか、真剣な眼差しに根負けして銀色の剣を受け取ってしまう。

その剣は確かに軽く片手でも扱う事が出来た。


「じゃあ元の場所に戻る。作戦はこうよ───私が引きつけてるから隙を見て剣で心臓を串刺しにする。防御は私が引き受けるから安心して………準備はいい?」

「ああ、いつでも」

「それじゃあ、いくわ───」


次の瞬間───クリミアは手を強く握り血を滲ませると再び景色は変わる。

荒れ果てた建物の残骸の上にフードはは右手に剣を持ち、こちらを向く。

さっきまであった廃ビルを数分足らずで平らにしてしまったんだ。

それが怪物なのだと再認識するには充分な異常。

あんなのが好き勝手暴れたら半年で日本は滅茶苦茶にされてしまうだろうと実感する。

あれはあれ以上成長させてはダメだ。

戦いは一瞬───その一瞬でケリをつける。


フードは足で地面を蹴り飛び跳ねる様に距離詰める。

右手に握られた剣を乱暴に振るいクリミアを狙う。

クリミアは敢えてそれを受け止めて首に剣を食い込ませる。


「────」


何故かは分からない。

剣は首の中ほどで止まり、そしてすぐさまフードは剣を離してさっきと同じ様に素手で襲いかかる。


「────甘い。」


首から大量に流れ出た血を銀色に変換させ、フードのそいつを拘束する。

だがそんな物を無視し、そのままクリミアの腰を横から足で貫く。

それでもクリミアは微動だにしない。

そして僕は────クリミアの背中に剣を突き刺し、フードの怪物の心臓ごと串刺しにした。


「どうだ………!!これで───」

「ガッガガガガアアアアアアアアア!!」


フードは後退しながら刃先から逃れ、そして胸から溢れる血を必死に抑えながら叫ぶああ───痛みからだろうか、それとも死の恐怖からか。


「再生は出来ても苦手。臓器の再生は特に不得手みたいね───身体能力は凄まじくともボディは生身。再生に力を全て注いで間に合うかは五分五分と言った所よ………喜びなさい。この場から逃がしてあげる───今の私達には貴方を追う力は残ってないから」

「ギャガガアアアアアアアアアアアアアア!」


フードはこちらを睨み直し、そしてそのまま跳躍し夜の闇に消えた。


「行ったみたいね。ちょと今から倒れるから私を受け止め………」

「おっと───、」


血まみれで倒れるクリミアを受け止める。


「今回はお前のお陰で助かった。ありがとう───お前がいなきゃ二度は死んでいた」

「いいや………君は五度は死んでいると思うよ」

「一先ずもう帰る力もないから、私を抱きかかえて家で寝かして欲しいわ。」

「ああ四日も寝てないんだ───安心して眠ってろ」

「ええ───ありがと……」


そのままクリミアは眠ってしまった。

とても軽い彼女を抱きかかえて帰るのはそれほど負担はなかった。

僕の胸で眠る彼女は血まみれだったけど、とても魅力的に思えた。






---






痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい

侵したいたべたい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい痛いほしい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい侵したいたべたい


「なんで私を愛してくれないの!どっこかにいっちゃうの!私達愛し合うべきなのに───!」


胸から溢れる熱い液体は私に痛みと一緒に理性をくれた。

やだもう侵したくないたべたくない

私には好きな人がいる。もう誰も傷つけたくない。

なのにどうして────呪いうえが止まらないの。

気づいたら自分の右手の指を必死になってむしゃくしゃ喰べていた。

でも、指は直ぐに元に戻ってお腹は膨らまない。

指を喰べると頭はすっきりと徐々に冷静になって行く。


「────包帯巻かなくちゃ………」


胸の傷を見て簡単な応急処置をすると不思議と血は止まって痛みも少なくなった。

そのままその窓から外の景色を観ると外はすっきり明るくなってきていて、最初に浮かんだのは。


「学校に行かないと」


立ち上がって制服を着て学校に行こうと玄関へと向かう。

床に溜まる血溜まりと骨肉の残骸には気にもとめず。

そして彼女は気付かない。

右腕に侵食する剣が彼女と完全に一体化しようとしている事に。






---






日は昇り時刻は朝の6時。

あのままクリミアをベッドに寝かせて僕は出来る事もないから、ずっとクリミアの横で考えていた。

あの魔剣に呪われたフードの女は死んだのだろかと。

油断は出来ない。

あんな怪物は生きていてはいけない筈だ。

もし生きていたらトドメを刺さねばならない。


「────少年。今朝の天気はいいみたいね」

「クリミア………起きても大丈夫なのか」


そんな風に考えていたら、クリミアは目を覚ました様でベッドから腰を上げて窓から外の風景を眺めていた。


「ああ傷の具合はいいわ。今日の昼には完全に癒えると思う」

「それは良かった。少し心配だったんだ───首の肉が抉れてそのまま頭が取れちゃうんじゃあないかって」

「大丈夫よ。力の殆どを失っても私は術者としては秀でている方だし───それに肉体の再生は亜術の十八番だから。今日は学校には行かないの?」

「うーん。月曜は行かなかったし、今日も休もうかな───ちょっと行きづらいし」

「そう。なら行きなさい………行かないのは私が許さない」

「わかりました。はい」


クリミアに言われたら仕方ない。

けど、どんな顔をして彼女に会えばいいのだろうか。

あんな風に呼び出して置いて知らん顔して会いに行けるほど僕は根性は座ってない。

まあそれは行ってから、考えればいいか。

そしてそのまま僕はクリミアと軽く話してから、学校へと向かった。


彼女はいつもと変わらず学校にいてクラスの奴らと楽しそうに話している。

僕はそれを少し離れた所から見てタイミングを見計らっていた。

彼女に謝りたいと思ったからだ。

そして昼休み───僕は彼女の方に行き、


「その金曜の事はごめん。呼び出して置いて僕は覚悟が足りていなかった。」

「───?そんな風にかしこまらないでよ。それに覚悟なんて、そんなに大切な話をしようとしてたの」

「えっ、ああ───うん。そうなんだ」


そして僕は気付く首元から微かに見える痛々しい血が滲む包帯。

大怪我だ。

何かあったのだろうか。


「昨日は学校に行ったのか?」

「うんうん。昨日は調子が悪くて休んだんだ」

「その傷はどうしたんだよ」

「えっ、これ───?今朝派手に転んじゃってさ………血は直ぐ止まったんだけどね」


クリミアは言っていたフードの正体は学生かもしれないと───これは充分にありえるんじゃあないか。

彼女がフードの可能性がある。


「うーん。バレちゃったか………」


僕の焦りが顔に出てしまったからか彼女は笑いながら、こう繰り返す。


「…………一旦場所を変えてもいい?」

「────」


僕は無言で彼女の小さな背中について行く。

そして彼女の後ろ姿を見て気づいた。

右腕に少し残る短い刃先が完全に腕に吸い込まれて行った事に。

場所は学校の校舎裏で彼女突如にして別人の様に笑い出した。


「あっははははははははは!私ね───貴方をとても侵してだへてみたいの………だから大人しく死んではくれない?あの時の事を悪いと思っているならさ───私今傷が治りきってないから逃げられると追いつけないから、ね?」

「───嘘だろ………。」


そのまま血相をかいて走る他に僕には選択肢は

残されてはいなかった。

彼女はそんな間抜けな僕を必要に追うことは無く、ただ嗤いながらその場で立ち尽くしているだけだった。

僕はそのまま学校に戻る事はなく家に逃げ帰り姉の憎まれ口を無視して、クリミアのいる自分の部屋に戻った。


「───学校はどうしたの………まだ終わってないでしょ」

「フードの正体がわかった………僕の知っている人だったんだ」


クリミアの顔を直視出来ない。

別にクリミアが責めたりしない事は分かっているし、クリミアの赤い瞳が怖いとも思わない。

ただ少し浮かれていた自分が恥ずかしくて、好きだった人から背を向けて再び逃げた事が情けなくて見る事が出来ないんだ。


「その様子だと………君のかなり身近な人だったのね。」

「ああ───そのクラスの好きな人だったんだ。あのフードは………」

「そうそれは災難ね。じゃあ準備をしましょう。あっちも傷は癒えきってないだろうから、夜になる前に心の臓を抉り出せば再び動き出す事はないだろうから」

「ちょっと待てよ。彼女を殺すのか?」

「そうよ。殺さないと魔剣は止まらない………だから君はここで待ってて。私がケリをつけるから、あの魔剣とは二千年近くの因縁がある。手を汚すのは私だけでいい。」


その白い髪をなびかせて彼女は澄ました顔で僕に向かって言う。

彼女を殺すと───、僕に黙って部屋で縮こまっていろと───ふざけるな。


「ふざけるな───!!彼女は殺させない。僕はクリミアを殺してでも彼女を守ってみせる」

「ふざけるな───か。そうね………」


クリミアはベッドから立ち上がり、僕の方に迎えあって右の頬を殴った。

背の低い彼女の軽いパンチに痛みは少なく、それよりもクリミアが荒げた声に痛みを感じた。


「ふざけるな───なんて、クソ喰らえよ。もう少し、頭を捻ってから考えなさい。君の感情一つで平穏に過ごす人々を脅かすなんて許されない。いいかもし彼女の事が死ぬほど好きなら殺してでも彼女を救うんだ!君の考えは後悔と悔恨しか残さない優柔不断なモノだ。」


美しいクリミアの白い肌が怒りで歪み涙を流す姿はまるで僕では誰かに対して訴えかけているように思えた。

クリミアも過去に何度もこんな場面に出くわしてきたのだろう。

人喰いの鬼を倒すために自らを代償にした女だ。

だったら僕にだって通したい筋はある。

ここから先に僕が何を言ったかよく憶えていない。


「ああ………いいさ。クソ喰らえで充分だよ!」

「僕は好きだった彼女が怪物になっても助けたいんだ。」

「死ぬほど彼女が好きだった。だから僕は命を賭けて彼女の命を救ってみせる」

「───そしてそれ以上に僕は君が好きだ。僕はクリミアの手をこれ以上汚させはしない………絶対にだ」


クリミアの反応はとても渋い物だった。

コイツ自分で何を言っているのか分かってるのか?て顔だ。

分かっているさ。

最低なのは言われなくともよく理解している。

けど、これが本心なんだからしょうがないだろう。


「ふぅ、うん。これがNTRか──」

「いやそれは違うと思うよ、クリミア。」

「まあ何だかとんでも無いし最低だけど、そう気分の悪いモノでもなかったよ。私は丸くなってしまったのか───それとも浮ついていた父の影響だろうか。どちらにしろその返事はこの一件が終わってからだ………剣を持て少年。これから正念場だ」


壁に立て掛けられた剣を握り覚悟を決める。


「ああ彼女を救いに行こう」


命を捨てて彼女を救う───それがこれから起こる全てだ。






---






「クリミア………彼女は家にいないようだ」

「ええそれにしても酷いわね。ここは」


彼女の家を探すのにそう苦労はしなかった。

一年生から同じだった彼女の家の場所は大体把握していたし、それなりに大きな家だと聞いていたから直ぐ分かった。

僕らは馬鹿正直にインターホンを押したけど誰も出てくる気配が無かったから、クリミアの力を使って鍵を開けて彼女の家へと侵入した。


「───なんだこの匂い………」



玄関へと入ると鼻が詰まるような悪臭が立ち込め、その原因は直ぐに分かった。


「腐敗が進んでいる死体が数えられるだけでも20体近い。彼女はとても暴食らしい一週間も経たずこの量は常軌を逸している。」

「ああ異常なのは確かだ。」

「喰い残しが多い。それに見たところまだ帰ってきていないようだ───」

「何で分かるっ───て、お前また………」


クリミアの小さな手は血に染まり口に肉を含む。

またサイコメトリーをしているのだろう。


「彼女は深夜に自分の指を喰い散らかし、それからまだ帰ってきていないよう。今頃行きずりの人間を喰っているじゃあないかな。はやく探した方がいい」

「ああ、急ごう。」


クリミアと僕は彼女の家を後にして直ぐに思い当たる場所を探して回った。

あの時の空き地だったり、駅の辺りであったり───だけど彼女の姿はどこにもなかった。

陽はすっかり暮れてしまい僕たちは線路沿いの道を歩いていた。


「本当にこっちであってるのか?」

「分からない。手掛かりがないから………でも彼女が君を喰らおうとしたらなら、その内姿を顕す」

「僕は……囮………?」

「そう───それに丁度………魚は撒き餌に惹かれたようね」


線路に電車が走る。

凄まじい音は彼女の雄叫びを打ち消した。


「アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「みーっつけた、今から肋を一本一本抜いてお腹の中を丁寧にスムージーにして飲んであげるからね──ッ!!」


彼女の姿はいつものフード姿に右手は大きな剣へと変わり、全身の至る所の肉は肥大し紫色に変色している。

あれを怪物と言わずして、どんなモノが怪物なのだろうか。

彼女の踏み込みはコンクリートを砕き、あの空き地の時のように跳躍する。


「────」


僕は強く剣を握り、目の前の彼女に向かい合って覚悟を思い出す。

彼女を必ず救ってみせる。


「────貴女は私の恋敵だから一先ず、その汚い口を閉じなさい。」


クリミアは両手で自分の胸を突き刺し、大量の血を零す。


「────」


そこから先の戦いを理解する事は僕には出来なかった。

跳躍する彼女の右手の剣を大量に溢れさせた血を触媒にして銀色の液体を生み出して、全てを受け流す。

クリミアには彼女の恐れしい膂力は止めらない。


だから受け流す事しか出来ない───それでも彼女にはそれで充分なのだろう。

最初から防戦しか出来ない事は理解していたからこそ、前回と同じ様に僕に剣を手渡した。

だが彼女は理性を失っても決して同じ手に二度も引っかからない。

剣戟の攻防を不毛と悟った彼女はクリミアを無視し、僕に向かって左指の五指を肥大させ鋭くし飛ばした。

その速度は僕には反応出来るモノではなかった。


「させない───」


クリミアは必死に止めようとするが五本の内三本までしか防げなかった。


「────あっああああ………!!」


一本は右肩に深く突き刺さり、もう一本は首元に擦り皮膚を切り裂いた。

僕は痛みに耐えられず、剣を離してその場に倒れ痛みに悶える。


右肩に突き刺さった指を抜こうと試みるも返しのある鋭い指を抜くにも痛みが邪魔をする。


「───大丈夫……?」


クリミアは銀色の液体で彼女の動き止め僕に駆け寄る。


「こんな事してる場合じゃあないだろう!」

「分かってる。君に出来ないなら私が心臓を破壊する………剣返してもらうよ」


クリミアは落ちた剣を拾い上げ、剣で左の掌を切り裂いて剣に血を滴らせる。


「どんな剣もこれで魔剣になる。」


剣は緋く光り、クリミアの赤い目と重なってその姿は神々しさすら感じた。

彼女は液体から脱出し、こちらに向かってくる。

クリミアは剣で立ち向かおうとするが、彼女の右手で肩から切りさかられて剣と一緒に腕を落とした。


「ギャアアアアアアアアア!!」


彼女は叫びながら左手でクリミアの首を握り、骨をへし潰した。


侵してあげるたべてあげる。」

「──────!!」


痛みなど捨てておけ。

お前を殺してやるたすけてやる

その隙に僕はクリミアが落とした剣を握り、右手の剣に向かって渾身の一撃を喰らわした。


「“____________________________”」


彼女の右腕の剣は砕け、無数の破片になって空へと向かって飛び散った。

彼女の禍々しい身体は元の姿に戻り、無くなった右腕を除いて元の姿へと戻る。

そしてそのまま倒れる彼女を支えようとして、僕は彼女と一緒にその場で倒れ伏した。




---




「目を覚ましたかい」

「クリミア………ここは?」

「君の家さ───頑張ったよ。本当に」


少しだけ大きくなったクリミアはとても嬉しそうな顔で僕の目覚めを出迎えてくれた。

僕はベッドの上で長いこと眠っていたらしい。


「あの後どうなったんだ」

「魔剣は君によって砕かれて、その破片は世界中に飛び散った。運良くその場に残った破片は私が回収して少しだけ元の姿に戻った。彼女は右腕を失ったけど、それ以外は無事。心も大丈夫だったから止血をして、救急車を呼んでおいたわ。彼女の家はキチンと掃除したから、まあバレる事はないでしょう………」

「彼女に謝らないとな」

「ええ、そうね。」

「クリミアはこれからどうするんだ?」

「文字通り自分探しの旅よ。失った力は魔剣にあって、その魔剣は世界中に飛び散った。だから探さないとね」


何だか少し成長したクリミアは更に素敵になっていた。


「────ついていく」

「えっ?」

「僕もついていくよ」

「彼女はどうするの?」

「もう彼女は救った。次はクリミアを救う番だ。」

「そう───それもいいわね」

「じゃあ行こうか………」

「ちょっと───」


僕はベッドから起き上がりクリミアの手を取る。


「善は急げだ。」

「ええ、そうね」


僕たちの旅は今日始まるんだ。






---






「君はいつ帰ってくるんだよ。私はずっと待ってるから───あの時言えなかったこと………あるんだから、貴方の事が好きだって。」


右腕の無い隻腕の少女は病室で彼を待つ。

ひたすら彼を愛しながら。

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愛を叫んだその先に 軽佻浮薄 @keityouhuhaku

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