博士の食卓

須藤二村

博士の食卓


https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054889667307

カクヨムしりとり 出品作

キーワード【虫 or 昆虫】

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 ピエールが博士の家に到着し、呼び鈴を鳴らすと家政婦ロボットが出迎えて中まで案内してくれた。

 リビングでは博士がテーブルの上で何かの機械を準備している。


「やあ、博士。今日はいったい何のご用ですか?」


 ピエールに気がついた博士は満面の笑みで歓迎し、またピエールも慣れた様子で博士の向かいに腰掛けて続きを待った。


「わしが以前から食糧難に備えて、新しい食材を研究していたのは知っているじゃろう」

「ええ、と言うことは、ついに完成したのですね?」


 博士は満足そうに頷く。


「さよう。そこで料理の専門家である君に試食を頼みたいのだ」

「いいですとも。それは楽しみです。いったいどんな食材なんでしょう」


「遺伝子操作で味と大きさを改良した【虫】じゃ」


 それを聞いてピエールはギョッとした。確かに【昆虫】食は以前から話題には出ていたので試したことはあった。しかし、とてもじゃないがピエールの高級店で出せるようなシロモノでは無かったのである。

 それを見て博士はピエールの考えを先回りするように言った。


「心配いらん。味も改良したと言ったじゃろう。考えてもみたまえ、エビやカニのような甲殻類だって虫の親戚みたいなもんじゃないか」


 ピエールはそれを聞いて、なるほど一理あると思った。


「ただ、やはり慣れないうちは見た目がグロテスクじゃ。そこでこれを用意した」


 博士はテーブルの上のVRゴーグルを手にとって、ピエールの頭にかぶせながら説明を続けた。


「これをかけるとグロテスクな素材のみがフィルターにかけられて別の映像に変換されて見えるのじゃ」


 二人はVRゴーグルをかぶってテーブルについた。ゴーグルを通して見える風景はかける前とまったく同じに見える。

 さて準備は整った。博士が家政婦ロボットに合図すると、巨大な伊勢エビが乗った大皿を持って現れ、二人の前にそれぞれ皿を置いた。


 恐る恐るピエールが伊勢エビにナイフを入れて身を頬張ると、なんとも感動的な美味さに仰天した。ぷりぷりとした身を噛みしめるごとにジューシーな旨みが口いっぱいに広がって、あっと言う間に平らげてしまったほどだ。


「博士、これは美味いですよ。うちの店の食材としても申し分ありません。これは本当は何の虫なんですか?」


 ピエールが興奮気味に博士に聞く。


「わしもゴーグルをしているから分からないが、おそらく巨大芋虫だな」


 二人が伊勢エビを食べ終わる頃には、家政婦ロボットがまた次の料理を運んできた。

 今度はタラバガニのように見えた。


「これも美味い! この脚はポン酢に合いますね。カニ味噌が……また何とも言えずコクがあって……、たぶんこれは蜘蛛なんでしょうね?」


「ああ、きっとそうじゃな。実を言うとわしも食べるのは今日が初めてなんじゃ」





 家政婦ロボットがキッチンから二人の様子をうかがっている。

 普段の御主人であれば、スリッパで叩き潰してゴミ箱に捨てているような物を、美味い美味いと言いながら食っていた。

 味覚が変わってしまわれたのであろうか。


 家政婦ロボットは、捕虫機に溜まっていた大量の甲虫と、ゴミ箱の生ゴミを炒めて出してみた。


 二人の様子をこっそり観察していると、これも美味いと大絶賛している。

 家政婦ロボットは確信を得て、何か無いかとゴミを探したが、普段清潔にしているだけあって、そうそう捨てる物などなかった。





「いやーどれも美味い! 博士、ちょっとお手洗いをお借りしますよ」


 ピエールは上機嫌で席を立ってトイレに行くと、しばらくして笑い声と共に走って戻ってきた。


「博士、今トイレで出た物を見てくださいよ! いやー、このゴーグルはどうなってるんですかね。凄く面白い物体に見えてしまうんです」


 ピエールがあんまり言うものだから、博士も一緒に見に行ったが、トイレの便器には何もなかった。


 うっかり流してしまったのだろうか? と首を傾げるピエールと博士が席に戻ると、ちょうど家政婦ロボットが、見るからに美味しそうな【ハンバーグ】の皿を持ってやってくるところだった。



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博士の食卓 須藤二村 @SuDoNim

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