第3話 再び官邸室で

「君は、きちんと工作したんだろうね」

長官が直立不動の男に尋ねた。

「はい、彼女らのメディア露出は控えさせ、スキャンダルを流し、他のグループを独立させ、彼女らの活躍をできるだけ抑えさせました。」

その言葉を聞いて、長官はいらいらして言った。

「首相がお怒りなんだよ。なんでも、最新曲が100万ダウンロード達成しゴールドディスクを得ているというではないか?」

「えっ?そうなんですか?」

「なんだ、君は知らんのか?」

「はい、きちんと有線放送から『一人狼』は消し去っておりますし、一般にはほとんど流れていませんから、ゴールドディスクは無理なのではないでしょうか?」

その言葉に長官はいらいらをつのらせた。

「君は、ニュースを見ないのか?」

「はい」

「なぜだ」

「いえ、ほとんどのニュースは、官邸が用意した共同記者会見のソースそのままですから、真実はそこにはないことを知っておりますから、、、」

「ばかもん!!!そんなことは、わかっておる。」

長官は激怒し始めた。

「中には、官邸がかかわらない事件もあるのだぞ。」

「それはそうですが、、、何か不都合な事件でもありましたか。」

「お前は、本当に大バカ者だし、情報にうとすぎる。」

「と、いいますと?」

「ほら、最近ローカルアイドルグループのスキャンダルがあったろう!」

「そういえば」

「そのグループで卒業メンバーが『一人狼』を歌ったのだ。」

「えっ、そうなんですか?」

「それで、また、『たすき21』が脚光を浴び、すでにゴールドディスを得てしまったということだ。そして、そんなに世間に浸透し始めているのに有線放送やメディアに流れないのが不自然だと、勘づき始めたファンがいるそうだ。」

長官が苦虫をつぶしたような顔で言った。

「しかし、一部のファンの気づきが国勢に影響するとは思えませんが」

長官に叱られ、ますます存在感の乏しい男が言うと、

「アイドルのファンの団結力を甘く見てはいけない。彼らの情報はまたたくうちに拡散する。公営放送が国内のデモを封印しても、世間は騒がないが、アイドルファンは別だ」

「そうですか。なかなかしぶといアイドルとファンですね。」

存在感の薄い男はそう言った後、またしても言ってはいけない言葉を小さな声で発してしまった。

「そうだよね、それでこそ『たすき』だね」

小さな声だった。けれど、例によって、二人しかいない極めて厳粛な官邸の中である。

 その後、長官の大声が響き渡ったことは、言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイドル抹消 @ryoukai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ