第4話「JK、珍味を食す②」
「ふん。今日はこれを食べきるまで学校には帰らせないのよ。だから早く来たかったのよ。さあ早く食べるのよ」
山口里奈は出されたイナゴの佃煮に顔を遠ざけながら、顔を揺さぶり、口をしっかりと閉じている。
田口実里はイナゴの佃煮を箸で取り、ご飯と一緒にパクリと躊躇なく食べた。
「味はどことなく、甘えびのから揚げみたいなのよ。もぐもぐ。見た目のわりに意外と美味しいのよ」
パクパクと食べる田口実里。その姿をまじかに見ていた山口里奈は、ジッと田口実里を見ながら、目で訴える。
「本当に甘えびのから揚げなの?」
「食べてみたらいいのよ」
「でも見た目が……」
「それなら今日の昼ご飯はライスのみなのよ」
山口里奈は「よし」と声を出し、何かを決意したそうだ。ごくりと喉を鳴らした。
「女は度胸よ。見てなさい。みのりん!あたしは今からこのイナ……、この甘えびを食べるわ」
「いいから、早く食べるのよ。時間が無くなるのよ」
目をギュッとつぶりながら、口にイナゴの佃煮を口に入れる山口里奈。田口実里はその姿をニヤニヤと見つめる。
一口食べてから、もう一個口に運ぶ。その姿をじーと田口実里は見ている。山口里奈はコクリと飲み込むと、その感想を田口実里に伝えた。
「…………見た目に似合わず、甘えびのから揚げね。これ……」
「でしょうなのよ。びっくりなのよ。こんな虫のから揚げから甘えびの美味しい触感なんて想像もつかないのよ」
「目をつぶって、これは甘えびよと思い込んだらいけそう。これはこれで美味しいかも」
意外なお味にご飯が進む二人、時折無言になることも少々に、イナゴの佃煮が残り一個になっていた。
田口実里は箸の先をパチパチと音を鳴らす。
「さて最後の一個は私が頂こうかしらね。それではいただきますなのよ」
「ちょっと待った!みのりん。これはあたしが頂くわ!」
田口実里の箸を山口里奈は自分の箸でパチンと防ぐ。田口実里はギュっと山口里奈を睨みつけた。
「なんのつもりなのよ。これは私が目につけていたのよ」
「ふふふ、みのりんはそのつもりかもしれないけれど、あたしも最後のイナゴは譲れないわ」
目をパチパチと見つめあう二人。ふと田口実里は時計に目が入る。
「あ、もうこんな時間なのよ!昼休みまであと十分しかないかしら」
「隙あり!いただきまーす。みのりんの分まで堪能するよ」
「あああああああああ、なのよ」
田口実里が目を離した先に、山口里奈がペロリと最後の一匹、イナゴの佃煮を口に入れて残りのご飯を口に含んだ。
「うっまいいいいいいいい、ごちそうさまでした!」
「覚えてろなのよ。食べ物の恨みは友情に亀裂を生むのかしら」
田口実里も残っていたご飯を口に含み、ごくりと飲み込む。手を合わせて、「ごちそうさまなのよ」とだけつぶやいた。
ご飯の料金を払ってから、お店を出た二人。残りの時間を気にしながら速足で歩く。
「もー、いい加減許してよ。隙を見せたみのりんも悪いんだからね」
「ぷんぷんなのよ。気にしてないのよ。ぷんぷん」
「怒ってるじゃない。もう仕方ないわね。学校終わったらおすすめなお店に連れてってあげるからさ」
「ぐっさんのおすすめなお店ってまたラーメンの事言ってんのかしら?」
田口実里のジトっとした目線と指摘に、山口里奈がギクッと肩を上げる。だけど今回は秘策があったらしく、ニヤリと微笑む。
「そうだけど、今回は特別よ。食べきったら賞金も出る、特性ラーメンよ。ゲテモノハンターのみのりんには冒険必須じゃないの?」
「なになのよ。ゲテモノハンターって、それに冒険家じゃないかしら。……、ちなみに賞金はいくら出るかしら?」
「五千円!」
「仕方ないかしら。連れていくことで許してあげるのよ。ああ、本当だったら絶交する気分だったのだけど、今回ばかりは許してあげるのかしらね」
「みのりん、あまりにもちょろ過ぎない?」
「何か言ったのかしら?」
「何でもないよ。みのりん。ツッコミありがとう」
キーンコーンカーンコーンと昼休みを告げる予鈴が学校から響き、聞こえてきた。
「「!!」」
「やばい。もう時間過ぎてたかしら」
「先生に怒られちゃう!」
無言の猛ダッシュで二人は学校に帰っていった。間に合ったかどうかは想像にお任せしようと思う。
食べ歩きから始まる自称グルメの田口さん 誠二吾郎(まこじごろう) @shimashimao
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