文化部だって異能力バトルがしたいッ!

獲れたてリヴァイアサン

第1話

「なあ水野君、頼むからクイズ部に入ってくれないか!君のクイズ力、特に雑学の知識がウチには必要なんだ!君がいれば全国大会も夢じゃない!」


クイズ部の部長が熱っぽく語りかけてくる。


「お願いですから勘弁してください…僕はもうクイズを辞めたんです…」


「やっぱりあの大会のことが…」


「そうです…あれから何度もチャレンジしました。でもダメなんです。どうしても大事な場面になると頭が真っ白になるんです。だから僕はもうクイズはできません」


「でも君はクイズが好きなんだろう?」


「はい…とても。でもこのままじゃ先輩たちの足を引っ張るだけなので。それでは友達が待っているので、失礼します」


「水野くん…」


※※※


「はぁ…」


「どうしたの、元気ないじゃん」


幼馴染の恵美が僕の顔を覗き込みながら言った。


「いや…さっきクイズ部に誘われちゃってさ」


「入らないの?だって私たち華の高校生だよ!ブレザーだよ!ブレザー!青春しなきゃ!」


「いや、ブレザーは関係ないだろ…」


「えーだってあんなに好きだったじゃん!なんで?」


「ほら!クイズって…なんかダセーじゃん」


「そんなことないと思うけどな…あんなにクイズ好きだったのに。なんか変だよ…」


「ほっといてくれ」


学ランを来た男子高校生が近づいてくる。どこかで見たことがある顔だ。


「おい、鳳仙中学クイズ部元キャプテンの水野だな」


「えっ…はい。あのどちら様ですか?」


「俺は丹波工業高校俳句部の宗だ。お前に今からデュエルを申し込む」


「(なんか見たことあるなこの人…あっ思い出した!俳句甲子園で優勝した学校のキャプテンの人だ)」


「あのーよく意味が分からないのですが」


「なんだまだ知らんのか。まぁいい、どちらにせよ拒否権はない。…デュエル!」


突然の大声とともに、周囲の景色が紫の光に包まれた。まるで時間がとまったような感覚だ。


「なによこれ!?」


恵美が驚きの声をあげている。


「水野、お前はまだ文化神の啓示を受けていないようだから教えてやる。俺たちは選ばれたのだ。次世代の文化の担い手としてな」


「はっ…?」


「俺たちは自分が極めている文化にまつわる能力を文化神から授かった。そして、能力を駆使して戦い続け、最後まで勝ち残ったものには1つだけ願いを叶えられる。それが100年に一度開催される、『文化ウォーズ』なのだ。」


宗は淡々と説明を続ける。


「俺は…第二の松尾芭蕉になる。俳句の道を極めるため、この戦いに参加した」


「(何言ってんだコイツ…第二の松尾芭蕉だって!?)」


「だからお前をここで潰す。俺の能力『The Haiku(松尾芭蕉)』でな!」


『有り明けや 浅間の霧が 膳をはふ』


宗が俳句を読み上げた瞬間、周囲に霧がたちこめた。周りが全く見えない。


「なんだ!?急に霧が…」


どこからか宗の声が聞こえる。


「お前はまだ能力に覚醒していないようだからな、ハンデとして俺の能力を教えてやる。俺の能力『The Haiku』は『名作と呼ばれる俳句を読み上げることで、その内容が実際に起こる能力』だ」


「ヤバい…ヤバいぞ。どうやらアイツが言っていることは本当らしい。逃げないと…」


パッと霧が晴れた。宗は塀の上に登ってこちらを見下ろしている。


「デモンストレーションは終わりだ」


『荒海や 佐渡に横とう 天の川』


目の前に大量の水があらわれ、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


「ガハッ…ゴホッ…これは海水…。はっ恵美は!?恵美!」


恵美は道路の端でうつ伏せになって倒れている。


「オイ、しっかりしろ!大丈夫か?」


「ゴホッゴホッ!うん…なんとか。なんなのこれ…怖いよ…」


「しまった、女がいたか。まあいい、未来の文化の礎となるのだ。光栄に思え」


「文化の…礎だと!?犠牲の上に成り立つ文化なんてな、クソ喰らえだ!」


水野の胸に光が灯り、あたたかい声が頭に直接流れ込んでくる。


「(能力に目覚めましたね…アナタの能力は…)」


「しまった!能力に目覚めてしまう!仕方ない、あまり使いたくはなかったが…」


『夏草や 兵どもが 夢の跡』


武士の幻影がいくつも現れ、こちらへ襲いかかってくる。


次の瞬間、2人は真っ暗なドームのような場所に移動していた。


「なっなんだこれは!?俺の武士たちは!?」


宗は慌てふためいている。


「ここではアンタの能力は使えないよ」


「なっなんだと!?『夏草や 兵どもが 夢の跡』」


何も起こらない。宗の表情がこわばる。


「これが俺の能力『アンストッパブル・トレイン(山手線)』さ」


「俺の能力『アンストッパブル・トレイン』は、空間を切り取り、『アンストッパブル・トレイン』が生み出した仮想空間に相手を引きずり込み、あるゲームを強制的にプレイさせる能力だ」


「ゲーム…だと…?」


「山手線ゲームさ」


宗の表情が曇る。


「(マズイ、クイズ部の水野は知識が豊富…このままだと)」


「ハンデをやるよ」


「なに?」


「アンタにはハンデをもらったからな。俺もハンデをあげないとフェアじゃない。そうだな、3回解答できたらアンタの勝ちでいい。その場合、無傷で元の世界に戻してやる」


「(驕りやがって、少し前まで中坊だった小僧が!)」


「気前がいいな!さすが元中学クイズ王だ!」


「じゃあ始めるぜ…解答時間はそれぞれ3秒。先攻は俺。テーマは…トイレのメーカー!」


「TOTO」


「えっ!?トイレのメーカー!?リ…LIXIL!」


「アメリカンスタンダード」


「(聞いたことねえぞ、そんなメーカー)」


「タイムオーバーだ」


「そっ…そんな!ずるいぞ!トイレのメーカーなんてそもそも2〜3社しかないものをテーマに選びやがって!」


「何を言ってる、パナソニックとかジャパンコーラとかジャニス工業とか色々あるだろ」


「クッ‥クソォォォォ!」


「『アンストッパブル・トレイン』」


電車の姿をしたまばゆい光が宗の体を貫いた。宗の体が宙に舞い、気がつくと元の世界に戻っていた。


「水野!大丈夫!?」


「あぁ‥なんとかな」


「さっきの人は?」


「あそこでノビてる。当分起きないだろ」


「一体何なの?『文化ウォーズ』とか、願いが叶うとか。アンタも急に変なこと言い出すし…」


「俺も良くわからん。ただ、少なくともさっきのは夢じゃないみたいだ」


「まぁ良く分からないけど、一旦ここを離れない?早く家に帰りたい」


「そうだな、帰ろう」


「(1つだけ願いが叶うのが本当だとしたら、俺のトラウマも…)」


「どうしたの真剣な顔しちゃって」


「いやなんでもない。気分転換にさ、山手線ゲームやんねえ?」


「えーやだよ。どうせ『お題はトイレのメーカーな』とかずるいことするでしょ」


「ハハ、そうかもな」

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