第10魔 -ほしいもの-
魔の時間。
私と詩穂は納品されたおにぎりやらサンドイッチやらを商品棚に並べていた。その最中。
「今一番欲しい物って何? 現金有価証券その他金券の類全般以外で」
なんとなしに、隣で鼻歌を歌いながら陳列をする詩穂に問うた。
「んん? んー。パッシブスキル」
「現実に存在する物を言え」
「SSR【passive】オートカウンター[威力:被ダメの130%][対象:全方位][リキャスト:3.7秒]が欲しい」
「人の話を聞くパッシブスキルから取れ」
……しかし性能の良いパッシブスキルだなそれは。どんなゲームなのかは存じ上げないが壊れスキルなんじゃねえの?
「聞いただけで強いな。なに、そういうゲームがあんの?」
「無いよ? わたしのかんがえた最強のパッシブスキル」
ねーのかよ。
「はっ倒すぞ」
「やってみな、アタシのオートカウンターが火を噴くよ!」
「未習得じゃなかったのかよ」
詩穂の方を見ると、反撃の構えを取っていた。全方位オートカウンターなら私をガン見する必要ないだろ。はやく陳列をやれ。
「なんでそんなもんが欲しいんだ?」
「いやね、駅前とか歩いてると歩きスマホしてる大馬鹿者がいるじゃん? いるんだよ。信じられないことに。持ってるスマホ爆発して破片が目に入って失明して欲しい」
「歩きスマホに親でも殺されたの?」
「そんで予期せぬ方向から大馬鹿者がぶつかって来るじゃん? ぶつかってくるんだよ。信じられない事に。昨日やられた。ああいう奴は謝りもしない。……思い出したら腹が立ってきたな。歩きスマホしてるド阿呆の端末破壊しても罪に問われない法律が欲しいかも」
「ターゲットそっちなのかよ」
スマホそのものには罪は無いだろ。
どちらにせよ、何気無い質問から返ってくる答えでは無いな……。
「ま、そういう時の為にオートカウンター習得したいのはあるかもね。……ところで、なんで急に欲しいものとか聞いてきたの? くれんの?」
「ん。詩穂って来月誕生日じゃなかったっけ?」
「え……」
言うと詩穂は、何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情になった。その反応は予想外なのだが……。
「そうだっけ。もうそんな時期かあ」
「冷やし中華初めましたのノボリ見た時の「もうそんな時期かあ」と同じ言い方やめろ」
「それで欲しいもの聞いてくれたの?」
「そんなとこ」
一応。
一応、詩穂には世話になってる訳だしな。数少ない友人として。
「これは期待しちゃっていい感じ? 誕生日迎えたら歩きスマホ端末破壊許可法が成立してる感じ?」
「その期待には120%添えられないけど」
「リナちんには荷が重かったかー」
「おかしいな、なんかムカつく」
そんな権限ねえよ。議員になる為の勉強なんざ一切してないし。
「でも、リナちーがくれるならなんだって嬉しいけどね」
「そういう事を言うと、今の私の仕事を詩穂に押し付ける事だってやりかねんぞ」
「リーナーはそういうこと言うけどそういうことはしない人だかんね」
「……そうかよ」
「うん」
なんだ、この。
なんで若干恥ずかしい気持ちにさせられているんだ、私。
「よし分かった。お前の誕生日にはスキルポイントをプレゼントしてやる」
「虚無! 実質虚無じゃん! 実質ナントカって言い回しあんまり好きじゃないけどこればっかりは実質虚無だ! 何もあげないって言われる方がマシだよ!」
「それでオートカウンターでも習得しろ」
「誕生日に修行を課せられる……!」
そんなやりとりを、笑いながらした。
照れ隠しも兼ねて。
「ところで、林奈」
「む。なんか普通に呼ばれるのすげー久しく感じる。何?」
「林奈も今年誕生日だっけ?」
「毎年だわ」
コンビニバイト女ふたり るびび @karuby77
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