ママにいちばん近いとこ

紫 李鳥

ママにいちばん近いとこ

 




 リサは夕食のあと、自分の部屋に入ると、パパとおばあちゃんがリビングを出ていくのを待ちます。


 そして、リビングの明かりが消えたら、足音を立てずに屋根裏部屋につづく階段を上がります。


 そこには、ママが使っていたベッドやタンスが置いてあります。ハンガーラックには、ママのブラウスやワンピースがいっぱいあります。


 大きな窓からは明かりが差しています。お月さまの光を浴びて、ママのベッドもタンスもドレスも、みんなオレンジ色です。


 リサは、お月さまのママとお話します。


「ママ。あのね、きょうね、おばあちゃんのおてつだいしたの。そしたらね、おばあちゃんが『いいこだね』って、ほめてくれたの。リサ、すごくうれしかったよ」


 お話が終わると、オレンジ色の光に包まれて、ママのベッドで眠るのです。



 そんな、ある日。

 その日は、雨でした。


 お月さまのママに会えないリサは、寂しそうに、窓の雨だれを見つめていました。


 すると、


「やけに、さびしそうじゃないか」


 と、声がしました。


 びっくりしたリサは、


「だれ?」


 と、あたりを見回しました。


「ここだよ、きみの足のとこ」


 リサが下を見ると、白いネズミが見上げていました。


「わぁ~、おはなしできるの?」


 リサは感激すると、うつ伏せになって、頬杖をつきました。


「ああ。俺はトミー。よろしく」


「わたしは、リサ。よろしくね」


 リサとトミーは仲良しになりました。



 次の日から毎日、パパとおばあちゃんに見つからないように、夕食を少し小皿に入れました。そして、リビングの明かりが消えたら屋根裏部屋に行き、それをトミーにあげました。


 トミーは、おいしそうに食べると、


「ごちそうさん。いつも悪いね、おいしいものをいただいちゃって」


 と、お礼を言いました。


「ううん。だって、トミーとおはなしできてうれしいんだもん。……でも、どうしてトミーはおはなしできるの?」


 食後、ベッドでくつろぐトミーに聞きました。


「神様のごほうびさ」


「……ごほうび?」


「そう。川でおぼれてる子猫を助けたことがあるんだ」


「へぇ~。やさしいね」


「そんなことないけど、かわいい子猫だったから、ついつい。


 そんな、ある日。

 床下の落ち葉のベッドでくつろいでいると、


『ヘーイ、トミー』


 って、誰かが俺の名前を呼んだんだ。


 びっくりして、あたりをキョロキョロしたけど、代わり映えのしない光景しかなかった。


『トミー、キョロキョロしてもわしの姿は見えん。そのままで話を聞きなさい』


『チュー』


 とりあえず、話を聞くことにした。


『わしは神様じゃ。トミー、おぬしは、よい行いをした。小さな体でありながら、自分よりも大きな子猫を助けたじゃろ?』


 って、言ったんだ。


 俺は思い当たったので、


『チュー』


 って、返事をした。すると、


『立派な行いをしたほうびじゃ、これを受け取りなさい』


 って、言ったので、どんなほうびか楽しみだった。


 けど、いつまで経っても、何も現れない。


『チッ! 空耳か』って、ネズミ語で言ったはずが、聞こえたのは人間語だった。びっくりしたのなんのって。


 エッ? 俺、人間語しゃべれるじゃん。でも、どうして突然しゃべれんだろうって、よくよく考えた結果。


 もしかして、これが、神様のほうびかなって思ったんだ。けど、なんのために人間語をプレゼントしてくれたのか、そのときはわからなかった。でも、いまはわかる。こうやって、リサちゃんとお話をするためだったんだと……」


「トミー、……ありがとう」


 リサはうれしくて、涙があふれました。


「リサちゃん、泣かないで。俺だって、こうやって、リサちゃんと話ができてうれしいんだからさ」


「うん」


 返事をしたリサは笑顔になりました。


「リサちゃんの笑顔は世界一だ」


「うふふ……」



 お話が終わると、リサとトミーは、ママのベッドで一緒に寝るのでした。


 それは、リサにとって、とても楽しい時間でした。



 そんな、ある日。

 パパが女の人を連れてきました。


 その女の人を見て、リサはびっくりしました。ママにそっくりだったのです。


 リサは思わずほほえみました。



 でも、ママにそっくりな新しいママがやって来てから、トミーはいなくなりました。



 もしかしたら、トミーが、新しいママをプレゼントしてくれたのかもしれない、とリサは思いました。




「トミー、……ありがとう」




end

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