15sec エピローグ



「イットキさま、お覚悟っ!」


 精鋭が集うカイロス王国騎士団の騎士館に、木を打ちならす 乾いた音が威勢よく鳴りひびく 。



 その 敷地に設けられた広い芝生つき の庭では、メイド服の上からみがるな 防具を身に着けた少女と、同じような防具セットに加えて右手に赤い手甲を身につけた 青年が、木刀で激しく打ちあっていた 。



「はぁあっ!」


 青年が身長差を生かしてするどい 逆袈裟斬りを放つが、メイド少女の木刀でたやすく 受け止められてしまう。


 少女はすばやく 青年のふところ に潜りこむ と手首を返し、胴へすれ違いざまの水平斬りを放つ。


 それを青年は必死にとびのいて 皮一枚で躱すが、体勢を崩しそのまましりもち を付く。



 青年の鼻先にそっと木刀が突きつけられた 。たまらず、青年は両手をあげて ギブアップ する。



「今日わたしの勝ちですね、イットキさま。」

「ははっ、負けたよハニース。」



 ――――。






 ―――昼下がり。心なしかいつも以上に気合の入った騎士たち の稽古を見ながら、男女三人が木陰でサンドイッチに舌つづみ を打っていた。



 一人はカイロス王国の王女の一人、チコリス。


 あと二人は先ほどまで練習試合をしていた青年――イットキと、メイド服姿の騎士みならい――ハニースである。



「 ハニースの動きってほんと速いよなぁ。キビキビしてるというか芯が通ってるというか。」


「ん、そういうイットキさまもだんだんになってきてますよぉ。先月くらいまでスピードで押せていたのに、最近はカウンターでヒヤッとする場面が増えてきましたぁ。」


「うんうん、二人ともよくなってきたってアルフリッド団長もよろこんでたわ 。」





 時の呪い事件から三カ月、イットキはこの世界で新しく始まった生活を、苦労しながらも楽しく過ごしていた。 



 体の傷が癒えたころにいつの間にか進んでいた僕とハニースの婚約話を告げられたり、それから休みなく毎日続くハニースの剣術稽古、さらにはいつか 王族に名を連ねるためのさまざまな勉強などおちおち休む暇もない。



 こうして稽古をしたあと の昼食が唯一ゆっくりできる時間なのだ。



「イットキさまは私の苦手なパワータイプ ですからねぇ。そういう相手と常に剣技を磨いていないと姫様を守り切れませんから、イットキさまは絶好の練習相手ですよぉ。」


「ハニース、騎士団の正隊員の人たちとは訓練する機会があまり取れなくて困ってたものねぇ。」


「騎士団の人たち、警邏けいらとかで忙しそうだもんなぁ。僕もハニースに引き離されないようもっともっと鍛えなくちゃ。」




 すこし 離れたところでは激しい金属音。まだ未熟者扱いのイットキとハニースと違って、正隊員たちは青銅ブロンズアイアンでできた摸造刀で打ち合う。その迫力はすさまじく 実戦とほぼかわらない 力強さと熱気が正隊員の訓練にはあるのだ。


 特に、今日みたいにチコリスや王族が見に来ている時の戦いはすごい。本気を通り越して、見ている者を震わせるような殺気すらある時がある。



「よし、ハニース。そろそろ午後の訓練やろうよ。」


「はいっ!望むところですぅ。今日は日が暮れるまで付き合えますからとことんやっちゃいましょう!」



 正隊員たちの本気の訓練を見ていたら体を動かさずにはいられない。

 イットキは剣を手に取り、再び稽古場へ向かう。


「それじゃ、頑張ってくるよチコリス。」


「うんっ!今日もカッコいいよイットキ!いってらっしゃ~い!」



 穏やかな日々が続いていく。今はもっともっと鍛えて、いつかチコリスを支えられるような男になるのが僕の目標だ。この幸せな日々をいつまでも守っていくために。




 降り注ぐ陽の光を受けて、彼女と僕をつなぐ銀の指輪がキラリと瞬いた。




(完)


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24秒勇者 ~24秒で一日が終わる世界で時の勇者になりました。 中谷Φ(なかたにファイ) @tomoshibi___

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