れいのうりよくしや

ちゅけ

第1話

「実は私、“ミエル”の」


彼女は心持ち前屈みになって私にそう告白した。

“ミエル”とはもちろん幽霊のことだろう。しかし誤解がないよう確認することにした。


「ミエル?なにが?」


「ふふ。決まってるじゃない。…霊能力者なの、私」


なるほど誤解はないようだ。さて、この告白の意図はなんだろう。

考えるまでもなかった。彼女はミルフィーユを丹念に解体しながら、自分がどれほどミエルことによって苦労してきたか、怖い思いをしてきたか、それを乗り越えてきたか、自分がどれほど特別かを語ってくれた。


「それでね、例えばさ、ちゅけの斜め後ろにもいるわけよ」


「ほうほう。なにが?どんなの?」


「血だらけの女よ。何処かで拾ってきちゃったのね。肩重くない?なんならその女、成仏させてあげようか?」


ふと己の斜め後ろを見る。残念ながら私にはミエナイ。


アンテナに例えると分かりやすいだろうか。彼女は1チャンネルがミエル。私は5チャンネルがミエル。私も彼女も嘘はついていないが、同じものがミエルわけでもない。1チャンネルと5チャンネルに対応したハイテク幽霊が運良くいたら、二人でキャーキャー云える。


「幽霊とか怪奇現象とか困ったことがあったらいつでも云ってね?」


そう云うと彼女はしっかり伝票を置いて席を立った。


「…チャンネル、合わなかったんだなぁ」


彼女の髪の毛一本一本に巣食う白い骸骨を見ながら、祈りと呪いは紙一重~♪と鼻唄で強がって、なけなしの二千円を手に私はレジへ向かった。

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れいのうりよくしや ちゅけ @chuke

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