エレメンタル性格診断をオレは許さない

野良猫のらん

属性ですべてを決めつけるな

 オレは絶対に許さない。

 この王都立魔術学校にて属性別エレメンタル性格診断を流行らせ、あろうことか『地属性は腹黒』なんて吹聴したコイツをッ!


「おいおい、何をマジになってんだよ?」


 張本人のアキッレーオはへらへらと笑っている。

 オレに決闘を申し込まれたのにも関わらずだ。


「属性というのはただ単にどの属性の魔術が得意かという傾向を表すものでしかない。それを人格と結び付けやがった貴様はただじゃおかない!」


 こうして訓練場の対人戦スペースに入っても彼が余裕の表情を崩さない理由は分かっている。

 それはオレが月型地属性だからだ。


「へえ、『ただじゃおかない』ねえ? 太陽型水属性の俺様に勝てるとでも?」

「ああ。性格診断を撤回するなら、決闘も止めておいてやるが?」


 属性には火水風地の他に、太陽、月、星というものがある。


 太陽型の者は魔力量が多く、代わりに魔術の制御が苦手。

 月型の者は魔術のコントロールが得意だが、代わりに太陽型ほどの魔力量は有していない。

 そして星型の者は非常に珍しく、何か特殊な能力を持っているとか。


 ちなみにコイツ、水属性の性格診断だけ「優美な性格」「細かいことに気がつく」とか「優しい人が多い」とかとか良い事ばっかり書きやがった……! ふざけんな!


「お前こそ決闘なんて止めて、大人しく魔術ローブの仕立て屋にでも就職しとけよ」


 一般的に太陽型の方が戦闘に向いていると言われている。

 月型は生産系の職に就く者が多い。

 だから彼もオレのことを舐めているのだろう。


 対人戦スペースの周りにはギャラリーが集まっている。

 彼らが見ているからには、言われっぱなしではいられない。

 この場で性格診断を否定するのだ。


「すべてを属性で判断するお前は、一度叩きのめさないと駄目なようだな」


 ブーッ、と対人戦スペースに音が響く。

 試合開始の合図だ。


氷穿槍アイスブラストッ!」


 いきなりデカい氷の塊が、飛んでくる。

 アキッレーオの得意技だ。

 一般人が思い描く『魔術師らしい戦い』を得意とするのが太陽型の特徴だ。


「はッ!」


 土の壁を前方に展開して防御する。

 月型特有の制御力を駆使し、的確に氷塊を食い止める。


 氷塊が壁にガツガツとぶつかり、砕けた。

 氷の欠片が混じった涼風が身体の横を抜けていく。


「思うんだがな。水属性が水だけじゃなく氷も使えるのはずるくないか?」

「何言ってんだお前、水属性っていうのは氷も内包してるんだよ」


 アキッレーオは呆れたようにオレの軽口に答えながら、さらに魔術を展開する。

 頭上に魔力の流れを感じ、ハッと見上げる。


 巨大な氷柱。


 それがまさにオレの頭目がけて降ってこようとしている。


大地剛腕アースシールドッ!!」


 地面から出た岩の腕が、氷柱を払い落とす。


 ガリンッ。


 オレの頭に降ってきたのは氷の欠片だけだった。

 だが慣れない大型の魔術を行使した反動で、岩の腕はすぐさま崩れ去ってしまった。


「防戦一方じゃねえか、まだまだ行くぜッ!!」


 アキッレーオが多数の氷柱を展開する。

 どうやら調子に乗っているようだ。


「今だ」


 ここが月型の繊細な制御力の見せどころだ。

 地面を伝わせて彼の足元まで伸ばしていた魔術を、起動する。


「ぬおッ!?」


 サクッ。


 ナイフ程度の小さな黒い刃が、彼の足を切り裂いた。


「なーんだ、ビビったけど大きな刃を作るには魔力量が足りなかったみたいだなァ?」


 アキッレーオが余裕の笑みを浮かべる。


「いや? それで充分さ」

「あ……? 何を言っ……」


 彼の笑顔が固まり、そして地面に膝をつく。


「ゴハァッ!」


 血を吐きながら。


「"地"は"血"に通ずる。今、お前の体内の血を操っている」


 一歩、一歩彼に近づく。

 近づくほどに影響力が強まり、彼の顔の血管がビキビキと浮かび上がってくる。


「そ、そんなの、屁理屈だ、ろ……」

「性格診断を撤回すると言え」


 拳を握り、彼の体内にさらにダメージを与える。

 腹を殴られたかのように、彼が再び血を吐く。


「て、撤回する……!」


 ブーッ。

 再び音が響き渡り、試合終了が告げられた。


 ギャラリーがざわざわとしている。


「うわ、陰険な勝ち方……」

「地属性は腹黒って本当だったんだな……」


 あれ、なんか嫌な方向にざわめかれてる?


「やっぱり属性別エレメンタル性格診断って当たってるかも……!」


 な、何故だー!?!?


 こうしてオレはますます属性別エレメンタル性格診断を流行らせる原因を作ってしまったのだった。


 ちなみにアキッレーオ自身はもう性格診断を吹聴することはなくなった。

 その上「お前って月型の癖につえーんだな! 卒業したら俺様とパーティ組もうぜ!」と誘ってくれたのだった。

 ……別に、全然嬉しくなんかないんだからな!

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