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概要
まるで透明な幽霊だ。西住硝子とは、例えればそういう子共だった。
会馬市は小さな町だ。だから大抵の子供の顔を大抵の大人が知っている。それでも「西住硝子」の事だけは、この街の子共も大人も知らなかった。いじめられっ子で耳が不自由な硝子は、この街の腫物のように扱われていたからだ。中学3年生の夏、彼女はある決心から「夏祭りに行きたい」と母親に伝える。その決心とは、いじめられていた記憶や、無彩色の今から脱出するための新たな一歩だった。しかし彼女の決心はその重い枷を外す事が出来ず、かえって暗澹とした過去を克明にし、さらにそれが今と地続きであるという確信を突きつける事となる。帰り道、川の水面に映る硝子の目から光は消えていた。それでも、危うげに欄干に身を預ける彼女にはまだ、差し伸べられる彼の手があるのだった。
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