エピローグ
大学生四年になってもロクくんは変わらず無愛想というかクールなままでいつも通りだ。
私はというと無事にこっちへと転勤することが出来て、今はマンションから程近い中学校で教師をやっている。
ロクくんと付き合いだしてから早いもので5年が過ぎ6年目になった。
20歳を超えたロクくんはすっかり見た感じも大人な感じになり、元々の落ち着いた雰囲気もありとてもハタチそこそこには見えない。
ロクくんの就職も希望していた企業に決まり後は卒業を待つばかりだ。
後、ロクくんの友人達はというと。
檜山君と会長さんは昨年めでたく結婚した。ちょっと先を越されたので悔しくもあったがウエディングドレスの会長さんは眩しいくらいに綺麗で思わず見惚れてしまうほどだった。
檜山君はロクくんのライバル企業に就職が決まり卒業してからもその関係はいい意味で続いていきそうだ。
田中君とナナミンはといえば、こちらがすぐに結婚しそうだったんだけどそれぞれがしたいことがあるとかで未だにラブラブではあるもののゴールインはもうちょっと先になりそう。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
金曜日の夕方、学校を終えたロクくんが帰ってくる。
パタパタと玄関先でロクくんを迎えてハグをしてキスをする。
このあたりは毎日の日課のようなものだ。
「あれ?杏香、髪切りました?」
「おっ!えらいえらい、ちゃんと気づいたね」
「それくらい、幾ら何でも気づきますよ」
初めてロクくんが私に好きって言ってくれた日からロクくんは私を先生ではなく名前で呼んでくれるようになった。
初めはさんづけだったけど、私が呼び捨てにしてほしいって言うと渋々従ってくれた。
と言ってもちゃんと呼んでくれるようになったのはここ最近のことだけど。
それでもロクくんとの距離がまた少し縮まったようで嬉しく思う。
「卒論はもう書き終わったの?」
「はい、杏香が邪魔しなかったらもっと早く終わってたんですけどね」
「邪魔?したっけ?」
「自覚ないんですか?」
「……だって相手してほしいじゃない?」
卒論を書くときは書斎にしている和室にこもってしまうから、あの広いベッドにひとりで寝るのはちょっとね……
「まぁちゃんと終わりましたから問題ないですけどね」
「そっかそっか、えらいえらい」
来月には卒業して四月からは社会人としての生活が始まるロクくん。
とはいえプロゲーマーとしての一面もあるわけで、その辺りは就職先も考慮してくれている、というか会社の広告塔として期待されているみたいだ。
何せ8年間もの間、世界一を守り続けているんだから当然といえば当然なのだろうけど。
3月、ロクくんの卒業式を私はこそっと見に行ってみた。
大勢の学生や保護者がいてロクくんがどこにいるのかは分からなかったけど感慨深いものを感じて目頭が熱くなってしまった。
思えばロクくんと初めて会ったのは、まだ中学校に入ったばかりの頃だった訳だから足掛け10年以上にもなる。
そんな彼が大学を卒業して社会人になって……
卒業式の日の夜、マンションの部屋で晩御飯の後ゆっくりと寛いでいた時。
「あ、そうそう杏香に渡しておきたいものがあるんです」
「ん?何?」
「はい、どうぞ」
ロクくんがそう言ってポケットから無造作に取り出した小箱を私に渡す。
「うん?何かな?開けていいやつ?」
「はい、開けてください」
なんだろ?ロクくんがプレゼントって珍しいよね。
卒業のお祝いか何か……
箱の中には台座に収まった銀の指輪が。
「ロクくん……これ?」
「はい、遅くなりましたけど……結婚しませんか?」
「…………うん」
ロマンチックのカケラもなくいつもと同じように言うロクくんはやっぱりロクくんらしくて。
「全然ロマンチックじゃない……」
「まぁ色々考えてはみたんですけど……僕と……先生だとこれくらいがちょうどいいかと」
何年かぶりに聞いた先生って呼び方に、何故かじーんとなってポロポロと涙が出てくる。
「ロクくぅ〜ん!ありがど〜!」
「はいはい、ほら鼻水でべしゃべしゃですよ」
「だっでぇ〜!ふええぇ〜ん」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになって抱きつく私ん優しく抱きとめてくれたロクくん。
「はい、ちーん!」
「ぶえぇぇ〜ん!」
「あ〜あ〜全くやれやれな人ですね、先生は」
「ぐすっ、だって……ひっく」
「はいはい」
頭を撫でてくれるロクくんの手はいつも通り暖かく、胸に顔を押し当てたまま私は小さく呟く。
「もっと幸せにしてね……」
「はい、今以上に」
「ふふっありがと」
「どういたしまして」
溜まった涙を指先で拭ってロクくんを見上げ微笑むと穏やかな笑顔が返ってくる。
えへへ〜
ロクくん!大好きっ!!
おしまい。
バツイチアラサー教師(♀)、元教え子(♂)にハマる。 揣 仁希(低浮上) @hakariniki
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