やっと言ってくれましたね。
クリスマスが終わり年末から年明けにかけては例年にない大雪に見舞われた。
幸いにも私の住むあたりは大した被害は出なかったが都心の方では交通の便にかなりの乱れが生じたらしく大変だったそうだ。
年末も年明けもさして予定のない私とロクくんは家でゴロゴロとして過ごした。
初詣に行くつもりにしていたけどあまりの雪の積もり具合と電車が動いていないこともあり断念して、しばらくしてから行くことにした。
「ヒマだね〜」
「そうですね」
「雪溶けないね」
「空模様もイマイチですし、しばらくは溶けないんじゃないですかね」
「ヒマヒマ〜!」
マッタリ過ごすのも最初の2、3日はいいけど何日もになってくるとやる事もなくなってきて手持ち無沙汰になる。
ロクくんはゲームしてればいい人だから構わないかもしれないけど、私としては非常に退屈だ。
窓の外を眺めても辺り一面真っ白で何も面白くない。
かといって朝っぱらからアレするわけにもいかずロクくんがしているゲームの画面を見ていた。
「最近大会とかはないの?」
夏の大会の後からロクくん達はこれといって大会に参加している様子がない。
「次は春ですね、僕達はちょっと有名になりすぎまして中々小規模の大会には参加出来ないんですよ」
「ああ、なるほどね。荒らしに思われるわけだ?」
「そういうことです」
大会賞金や景品目当てに参加する高ランクプレイヤーもいるらしいけどロクくん達はそういったことはしないで大規模な大会だけに絞って参加しているそうだ。
「先生の方はどうなんですか?転勤とか出来そうなんですか?」
「う〜ん、中々すぐにってわけにはいかない感じかな」
「ですよね、じゃあここから通うんですか?」
「うん、しばらくはそうなるかな」
校長先生に事情を説明したんだけど、はいそうですかというわけにはいかないし後一年くらいはみて欲しいと言われている。
私としても教師の仕事は好きだしまだ辞めたいとも思っていない。
結婚てことになると、また話は変わってくるんだろうけどまだ先の話なのでそこまですることも出来なかった。
「車で行けばそんなに時間もかからないし多分大丈夫だよ」
「ならいいんですけど」
ロクくんもロクくんなりに考えてくれているみたい。
そんな話をしている間に日は暮れていった。
翌日は晴天に恵まれて先日残っていた雪も随分と溶けて街の景色も普段の姿を取り戻していた。
私とロクくんは朝から近くの喫茶店でモーニングを食べ、とりあえず初詣に行くことにした。
せっかくのお正月休みだし初詣くらいは行っておきたい。
電車に乗り二駅向こうの大きな神社にやってくると、三が日も終わったのにもかかわらず結構な人だった。
ここ最近降り続いた雪でみんな出るに出れなかったのだろう。
「先生は何をお願いしたんですか?」
「うふふふ〜何だと思う?」
「……大体わかりましたのでいいです」
「あ、わかっちゃう?」
「そりゃあ……ね」
お願いしながらロクくんの手をきつく握りしめてたらわかってしまうか。
「また来年もその次も……ずっと一緒に来ようね」
「そうですね、先生が寝坊しなければですけど」
「うっ、お、起こしてね?」
「さぁ?どうでしょう」
「ロクく〜ん!」
神社の境内でおみくじを引き枝に結んでお祈りをして帰る。
おみくじは私もロクくんも吉だった。普通が一番だよね、何事も。
帰り道の途中でスーパーに寄って晩御飯の買い物をして夕陽が眩しい中、手を繋いでマンションまでの道を歩いていく。
「すっかり雪も溶けちゃったね」
「そうですね、もしかして雪だるまとか作るつもりでした?」
「あはは、そんなことしないよぉ」
「先生ならやりそうです」
「あのね、私を何だと思ってるのよ?」
本当に何気ない一日。
初詣に行ったくらいで特に変わったこともなく、ただ一緒に出かけて帰ってくる一日。
そんな一日がこの上なく幸せに感じる。
マンションが見えてきて何故だか嬉しくて……
「どうかしました?」
「ううん、何でもないよ」
「?」
私を不思議そうに見るロクくんだったけど何も言わずに繋いだ手をギュッと強く握ってくれた。
もしかしてロクくんも同じような事を思っていたのかな?
「「ただいま」」
「「おかえりなさい」」
考えることはやっぱり同じで、顔を見合わせて笑い部屋に入る。
買い物を冷蔵庫にしまってコーヒーを淹れ、リビングで寛ぐロクくんの隣へと。
あいも変わらずあまり表情には出さないロクくんだけど何となく嬉しそうな雰囲気は伝わってくる。
「ねぇロクくん」
「はい、何ですか?」
「好き、大好きだよ」
「……僕もです」
え?ロクくん?
「ロクくん?」
「ちゃんと伝えてませんでしたね」
そう言ったロクくんは真っ直ぐに私の目を見つめてゆっくりと言葉を紡いだ。
「僕は先生が……杏香さんが好きです。今までもこれからもずっとです」
「……ロクくん……」
「大好きです」
ぎゅうっと抱きしめられている間も、頭の中をロクくんの言った言葉がぐるぐると回っている。
やっと、ちゃんとロクくんの口から好きって言ってもらえた。
大好きって。
ずっとずっと変わらないって。
「私も……ずっと変わらない。ずっと大好き」
「ありがとうございます」
クールな表情はあまり変わりはないけど、ほんのりと赤い顔をしたロクくん。
自然に重ねた唇は今までのキスとは少しだけ違うように感じる。
一度、二度、好きの数だけ唇を重ねてソファから滑り落ちるくらいに抱き合って……求め合う。
新年が明けたこの日、私は本当の意味でロクくんの彼女になれた気がした。
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