クリスマスってこんなんですか?


 ロクくんの何気ないプロポーズのような言葉をもらってから私は落ち着かない日々を過ごしている。


 当の本人は普段通りなだけに私ひとりであれこれと考えすぎているのはわかっているんだけど……ロクくんの顔を見るたびにドキドキして仕方がない。


「落ち着かないですね」

「だって……」

「そんなに深く考えなくてもいいですよ、またその時が来たらちゃんと言いますから」

「そうは言ってもね?ぷ、プロポーズだよ?プロポーズ」

「そうですけど、まだ予行演習みたいなものじゃないですか」

 平然とそう言ってのけるロクくんの神経に脱帽だよ、本当に。

「プロポーズの予行練習って……」

「一緒にいるわけですし、そんなに悩まないでくださいよ」

「それはそうだけどさ……」

「まぁ今は忘れておいてください」


 考えても仕方ないし、ロクくんの言うとおりその時まで忘れておくようにしよう。


「それはそうとロクくん、今日はクリスマスイブだよ!クリスマスイブ!」

「そういえばそうでしたね」

「そうでしたね、じゃないよ!恋人達の甘いあま〜い一日なんだよ!それがどうして部屋でゴロゴロしてるんだよっ!」

「そう言われましても……寝坊したのは先生ですし」


「起こしてくれないロクくんがいけないんだ〜!」

「ちゃんと起こしたじゃないですか、何回あと5分て聞いたと思ってるんですか」


 ううっ……だって……

 眠かったんだもん!昨日頑張りすぎたんだもん!普通に起きれりロクくんがおかしいんだ!


「とりあえず出かけますか?」

「うん!」

「現金なものですね、ホント」

 クリスマスくらいはゆっくりと恋人同士を満喫したいと思うし、それが例え寝坊してお昼のランチを予約さしていたのがドタキャンになっていたとしてもだ!


 いそいそと用意をしてロクくんとマンションを出る。

 前の部屋からとはまた違う趣きぐあって、新鮮に感じる。

 昨年はロクくん達と出かけていたけど今年は2人きりで過ごすクリスマス……


 のはずが……



「っていうかロク、いつ引っ越ししたんだよ?」

「私も聞いてないわよ、ロク」

 と、檜山君と会長さん。

「いやぁ奇遇だね〜2人もデートだね」

「やっほ〜キョーカちゃん!元気ぃ〜?」

 と、田中君とナナミン。


 何故に?

 マンションから出てものの数分で4人に遭遇するなんてどんな確率よ⁈

「マンションの場所は伝えてなかったんですが……どうやって突き止めたのか……」

 ロクくんが目頭を押さえて天を仰いでいる。


「さぁ!行くわよ!ロクの新居へ!」

「「「おう(ええ!)!」」」


 部屋を出て数分後には、また部屋へと強制連行される私とロクくん。


「はぁ、諦めましょう。会長が来ている時点でどうにもなりません」

「だよね……」


 クリスマスイブ……

 それは恋人達にとっては特別な聖夜。


 ……現実は……新居で急遽鍋パーティに変更で。


「「「「カンパ〜イ!!」」」」

 素面の酔っ払いが約2名に付き添いの彼氏が2人。

「いい部屋だよな」

「まぁそうですね、選んだのは先生ですけど」

「へぇ〜相川さんが?」

「はい、どのみち一緒に住むわけですからね」

「ロクってそういうとこ、サラッと言うよな」

「そうですか?」

 鍋をつつきながらロクくんが檜山君にちょっと照れくさくなるような話をしている。


 一緒に住むわけですからって本当にさらりと言うんだもんなぁ。

 檜山君も危うくスルーしかけてたし、照れたり焦ったりしないのかな?ロクくんは。


「そっかぁ〜キョーカちゃんはロクと同棲してるんだもんね〜いいなぁ」

「ナナミンは田中君とそういうのは考えたりしないの?」

「う〜ん、あたし料理とか苦手だし家事全般ダメなのよね〜。あ、カップ麺くらいなら作れるよ?」

「ホント、あなたは昔からそうなんだから少しは努力しなさい」

「え〜ムリ〜!」

「はぁ、アンタも黙ってないで何とか言いなさいよ」

「え?まぁ……七瀬はそのままで十分だよ?」

「ダーリン……」

 ほーほーお熱いことで……頼むから他所でやってくれって話よね。

 しかし何ていえばいいのか、個性的な面々が集まったものだよね。

 鍋を囲んで談笑しているロクくん達を見て私はそんな風に思う。個性的ではあるけれどそれぞれがちゃんと自分てものを持っていて眩しく見えることがあるくらいだ。


 クリスマスの夜、遅くまでみんなで盛り上がりそのまま寝てしまった4人に布団を被せて、私とロクくんはベランダでお茶をしていた。


「とんだクリスマスイブになっちゃったね」

「あれはあれで楽しかったのでいいんじゃないですか?」

「それもそっか、うん、楽しかったよ。シワが戻らないくらい笑ったし」

「檜山君にしても田中君にしても色々と気にかけてくれているんですよ」

 リビングで死屍累々と転がっている4人を横目で見ながらそう言ってロクくんは穏やかな笑顔を見せる。


 ふと気づくと檜山君には会長さんが田中君にらナナミンがぴったりと引っ付いて眠っている。

 いったいいつのまに?


「何年かたったらきっと今日の事を思い出したりして笑うんですよ」

「そうだね……」

 ロクくんと2人並んで聖夜の空を見上げる。


 きっとこうして夜空を見上げたこともいい思い出としていずれ思い出すんだろう。


「じゃあ先生、僕達もそろそろ寝ましょうか」

「うん」

 カラカラと窓を閉めて部屋へと戻る。

 幸せそうに寝ている4人を起こさないようにそっと寝室へと向かう。

 私の希望通り、かなり大きめのベッドが鎮座する寝室。

「詰めれば6人ででも寝れそうなサイズですよね」

「だぁ〜め、この部屋は私とロクくんの愛の巣なんだから!立入禁止です〜」

「はいはい、そうですか」


 パチンと電気を落としてベッドへと潜り込んでロクくんに抱きつく。


「流石に今日はダメですからね」

「わ、わかってます!」

「ヤル気満々だったでしょ?」

「う、ううん?ぜ、全然!そんなことないさー」

「棒読みですね」


 ロマンチックとはかけ離れたクリスマスだったけどこれはこれでいい想い出が出来たので良かったように思う。


 夢の世界に旅立つ途中、耳元でロクくんが小さく囁いたような気がした。


「大好きですよ」


 って。



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