第2話 欲一 [金欲] 前篇

「日本語」「日本語」「English!」「日本語」

僕は鳥原胡桃っていうのさんの付き添いで銀行にやって来ていた。歩いている道をまっすぐ見つめている、ただまっすぐ。けれど少しうるさくて気が飛びそうになる。

「日本、語」

「?」

「日本語!」

右を見る。

「うるさい日本語!」

左を見る。

「ねえきみ!?」

「感嘆詞!」

しまった、逆転した。ねえきみ、ね、値!駅!見!

「500円!」

「お?どしたの」

あ、違った。

「うん、やっぱりキミ面白いね!」

「肯定文」

「ど、どしたの?」

これも違うのか。

「否定文」

「大丈夫?顔色悪いよ、熱あるんじゃ」

心配されてる?こういう時は、ええっと

「!」


暗転


目覚めた、周りがよく見えない。認識できるのは、目の前にある500円のみ。

「使え」

「は?」

しまった、口に出た。

「お前だ、馬鹿者」

「侮辱ですか、軽い人ですね」

「人に見えるか、目の前の500円玉が」

「言葉のあやですよ、これ」

「そうか、人は面白いな」

「んー、僕はそうは思いませんよ。人なんて所詮は」

あっ。

「お前もか」

「俺もだ」

人を小馬鹿にする心が僕とそれとを結びつけた。



大丈夫かと俺を呼ぶ声がする。こいつはさっきの女か。

「心配いりませんよ、俺はもう帰りますね」

適当に返事をすると女は余計に心配そうに見つめてくる。

痛い。視線が痛い。


暗転


「怪我はない?大丈夫?」

「はい、一応」

鳥原胡桃っていうのさんの呼びかけに応じて我に返った。寒気がする、少しぼんやりもする。

「English!」

さっき聞こえた異国の声だ。耳を澄ませる。

「カネヲヌスモウ」

なんだ、シンプルだな。

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欲人 ヘルニア @hernia

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