空の向こうへ

オグリ

空の向こうへ

 その日は雲一つない快晴だった。空はグラデーションも何も加えた跡がない水色がただひたすらと山の向こうまで続いている。


 少年の目にはその先に自分がいるべき場所が写っていた。


 下に目を戻すと、少年が今まで住んでいた街が今まで見た事のない鮮やかさを放っていた。赤、青、黄、紫、そして白や黒までも……


 グラウンドは砂が太陽の光を反射して、星空のように輝いている。その上を無数の靴底が光の粒を蹴散らし、流れ星のように砂や砂利が飛び散っていた。


 少年はこれま幾度も屋上に来た事があったが、今日、目の当たりにしているこの風景は一度も見たことがなかった。同じ風景でも、心持ちが違うとここまで変わるのかと少年は驚く。


 思い返してみれば、少年の周りは常に黒く染まっていた。まれに白く光る穴を見つけても、すぐに黒のインクが染み込み、埋まってしまう。


 学校ではいじめられ、家では両親から暴力を振るわれる生活……


 そんな中、少年は抗い続ける事で、自分なりの答えを見つけた。自分はこの世界に存在してはならないと……。自分がいるべき世界は別にある。


 遥か彼方、この水色の空の向こうに誰にも干渉されない、自由な、自分だけの世界が広がっているのだ。空を飛べば、そこに行くことができる。


 きっと、そこから見る地上の景色は想像も出来ないような美しさなのだろう。屋上という、自分を待っている場所から限りなく下にある場所から見ても、これ程までに美しく、輝いているのだから……


 青空の先の桃源郷は自分に何を与えてくれるのだろうか、何を見せてくれるのだろうか、何を感じさせてくれるのだろうか...少年は期待に胸を弾ませる。


 今、このグラウンドで球蹴りをして遊ぶ子供達は知っているのだろうか?いや、知るはずがない。黒で染まっている地上の世界の中であれ程まで幸せそうな顔をしているのだから。


 少年は意を決して、フェンスという自分の世界の入り口の前に佇む大きな壁を乗り越える。


 風が海の匂いを染み込ませて、少年を歓迎するように吹いて来た。


 やっと……やっと自分がいるべき場所に行くことができる。


 そして少年は、夢見た世界が広がっているであろう空に向かって、一歩を踏み出した……


 空の向こうへ少年は飛び立っていった。


 果たして少年は見つけることができたのだろうか?自分のいるべき世界を。


 誰にも分からない、誰も知らない。もしかしたら見つけられていないかもしれない、そんな世界はないのかもしれない。


 それでも...少年は行きたかったのだろう...


 空の向こうへ...


 

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