エピローグ

 深の国の後に、廉の国ができた。

 その国には深の時代から伝えられている話がある。

 それはこういうものだ。




 かの城の禁池には妖が宿っている。むかし、皇子がその妖にそそのかされて恋をした。妖はその想いを受け取った。

 しかし皇子は一国の皇子であって、妖だけの皇子ではなかった。そのために皇子は、妖と結ばれる事は叶わない。

 妖は現状だけでは物足りなくなった。どうしたって、皇子を手に入れる事ができない。自分だけの物にできない。それが物足りなかったのだ。

 皇子の方は、この状況で完全に満足していたわけではない。しかしこの状況は仕方がない事であると思っていた。妖と完全に結ばれる事はないだろうが、お互いに想い合っている事こそが重要だと考えていたからだ。


 とうとう妖は我慢ができずに皇子を攫うという強行に出た。皇子は抵抗し、閉じ込められてからは文句を言っていた。文句を言われ続けて哀しくなった妖は皇子を戻す事にした。皇子は大変喜んだ。

 宮廷の人々は皇子を攫った事にひどく怒っていた。しかし妖の力は大きく抵抗する事は叶わない。その為に矛先は皇子への不満と変わった。

 皇子は城に戻ってからは今まで通りに妖と接していた。何をされようとも、愛しいと思っていた相手に変わりはなかったのだ。妖はその皇子の態度に気をよくした。

 ある時、とうとう宮廷の人々は皇子を追放しようとした。皇子は抵抗しようとしたが、力が及ばない。皇子は禁池にいる妖のもとへと向かった。

 妖は皇子を優しく迎え入れ、自分のつがいとした。皇子は皇子でなくなり、皇子は妖となった。

 妖となって以来、度々皇子は自分を引き込んだ愛しい妖と共に禁池へ現れる。自分の存在を生み出した一族に知識を分け与える為である。この知識を得た皇族は、賢皇として名を馳せたという――




 一説には、皇子は妖に再び攫われたのだといわれるものもある。しかし、これらの真実がどうだったかは歴史の中に埋もれてしまった。

 深の時代に以前伝わっていた神と姫の昔語りは忘れ去られ、この昔話が話された。その事実を知っているのは、当の姫と神であった皇子と妖にしか分からない。

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禁池 魚野れん @elfhame_Wallen

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