第3話 パラケルススの子ら

 正月は帰省します、と私は上司に報告する。上司は、お、いいねえ、と軽く返す。いい人なのだ。仕事も本当にやりやすい。上司は言葉を続ける。実家どこだっけ。広島、か。

 私はにこにこしながら、はい、と答える。このごろでは、私自身、このぐらいのやり取りをもう嘘とも思わなくなってしまった。私は、私の家族をすらすらと言うことができる。両親は健在。姉がいる。実家では犬を一匹飼っていて、祖母が世話をしている。最近は、自分でもなんだか本当にいるんじゃないかとさえ思い始めてきた。

 もみじ饅頭買ってきてよ、と同僚が言う。他の名産もありますよ、と私は返す。返しながら、もみじ饅頭やそれ以外の通販に頭を巡らす。お土産は便利だ。こちらから情報を開示しなくても、それだけでコミュニケーションツールになってくれる。やはり社会に出るのは大事だ。座学だけでは限界がある。これらはきちんと言語化して、上に報告せねばならない。この会社で長期休暇を貰えたのは、本当に運がよかった。今回の知見は、今後の人造人間の社会での在り方をより自然なものへと一変させる可能性がある。そしてより深く、私達は社会へと浸透していくのだ。

 休み、楽しみだね、と上司が言う。はい、と私は笑顔で答える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それもまた日常 ごもじもじ/呉文子 @meganeura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ