第2話 グリフォンの檻

 ペットショップはいつも清潔で、ぴかぴか輝いている。

 その一角に、グリフォンのコーナーがある。

 民間で飼育されているグリフォンは珍しいためか、いつも一人二人は見物人が来ている。

 私と息子も、そんな見物人の一人だ。

 保育園から帰るとき、息子はいつも「ぐりふぉん、みる!」と私に宣言する。私も動物が好きなため、5回に4回は承諾する。

 グリフォンは美しい。その美しさは、ガラス越しにも人目を強く引くものがある。鷲の頭や翼のつややかさ、ライオンの胴の力強さは、自然の美しさ不思議さを私達に教えてくれる。息子の大のお気にいりだ。

 2歳になる息子を抱っこして、グリフォンのガラスの前で、見えやすい位置をとる。

「グリフォン、すてきだねー」

 私の声に反応して、グリフォンは毛づくろいを始めた。私は少し動揺する。

 グリフォンは賢い。私達の言葉を理解していてもおかしくはない。

「グリフォン、おっきい」

「そうだね。大きくなったね」

 ふと、隣の猫のコーナーが目に入る。「新しいお家が決まりました!」のPOPに、さらに動揺が大きくなる。取り繕うように、私は言葉を繋ぐ。

「これだけ大きくなったら、きっと立派なおうちにもらわれていくんだよ。よかったねー」

 嘘だ。小さいうちがしつけやすいのは、どの動物も同じだ。大きくなればなるほど、貰い手は少なくなる。そして引き取り手のない動物の末路は、保健所だ。

 私は誰に向かって嘘をついているのだろうか。息子だろうか。グリフォンだろうか。

「またね。ばいばーい」

 私の声につられて、息子はグリフォンに手を振る。またね、があるんだろうか。また明日、このグリフォンはいるのだろうか。それとも私は、最後の嘘をつくんだろうか。

 グリフォンのまなざしは、私達を確かに捉えている。

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