とある兄妹
もりくぼの小隊
兄妹の朝食
「お兄ちゃん。おはよう」
朝、起きると学生服姿の妹がコップに牛乳を注ぎながら朝の挨拶をしてくれる。俺はボーッとした寝起きな頭で妹の胸元に結ばれた赤いリボンを眺める。
「おはよう……あれ今日、学校休みじゃないんか?」
寝癖の強い頭をカシカシと掻き疑問を口にした。今日は確か、日曜日の筈だ。
「はぁ、今日は部活の練習日。言うたやん昨日」
溜め息をひとつ。妹は呆れ顔でテーブルにコップを置き、俺は「
「まぁええよ、それよりパンとご飯どっちが
「別に、どっちでもええわ」
「はーい、パン一枚追加致しまーす」
妹の朝ごはんの選択肢に俺が適当な返事を返すと、妹は柔らかにニッと笑い二つ結びの髪を大きく揺らしながら食パンを一枚手に取りキッチンのトースターを起動させた。俺は欠伸を噛み殺し洗面所へと向かった。
洗顔を終えてリビングに戻ると朝ごはんはすでに準備されていて妹は朝の情報番組を眺めている。俺に気づくと顔をこちらに向けて唇を尖らせた。
「遅いわっ」
「寝癖直すんと髭剃るんやけぇ遅くもなるっちゃっ。俺に構わんと
「一緒に食べんと食器片付かんもんっ。お兄ちゃんいっつも出しっぱでっーー」
「ーーあぁはいはい、
妹の小言にタジタジとなりながら食卓に着くと、俺の流すような態度に頬を膨らませて新しいジャムの瓶を手に取り妹はくっ、と力を込めた顔をして、プルプルと震えて俺を笑顔で見つめる。
「開かん。お兄ちゃん開けてよぅ」
「……しゃあないなぁ」
ジャム瓶を前につき出す妹に俺はしょうがないとそれを受け取った。ジャムは少し力を込めると簡単に開いた。妹は「センキュッ」と開いたばかりのジャム瓶にスプーンを突っ込み真っ赤なイチゴジャムをふんだんにパンの上に乗せて塗りたくった。俺もジャムとスプーンを受取り、パンの上に何度も塗りながらイチゴジャムトーストにかぶりつく妹の顔をチラと盗み見た。
(お兄ちゃんって呼ばれるまでどんくらいかかったかなぁ……)
俺と妹に血の繋がりは無い。両親の再婚でお互い連れ子同士だった。俺が高一の時、妹が小五の時だった。最初は妹の人見知りが激しく、ずっと敬語で話していて俺も少し、苦手意識を持っていた。けど、簡単なきっかけで仲良くなる事ができた。どんなきっかけかはもう覚えてもいないくらい些細なものだったが、今では「お兄ちゃん」と呼ばれることにも、違和感は無くなった。
「
どうやら、じっと見すぎて気づかれたようだ俺はバツ悪くトーストの端を噛った。しかし、「気持ちわるっ」は酷くないか……。
「……ところでお兄ちゃん」
朝食が終わろうかというとき、妹は急にかしこまって俺を上目遣いに見つめてくる。
「……あらたまって
俺は妹に何かしただろうかと内心焦りながら入れ直したコーヒーをすすり、少し舌を火傷した。
「あんね……」
妹はしごく真剣な眼差しで
「お願いっ。お小遣いの前借りさせてくれんっ!」
パンッと両手を合わせてそんなことを言って頼み込む。
「はぁっ、前借りねぇ」
「本当にほんとうの一生のお願いっ、友達と服買いに行く約束しちゃったのっ、けど、軍資金が足りないんよっ。どうか、どうかここはひとつっ、どうかっ」
こういう時はちゃっかりしてるなと思うがまぁ、頼られるのも悪いきはしない。俺はこっそりと自分の財布と相談をしながら余裕を持って妹に聞いてみた。
「で、いくら前借りさせて欲しいんか?」
「えと……二万?」
高すぎるわっ! こいつ2ヶ月近く小遣い無くてエエんか!?
「アホかっ。上限は五千。これ以上はいけんっ」
「ぇえ~、靴も買おうか思ったのにぃ……」
「お、いらんか? それならそれでエエわ」
「あ、ウソウソ、五千円ありがたいですお兄ちゃぁん」
財布をしまおうとする俺に妹は慌てて両手を差し出した。本当に調子のいいやつだなと苦笑しながら五千円を出しながら俺はふと時計を眺めた。
「ところでおまえ、時間エエんか?」
「へ? ワッ! お兄ちゃんっお金は帰ってからちょうだいっ!?」
妹は慌ててトーストを口に突っ込み牛乳で流し込むと
「いってきますっ!」
あわただしく家を飛び出した。
「騒がしいやっちゃなぁ」
俺は苦笑しながらコーヒーをもう一度すすり、フゥと溜め息を吐いた。
とある兄妹 もりくぼの小隊 @rasu-toru
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