第5話

それから1週間したら3人の一人、Aさんから会社に電話が入った。

「パリではえらいお世話になりました。ついては南(大阪の盛り場、T百貨店がある)にまで出てこれますか」と、云うことであった。Tの前で待ち合わせた。改めて屋上からの垂れ幕を見た。見事な字である。まさにartistである。


「ママ、この人、この前話した北風さんや、我々と違って英語が堪能なんや。フランス語もチョット話はる。えらい世話になったのや。北風はん、楽しかったなぁー。遠慮せんと飲んでや。女の子、北風さんの傍に行った、行った。男前やろ、田村正和そっくりやろ」

私は、穴があったら入りたかった。人の財布でドンちゃん騒ぎしただけである。それにしても、彼はいいとこで飲んでるんやなぁーと思った。すっかりご馳走になった。


 この後、Bさん、Cさん日を置かず南にお誘い。Aさんと同様の接待。

パリで飲んで、南で3度飲んで、いずれも、私の財布でなかった。

 そうだ、私もすられた財布で何がしかは払ったことになる。皆に喜んで貰い、私もいい思いをし、何より記憶になった。

 パリの一夜と、一夜の恋人を得た思い出は金額にしては安い。日本人形はまだ送っていない。店の住所を書いた名刺はなくなったので、これからも送れない。下着は我が家を転々としていたが、いつしか消えた。


禍福(カフク)は糾(あざな)える縄の如し


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嵐の旅行記・パリの真ん中で与作を歌う。 北風 嵐 @masaru2355

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