第8話:ミルド

 私の名前はミルド。

 真聖会の枢機卿という立場だ。

 教皇のブレインというか、相談役的な立場。

 真聖会にはこの枢機卿が3人ほど居る。

 ただ、表向きは司教だ。

 

 いま、照りつける太陽の下砂漠を必死に進んでいる。

 祓魔師のクレマスと読師のテメスと一緒に。

 他に、護衛に雇った冒険者が4人。

 S級剣士のビートルをリーダーとした、A級2人、B級1人のS級パーティだ。

 特に魔導士は氷と水の魔法に特化しているので、砂漠ではとても助かる。


 祓魔師のクレマスが風を操れるので、それも合わせてどうにか進んでいる。

 暑さ的なものは緩和できても、足元が悪いのはどうにもできない。

 靴を脱ぎたいけど、脱いだら足の裏が焼けただれるだろう。


 なんでこんな思いをしてまで、この砂漠を進んでいるかというと……

 

 神のお告げがあったからだ。

 教会の神像が喋った。

 前代未聞だ。


 いや、今までにそういったことが起こったという記録はある。

 涙を流したとか。

 目が光ったとか。

 背後に光輪が浮かび上がって、翼の影が見えたとか。


 実際に見たことは無い。

 そういった伝承があるだけ。

 正直、それが事実がどうかは分からない。


 ただ信じる心が大事なのだ。


 うん……


「喋った?」

「喋っりましたな……」

「喋ったですぞ!」


 場がザワザワとしている。

 ええい、情けない。

 近隣の司祭以上が集まっての本部でのミサだというのに。

 この程度のことで、平常心を失いおって!

 この程度のこと……かな?


 私も胸がバクバクいってる。

 うん、全然落ち着いてない。


 神託の内容はいたってシンプル。

 砂漠の中央に新たに出来た教会に落とされた神の御子が、一人で寂しがっているという内容。

 を仰々しく喋ってた。


『常強き光溢るる灼熱の地。心の臓ある場所に現れし我が落胤、迷える者のメシアなり。彼の者独りまだ見ぬ使徒を想ふ』


 うん、色々と驚いた。

 落胤?

 神様も不倫とかするのだろうか?

 それとも、純粋に実子じゃないという意味だろうか?


 それでも神の落胤ということは、やっぱり神様の子供でしょうか?

 ニュアンス的には砂漠の中心に、その方が現れたってところかな?

 使徒を……ってことは、従者を求めてるってことかな?


 うん……

 行くしかないよね?

 誰が?

 

 神の子供を相手に、下手なものは送り込めないだろうし。

 そもそも、本当に神様のお告げなのだろうか?


 色々と考えた結果、自分で行くことにした。

 たまには息抜きも、必要……いや、息抜き?

 過酷すぎない?


 何故か、自分が行かないとという気になってしまう。

 何故だろう……


 取り合えず、護衛を求めて冒険者ギルドに。

 なんと、ほとんどギルドに居ないS級パーティのミガーテの光が居た。

 しかも、スポットで仕事が空いてるとか。

 マジで?


 おっと、言葉が……

 これは僥倖。


 あんまりお金は出せない。

 教会本部のさらに上からの極秘任務。

 依頼人は……まあ、神に最も近いお方。

 得られるのは、教会最高位からの感謝。

 名誉だ。


 まあ、実績はつくけど実入りは悪いよって話。

 二つ返事でOKもらえた。


 マジで?

 おっと……うむ、よき心がけだ。

 それでこそ、冒険者の規範たるトップパーティ。


 マジで?

 本気で受けてくれるの?

 くっ、修業が足りない。

 感情が隠し切れない。


 これなら、どうにかなるかも。


 そして砂漠に入ったのだが……


「うわっ、流砂だ!」

「ミルド様!」

「くっ、全員手を繋げ!」


 いきなり流砂に飲み込まれた。

 そしてなぜか、地面の下に。

 地下大空洞みたいなところが。


 涼しかった。

 嬉しい。 

 そうじゃない。

 大丈夫かな?


 大丈夫だった。

 一本道しかなく、ずっと進んでいったら地上に出られた。

 長かった。

 荷物も一緒に落ちたので、食料等には困らなかったけど。

 定期的に、食べられる魔物も出たし。

 地下水が溜まってる場所もあったし。


「目が! 目があっ!」


 薄ら暗い地下から地上に出たら、日光に目をやられた。

 全員が……

 さっさと地下に戻って、休養。


 それから外に出る。

 遠くに灯りが見える……

 あれっ?


 取り合えず、そこに向かって歩く。

 結構な距離があったけど、夜だったから足元が悪いことを覗けば快適だった。


 そして見つける……

 神々しい不思議な建物を。

 思わず祈った


 ここが神々の座す地ヴァルハラが……


 そして神主と名乗る男と出会った。

 

 あー……あれだ。

 神だ。

 土地神様ってやつだ……


 本人は否定しているけど、このお方が主神様の落胤で間違いない。

 やばい……神々しい。


 大昔は多くの土地神信仰があったみたいですが。

 まあ、戦争等で小さな部落とかは統合された結果、大きな宗教しか残らなくなり土地神という存在は歴史の中に忘れ去られていった。

 私達、宗教に携わるものくらいしか知らないのでは?

 自身の宗教の教義を広げるのに障害になるからと、先達たちがことごとく痕跡を消したくせに。

 上層部には、その情報が乗せられた書物を閲覧する権利が与えられるとか。


 まあ、土地神様の存在というのは、私も半信半疑だったわけですが。

 主神様にすら、出会ったことが無いですからね。

 神託もこの間のが、自身初でしたし……


 居たんだ。


 マジで?

 

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人それを神と呼ぶ ウマロ @stimulant

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