第5話 王家

馬車を降りると、フレデリカ様とヒビキ様が出迎えてくれた。

写真で見るより美人。

現帝王のフレデリカ陛下とヒビキ様。

大恋愛の末に結ばれた二人の話はおとぎ話としてよく小さい頃読み聞かせられた。

陛下はカティナさんと真逆、大人の女性だ。

豪華ながら自分の美しさを損なわないドレス。

動作一つ一つが美しい。まるで完璧な振付のような。

そして寄り添うヒビキ様は……イケメン!

確かヒビキ様はハイエルフと精霊のハーフだったはず。

歴史が正しければ第三王子で、エルフの割に耳は人間と同じような形で、それを気にしていたはず………。

ヒビキ様は精霊よりと聞いている。


「カティナ久しぶりだな。いいものはとれたのか?」


歩く姿から神がかりを感じる。けして手の届かない絵画の中の女神を見ているような錯覚を覚える。

足音一つ一つが、賛美歌の演奏のように聞こえて靴自体が陛下の為だけに音を歌っているような。

風も噴水の音も小鳥のさえずりも、ドラゴンの羽ばたく音も太陽光も全てが陛下の美しさと気品を引き立たせる為だけにある様に思える。


「イッた!!」


手のこうに突然痛みを感じると、まるで夢だったかのように周りの風景が平凡なものに変わる。

陛下の美しさはそのままだが、周りの全てが単なる音に変わった。

なんだったんだ?


「あれ?今、」

「ちょっと!魅了しないでよ。子孫なのにー!」


魅了?もしかしていま、魅了されてたってこと?そりゃあんなにきれいな人を見たら誰だって魅了されちゃうけど?

カティナさんがプンスカ怒ってるってことは、なにかされたの?


「悪かった。まさかかかるとは思わなくて。それより彼女がそうなのか?」

「そーだよ!顔覚えが何故か悪い私でも見た目でわかったし、ギルドの調査でもわかりきってるもの。」


陛下はゆったりと私の目線に合うようにかがむとニコリと笑った。

その表情自体上品すぎて気絶しそうだ。


「ロントート帝国、現帝王のフレデリカだ。あっちが夫のヒビキ。」

「うつは=コトリアソビです!」


今まで底辺ぐらしだった私がこんなすぐに陛下にお会いできるようになるなんて!なんて奇跡!?カティナさん、助けて!


「琥珀ば、加工できたら献上するって言っとったから!首をなが~くして待ってなよ。」


あぁヒビキ様になんか報告してるからだめだ!

えぇ、こんな美人さん相手に緊張する!

心臓バクバク言ってるし、ヒビキ様もイケメンじゃん!!


「ハバキリの娘だったか。で、父親を探したいとか?」

「ぁ、はい。そうなんです。あっと、その純血竜神の誰かと、そう聞いてるんですけど。」

「………。」


陛下はカティナさんをちらりと見てから、なにか疑問があるのかカティナさんを引き寄せるとカティナさんの頬を手で包み込んだ。


「え?なになに?親愛のベーゼかな?」

「顔をよくお見せなさい。」

「ん!」


何をしてるんだろう?


「ん?これは。」

「??」

「うつは、詳しくお前に話す必要があるようだ。中に入ろうか。」

「ぁ、はい。」


ニコニコしながらカティナさんが先に入ろうとすると、陛下がカティナさんの肩を捕まえて先へ進もうとするカティナさんを止める。


「カティナ、お前は神殿に戻るんだ。厄介なことが起きているようだから解決するように。」

「そ、そんなー!」


抵抗するために陛下にしがみついたカティナさんだったが、あっけなくミラさんによって剥がされると馬車に連れて行かれてしまう。

わざわざ窓を開けて顔を出したカティナさんに、ヒビキ様が何か説明をすると、渋々納得しました。という顔で窓を締めた。


「さぁ、うつは。行こうか。」

「は、はい。」


やっぱりカティナさんがフランクすぎるのかな?すごく緊張する。ギルド長の前でもかなり緊張したし、カティナさんは思った以上に適当な人ってことはわかる。

初めはすごく凛々しく見えたけど、言葉を交わしてる間にすごくマイペースなんだなと。


「カティナは王家らしくないだろう?」

「あ、あのらしくないというより、すごくフランクな方だと。」

「あれは王家というより神としてと在り方のほうが強いからな。昔から変わらない。王として君臨してもなを王ではなく神として国を維持しようとしている。本来神であるはずの私達はまるで人間のように………ここでいいだろう。」


人間のように?なんだろう?確かにカティナさんと陛下では雰囲気が違う。

カティナさんはどこか不安定で予測の付けようがない雰囲気を感じる。陛下は安心感があって全てを任せてもいいという印象が。

王と神。そもそもそれの比較もわからない。

噂よりも陛下は穏やかな人で、噂よりもカティナさんは無邪気な人だ。


案内されたのは色とりどりの花が咲く温室。

白いテーブルとイスが設置されていて、見たこのもない花が咲き誇っている。その間を光のようなものが飛び交っていて、面白い。オーブ?


「そいつらは下級精霊と下級妖精だ。フレデリクが飼っている植物系の奴らだ。」

「精霊と妖精?」

「人型をしているのが妖精で、光そのものは精霊なのさ。」


ヒビキ様が光を二つ捕まえると、緑色に発光する玉と黄色く光る人型の生物だとわかる。

精霊と妖精を飼うって、奴隷みたいなものなの?

確かに奴隷ってものは存在するけど、犯罪者がなるものだよね?


「ふふ、犯罪奴隷ではないんだ。これらは種族ではなく呼称だから。」


まさか、心を読んだ?

誇らしげに語る陛下はも一人の妖精を捕まえて差し出してくる。

手に乗せるとまるで怯えるように縮こまった妖精だったが、私を見てフヨフヨと飛んで行ってしまった。

意識とかそう言うのはないみたい。


「精霊は、私達の力の余波から生まれたモノで、妖精は魔物の品種改良。下位妖精は脳みそが小さく、本能と反射で生きている。妖精属性とは違い思考や意思疎通など出来ない。」


その説明が終わるとヒビキ様は陛下の隣に座ると、私に視線で早く座るように促してきたので慌てて座った。


「うつは、お前のことはカティナからよく聞いている。ギルドの調査にも目を通した。父親を探しているため、私の元に来たとも。」

「はい。」

「あの子達から説明はまだだろうから、一応説明しておく。

私達純血竜神はそれぞれ記憶を共有出来る。混血もそうだが、過去を遡って知識や記憶を探し出すのが大変だから私の元にお前を寄越したのだろう。これから、お前を通してハバキリの記憶を探し出す。父親について探すのに時間はかかるだろうが、任せてくれ。

改めて、我が名はフレデリカ。愛憎と道標の神だ。」

「愛憎と道標。」


陛下が私の手をぎゅっと握り、すうっと大きく息を吸いこんだ。

幻想的な温室で、妖精の羽音が聞こえるのみの静寂が1分ほど。

頭の中で浅い水たまりを踏んだときのような音がなる中、静かに陛下が瞼を閉じると同時に、頭の中に色々な情報が流れ込んできた。

美味しい食べ物や美しい景色、道端の花から豪華に彩られた花束。

水族館や動物園からコンサートの映像がどっと雪崩込んで来る。

そして様々な声も。

『カティナ様到着したよ!門開けな!』『Gが出た!助けてくれ!』『え、今何時?』『今9時今9時今クジラ!』『迷子!迷子探してるよ!』『花に水やってない!』『今10時だよ。』『門開けた。』『頑張れ!』『なんか面白い番組ないの?』『え、公民館何処?』『サンドイッチ伯爵について情報くれ。』『可愛いネコチャーーーン。』

頭の中で声が響く中、ゆっくりと陛下が目を開ける。

自然と陛下に意識を向けると、頭の中の声が消えたので、陛下の力か何だと思う。


「父親についてだが、冒険者であることは確かだ。しかし、我々が知らない相手だ。ダンジョンに潜らず他国のダンジョンに潜っている様だ。」

「え?」

「母親が、生みの親はハバキリだが、細胞的な母親はカティナだ。たしか、ハバキリは以前不妊治療について調べていた。そこで、人工的に卵子を作ることが出来る研究していたな。」

「不妊治療?どういうことですか?」

「ハバキリはまぁ、卵巣をやってしまった。再生力があるぶん、子宮や卵巣を再生できたが、卵子の排出が出来なくてな。妊娠するには体外受精しかなかったが、薬や注射をしても駄目だったそうだ。だから皮膚の細胞から卵子を作る研究をしていた。」


そんなこと、してたんだ。だったらなんでカティナさんのなんだろう?細胞的な母親はカティナさんって言ってるからカティナさんの細胞を使ったんだよね?


「なぜ、カティナの細胞が使われたのかは分からなかったが、行方不明になってからもカティナとは度々あっていたようだ。」

「はい。」

「おそらく、カティナの性質だな。」

「性質ですか?」

「カティナは処女神でもある。がその反面男神のときは繁栄力が高めというか、性別を自由に変えられる私達は同性愛とかそういうものを気にしないが、やけに自称彼女や自称彼氏多いんだ。自称愛人とか。その繁栄力を見込んでだとは思う。」

「カティナさんが、彼氏と彼女と愛人がいっぱい!?」

「そこまで見境なくは、ないと思う。後宮があるからそこらの女と関係を持ったりはしているだろうが。」


あの顔をして、女の人に手を出しまくり?信じられない!

やっぱ男になるとギルド長見たくめちゃくちゃイケメンになるのかな?


「あまり、そういう話はよそうか。うつははまだわからない。それにカティナが可愛そうだ。」

「そうだな。血を広げなければならないのも仕方のないことだ。」


それは、どういうことなのだろう?

その質問をする前に、兵士の人がやってきて二人は公務に戻ってしまった。

しばらく考えても答えは出せないまま、時間だけが過ぎていった。


「うつは様。お夕食の時間ですよ。」


え?そんな時間が………って、


「エリザベート?それにユウカ?」

「はい。私達はうつは様のメイドなのでこちらに移りました。さぁ、食堂へ行きましょう。」


こちらです。とエリザベートが先導して食堂に向かう。

なれた足取りで進む彼女に私もユウカも戸惑いながら付いていく。すれ違う使用人さんたちは皆美しい人ばかり。

そんな人たちに道を開けられて、なんか罪悪感が……。


「こちらです。」


広い食堂、豪華なシャンデリアに幾人かが座って食事をしている。

その近くには使用人がちらほらいて食事をしているそのうちの一人、淡い緑色の髪が素敵な森の妖精のような女の人が私と目があった。


『ミント=渡辺・ロントート。半純血竜神ハーフエルフ。309歳。

フレデリク系列所属。宮廷薬剤師。』


勝手に頭の中に情報が流れてくる。

その人はニコリと笑ったので、私もニコリと笑みを返した。

え、私どうなるわけ?恋愛小説みたいに、王子様とか公爵とかと結ばれるってことかな?

え、やっば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ノーモアロンリネス リコリコ @riko2C

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ