第4話 叔父フレデリク

馬車に揺られている間、カティナさんからお城のことをいろいろ教えてもらった。主に修業しに来る令嬢の悪口を。

カティナさんは豪快というか、意見をはっきり言いすぎている。


「カティナさんは随分とジョセフさんのことを気に入っているようですね。まるで恋する乙女のようです。」

「恋だって?そんなまさか!私はあいつを人間として好きだが性的には見てないぞ。」


オロオロと慌てるカティナさんはどうにか撤回させようと少しだけ顔を赤くしながら講義してきた。

多分好きなんだろう。かわいいなー。

いいなぁ、恋って言っていいほど恋してないもん。

初恋は年の離れた義兄ちゃんだったよなー。結婚するって分かった日はこっそり泣いたな。


馬車が城門を超えたあたりから、馬車の中で感じる振動が今までの道より格段に小さくなる。そして窓からは飛行するドラゴンや亜竜の姿を見かけるようになった。

ドラゴンが馬を興味深そうに見る。怯えてしまうのではないのか?と思っていたけれど、特にカティナさんは気にした様子では無かった。

だが、馬車はスピードを落としてゆっくりと止まった。


「主様、お兄様が。」

「フレデリク?」

「はい。」

「……また?ほんと馬鹿。」


御者をしていたミラさんとカティナさんで呆れたようにフレデリクと言う人のことを話している。ミラさんの体で隠れているが、白衣を着た男の人が道の端に立っているのがわかった。


「うつは、こっちに。」


対面して座っていたけれど、カティナさんが隣に私を引き寄せる。

馬車自体が大きく、二人で並んでも充分スペースが余る。

何?と、思っているうちにドアが開かれてミラさんとカティナさんに似た黒髪の男の人がニコニコと笑っていた。


「ありがとう。はは、こんなとこまで来ちゃった。」

「紹介するよ。フレデリク。生物の研究をしている兄で、ここまで調査をして歩いてきた馬鹿だよ。馬車でまだ十分かかるのに。」

「お嬢さんに対して随分な紹介の仕方だよね。

始めまして。お嬢さん、僕はフレデリク=ロントート。まぁ、紹介通り生物の研究者で王族だよ。帝王の双子の兄ってやつさ。」

「はじめまして、うつは=コトリアソビです。」

「うつはは半純血竜神なのさ。見た感じわからないけど。お姉ちゃんに見てもらいに連れてきた。」


フレデリクさんが、座席に座りながら驚いた様に私を見てきた。

やっぱり同族か分からないようで、本当にそうなのか不穏になってくる。


「へぇ。そうなんだ。わからなかった。……あぁ、君がうわさのうつはちゃんか。本当に分からないね?隠匿性が強すぎるのかな?うーん。でも感覚的に同族の感じはするから、力の使い方かな?そのうち慣れると思うよ?」


うわさ?噂って何?え?

1日で城の人の中に噂が流れてる?

なにそれ。恥ずかしい。


「あの、噂って?」

「カティナもしらない隠し子がいたって噂だよ。母親がまぁアイツの系列だからどうにかしようと思えば、子供なんて簡単に出来るだろうしね。で、どうなの?」

「あれとは繁殖行為をしていない。そもそも、あれが出ていった理由だって卵巣がぶっとんだからだ。混血竜神だから再生が不完全だった。戯れてる場合じゃない。」


卵巣がぶっ飛んだ?何それ、本当に知らない。

確かにお母さんは体が弱かった。もしかして、その事が原因なの?


「あれ?もしかしてうつはちゃん知らない?君のお母さんはもともと軍人だったんだよ。ラトプを落としたときに、敵将の側近と相打ちになって酷くやられてしまってね。」


ラトプを落とす。その言葉はたぶん戦争の話だ。

三百年前の戦争、

人間至上主義国家のラトプ王国がエルフと妖精の国、アンダルトに宣戦布告をした際に、最もアンダルトに友好的だったロントートが同盟という名目で、代理戦争を行い国を滅ぼした戦争。


「ラトプを落とす?ラトプ王国を取り込んたのって、何年も前じゃないですか。まさか、歴史書に乗ってるハバキリ=ロントート・小鳥遊って。」


母の名は、ハバキリ=コトリアソビ。だけど本来名前のコトリアソビは小鳥遊と書いてタカナシと呼ぶ。ただ単に祖父母がハバキリに憧れたのかと思っていたけど違ったんだ!

ラトプ戦争の終盤。第五王子、フレデリカ姫が側近のハバキリ=ロントート・小鳥遊とその部下たちが王宮に進軍し、無血開城をした話。城を調べたら不当な扱いを受けている亜人やその人達を助けようとして捉えられた人達が沢山いて、その人達を心まで開放するために王と王妃を処刑した英雄。

あの母さんがそんなすごい人だったなんて知らなかった。

でもなんで、教えくれなかったんだろう?


「そうだけど?でも彼女なんで妊娠できたんだろう?再生不可能になったのに。」

「誰かから卵子を買ったんじゃないか?」

「それにしたって、母親似だろう?」

「私達種族はだいたいみんなおんなじ顔だし、始まりが一緒だから。似てるのは当たり前でしょ?」


私の顔に注目する二人。

お父さんの事が気になるけど、予想止まりみたいだな。

深く考え込んでいるけど、顔からなにかわかるのかな?


「目の形はフレデリカに似てるけど、瞼は僕達の血筋ではないかな。」

「虹彩は、お兄ちゃん系列じゃん?」

「一人行ってるからね。顔の輪郭と毛色は君似だよね。」

「お姉ちゃんとこのと血の混じりはないけどねぇ。長兄と長姉あたりの変色系統の可能性も。」

「まぁ、カティナの子供でしょ?」

「妊娠したであろう期間に、私会ってない。」

「そっかー。」


え?そういうことわかるの?そもそも、カティナさんがお父さんってのは違うと思うんだけど?

そういえばギルド職員さんも美しさに目が行ってわかりづらいけどみんな似てるよね。髪型と髪の色の被りが少ないから気にはならないけど。


「おや、あれは?」


誰に似ているか合戦をしていたはずのカティナさんが窓の外のを指さした。

よく見てみると、カラフルな色が動いて見える。


「カラフルですね。」

「アンダルトからレオンが来てるのさ。それで同い年の貴族の令嬢達がね。」

「アンダルトのレオン……たしか第二王子の?あいつがわざわざ?なんのために?」

「えーと。婚約者探しだって。確か君のところに同い年の……ほらあの子。あー名前が思い出せないな。あの、獣人エルフの混血竜神。」

「もしかしてマサキのこと言ってる?あーダメダメあれってばかなり血が薄くてしかも混ざりすぎてる。まぁエルフの血筋だけどさ。ほぼ人間なんだよねぇあの子。」


ひえぇー。カティナさんこう言う誰を使って縁を組むとかそんな話するんだぁ。自由恋愛を推奨する人だとばかり思ってたけど結構血筋とかそう言うのにこだわっちゃうタイプ?


「ジョセフが側付きやってるから顔をみせてやりなよ。うつはちゃん紹介ついでにさ。」

「えぇ。」

「うつはちゃんはあってみたいよね?異国の王子様に。」


フレデリクさん、私を使って行かせようとしてる?


ここは利用されるか、カティナさんは行きたくなさそうだから断るか。

でも、あんなに囲まれるんだから一度はあってみたいかも。


「ちょっと会ってみたいですね。」

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