第3話 死後の出会い

 目を開けるとそこに広がるのは、白だった。いうならば、それは天国。

 今俺を支えているのは白の象徴とも呼べる雲。空を仰ぐと、そこには白しかない。

 何も無い、白があるだけ。

 無が何か考えたことは何度もあるが、今分かった気がする。無の権化とは白だ。

 何も綴られていない日記帳の白紙は無だ。

 それと同じように、何も作られていないのならばそれは無の空間となり、白となるのだ。

 何故そう思ったのかは分からない。

 ただ、本能的にそう感じ取ったのだ。

 無の恐怖と、目の前に広がる白の恐怖は、まるで同じなのだ。





 どれだけそうしていただろうか。

 何故か止まらない足に従うまま進んできていたが、ようやく何かが見えた。

 止まることはできないが、進む速度を上げることは出来るようだ。

 俺は小走りに、それに近づく。

 雲の上を走っていたせいか、ボフッボフッボフッと走っているには不恰好な音を出してしまう。

 この無の空間にはこの不恰好な音は響いていたようで、目的としていた何かがこちらを振り向いた。

 どうやら、何かの正体は生き物のようだ。

 近づいて分かったが姿形的にも、人で間違い無いだろう。

 そう確信すると、俺は声をかけることにした。


「すみません!ちょっとお聞きしたいことがあるのですが!」


 そう言うと、目的としていた人物は笑顔で応答してくれる。


「いいっすよー!でもなんか足止めれないんでここまで走ってきてもらっていいっすかー?」


 良かった。

 人ではあるとは分かっていたが、言語が通じなかったり、まともに話が出来なかったりしたらどうしようと内心ヒヤヒヤしていた。

 だが、運が良かったのか善良な日本人のようだ。少しヤンチャそうな雰囲気があるが。

 あと、どうやら足を止めれないのは俺だけでは無いようなので、少しスピードを上げ彼のもとまで辿り着く。


「……なんか、早いっすね。ボフボフうるさかったのでシュールだったっすけど」


 彼はこちらを見ると、若干ひいたようなように言う。


「そうか?まあ、少し鍛えていたからな」


 根は捻くれているが、外面を真面目に見せていたので訓練は人1倍真面目に取り組んでいた。

 自慢じゃ無いが、その影響でチーターと追いかけっこをできるくらいだ。

 チーターといっても、チーターは核の影響で絶滅したのでチーター型の守護ロボットなのだが。


「鍛えてたってレベルじゃ無い気が……。ま、いっか。とりま自己紹介しましょう!俺はケンジって言います!年は18の高校生っす。多分俺のが下なんで敬語使わせてもらいますね!」


 俺はケンジと名乗る彼をまじまじと見つめる。セットされた金髪と若々しい整った容姿、耳に付けられたピアスなどで若者だろうとは思っていたがまだ高校生とは……。

 この場所が俺の推測通りであるのなら、彼はもう……。


「夢は多くの人に希望を与える平和の象徴!サッカー選手っす!ま、もう叶わない夢、なんすけどね……。」


 そう言った途端、彼の顔は目に見えて暗くなる。気のせいか、目に涙が浮かんでいるように見える。

 …………こんな場合、俺はどう声をかければいいのだろう。

 駄目だ。

 俺は彼に何か言えるほどの経験もしてなければそんな立場では無い。

 それに、三十路の俺とは違い、彼はこれからが始まりだったのだ。

 スタートすらできなかった彼には俺の言葉全てが蛇足になるだろう。




 しばらく、2人で沈痛な面持ちをしていると、彼はいきなり、自らの頬を両手で叩いた。


「やめやめ!こんな話は今することじゃ無いっす!まだ、来世もあるんだから!てか、俺めっちゃ善行積んだんで、来世こそ幸せになれるはずっすよ!なんなら、勇者とかにもなれちゃうかもっすからね!」


 そう言って彼はにっこりと笑った。

 太陽のような、眩しい笑顔を浮かべて。


 ……駄目だな。

 大人の俺が励まされてるじゃ無いか。

 

 俺は悪人だ。

 人々を守る仕事に就いたのも、善行を積むのも全て自分の為。

 内心で悪態をついたり、見下したり、善行を積む裏でそんな事をしていた悪人だ。

 だが、俺は彼のような人を救う時だけは善人だったんだ。

 その思いが偽りだったとしても、不純だったとしても、彼のような人を放っておくのだけは絶対に出来ない。

 それが俺なんだ。

 俺は、彼のように希望もなければ人を励ますこともできない。

 だが、俺の今まで生きてきた経験を使えば、彼の笑顔を絶えさせないことくらいは出来る。

 

 せめて、来世までのこの時を笑顔で。

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善行を積みまくれば異世界でチートできる!?〜最も善行を積んだ俺は時空魔法というチートを授かりました〜 @suikasan

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