「ガンダム新世紀宣言回顧録」

おぐらえいすけ

ガンダム新世紀宣言回顧録

 昭和55年(1980)当時、僕は小学6年生だった。

 映画「ヤマトよ永遠に」公開を控えた初夏。6月29日(日)、新宿アルタ前での「ヤマトよ永遠に”アドベンチャーロマンの航海”」の抽選に母親と臨んだが、敢え無く撃沈と相成った。

 それから約8ヵ月後の昭和56年(1981)2月22日(日)、再び新宿アルタ前に僕は居た。「劇場版 機動戦士ガンダム公開記念・アニメ新世紀宣言大会」に参戦するためだ。ヤマト、ガンダムが大好きな少年の、寒くて熱い冬の1日が始まった。


 あの日は近所の友人N君と昼に待ち合わせて、のんびり西武新宿駅に向かった。午前中開催「新宿松竹・ガンダムフェスティバル」抽選上映会に外れはしたが、「ポスター貰えるかな?」「大丈夫じゃない?」と、余裕の会話。ガンダムはヤマトほどメジャーじゃないと高を括っていたからだ。されど、本放送、再放送と反芻し、ガンプラに燃えていた矢先、映画化を「Animec」等のアニメ誌で知る。その映画化初イベントが近場であるというので、軽い気持ちで考えていたのだが・・・。

 程なく現地に着き、慄然。甘い予想を上回る人々が新宿大ガードから新宿東口マイシティ方向に続き、封鎖した車道の路上表示が見えないくらい犇めき合っていた。

 寒中、厚着で膨れた群衆に気圧されながらも、なんとか新宿アルタ前に辿り着いた。が、こちとら背が低い小学生、前に立ちはだかる中高生や大学生、大人達にまみれ、新宿駅東口特設ステージは殆ど拝めない状況だった。

 「これじゃダメだな。」「そろそろ始まるんじゃない?」「じゃ、あそこから見よう。」品切れ直前の配布ポスターを諦め、アルタの左手にある細いビル3階の喫茶店を目指す。入店すると、皆、同じ事を考えていたようで案の定満席。地上に降り植え込み沿いにステージに近づくが、観客達の足を踏んだ踏まないだの、ポスターが曲がるから押すなだの、殺気の様な怒号が頭上を飛び交う。

 「N君、こっち!」「動けない!」「え~ッ!!」逸れてしまいそうな刹那、『熱意はわかります!しかし事故を起こすとアニメファンが馬鹿にされます!』と、遠くのスピーカーから富野善幸監督らしき人の鶴の一声が。それに呼応してステージ前の蠢動が止んでいき、N君と無事並んで立ち位置を確保できた。

 軽い疲労と僅かな肌寒さを感じながら、イベント開演を迎える。背伸びをすると檀上にはスタッフ、声優らがズラリと並んでいるのが見て取れた。サングラス率の多い事!

 やしきたかじんさん熱唱の主題歌「砂の十字架」から、シャアとララァに仮装したファンによる”新世紀宣言”まで、あっという間に濃密な時間が過ぎて行った。 

 終演後、寒さも忘れた道すがら「7月にガンダムⅡか!」「夏休み、一緒に見よう!」N君とのいつも以上の一体感と高揚感を胸に帰路に着いた。


 あれから38年、51歳の僕は未だにヤマト、ガンダムに魅入られたまま中年になった。幸せな事に両作品とも時代と世代を越えて存続している。その事実を具現化するような「Animec」の復刊へ、心からの祝辞を送りたい。あのとき、あの場所にいた忘れえぬ記憶と共に・・・。



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