こいつらお医者さんの風上にもおけない選手

ちびまるフォイ

この時期はとくに注意してくださいね

新感覚のスポーツ「ドクター」の会場は観客で満員だった。


「これはすごいな……」

「みんなこの新しいスポーツを楽しみにしてるんでさぁ」


「新しいスポーツってこんなに認知されるものなのか?」


「きっと人気なんでしょう。もしくは、ハーフタイムに

 無料で配布されるお弁当が美味しいのかもしれやせんね」


「絶対そっちだろ! 通りでホームレスが観客に多いと思った!!」


「あ、試合開始ですぜ。行きやしょう!」


コートには相手の大大学病院チームのメンバーが並んだ。

ユニフォームは純白の白衣。


「ククク。我ら大大学病院に歯向かうとはいい根性だ」

「我らの底力を思い知らせてやろう」


「ふぉふぉふぉ。君たち、弱小クソナメクジ病院を悪く言うんじゃない。

 まだ試合は始まっていないじゃない。彼らなりに何か得点できるかもしれないじゃろう」


「「 はっ! 大先生!! 」」


試合開始の「回診ホイッスル」が鳴るとコートに患者が投げ込まれた。

先に患者を取ったのはやはり相手の病院だった。


「ようし取った!」

「オペの準備を!」

「大先生の執刀だ!」


大病院ならではの巧みなチームワークと連携プレイであっという間に患者は治療される。

治療されたことで、大病院チームのスコアボードに「1」の得点が入る。


「おっと、おとなげなかったかな? 出鼻をくじいてしまったかな? んん?」


「ぐぬぬ……」

「院長、落ち着いてくだせぇ。まだ試合ははじまったばかりです」


再び患者がコートに入るがまた吸い寄せられるように相手に取られてしまう。

あれよあれよと治療されてふたたび得点へとつながる。

あざやかなプレイに観客から割れんばかりの歓声がひびく。


「ちくしょう! どうして相手ばかりに患者がいくんだ!」


「院長。あっちにゃ、受付に元モデルでレースクイーンの女がいるんでさぁ」


「んな美人を!? それじゃこっちは!?」

「このみち40年のベテランです」

「一定の層にしか需要ないよ!!」


わんこそばのように患者を次々治療しては得点を重ねていく。

観客はもはや誰もこちらの病院チームに期待などしていない。


「た、ターイム!」


ハーフタイムも間近だったが急きょセカンドオピニオンタイムを取った。


「院長、どうするんでさぁ?」

「ごめん、ふつうにトイレ行きたくなったからタイム取っただけ」


院長は円陣からそそくさと出ていくと、残されたチームメイトたちはため息を付いた。


「どうする? このままじゃ確実に負けてしまうよ」

「あの院長のことだきっと何も考えてないだろうぜ」


「こうなったら、オレたちでなんとかするしか……」


「助っ人外来研修医B・J。いったいなにを考えるんでさぁ?」


「院長の右腕であるお前には言えないよ」


院長が戻ってくると試合再開。

試合は水入りのかいなく大病院に患者が渡ってしまう。


が、今度は若い研修医たちがその患者に食らいついた。


「な、なにをする!?」

「うるせぇ! 多少強引でも患者を治療したほうが正義だ!」


若く元気で無鉄砲な研修医たちは相手の患者を奪取することに成功。

その直後にホイッスルが鳴った。


「ドクターファウル! フリー治療権を大大学病院へ!」


「しまっ……!」


今の強引な患者争奪戦がファウルと取られ、相手にフリー権を与えてしまった。


「悪いねぇ? それじゃ治療させてもらうよ」


大大学病院はフリー治療権で時間的な制約がなくなったのをいいことに

患者に最新鋭の薬と治療器具でもって病気を完全に治してしまった。


根治ポイントとして相手のスコアに「3」が入る。


「な、なにしてくれてるんだよ!? 逆に差をつけられちゃったじゃないか!」


「このまま患者を奪われ続けても結果は一緒だったでしょう!?」


「言っとる場合かーー!」


チーム内でもめ始めたときにハーフタイムに突入した。

コートにブルーシートが敷かれてメンバーは保護者とお弁当を食べ始める。


「なんで観客だけ弁当支給なんだよ……」

「そうでもしなきゃこんなスポーツ見に来る人いないでさぁ」


「このまま負けたらどうしよう……」

「うちの病院の評価はだだ下がりでさぁ」


「ましてこの得点差だと、うちの入院患者も向こうに取られるんじゃない?」


「うちの母もあっちの病院にうつしやした」

「はくじょうものっ!」


院長は腹心のお弁当から卵焼きを奪った。

ハーフタイムが終了すると再び白衣を来たメンバーがコートに集まる。


「もう降参したらどうだ? 恥の上塗りになるだけだぜ?」


「ほっとけ!」


試合回診のホイッスルが吹かれて患者が運び込まれる。

前半同様に相手に患者が渡る。


「くそ! またこのパターンか!」


しかし今度は患者をチーム内でたらい回しパスを続けるばかりで一行に治療しない。


「なんだ? 相手は治療しないのぞ? からかってるのか?」


「院長。これはチャンスでさぁ」


たらい回しされていた患者を奪うと治療して初得点。

次の患者がコートに届けられるが、今度も相手チームは治療せずにたらい回し。

患者を奪って得点。


最初こそなめているのかと思ったが、得点差が逆転してからも相手の治療保留は続いた。


「試合終了! 勝者、弱小クソナメクジ病院!!」


「やった! やったーー! 勝った!!」


この展開を筆者を含め誰が予想しただろうか。

弱小ナメクジ(略)は大大学病院をくだして大大勝利をおさめた。


「正直、勝てるとは思わなかったよ。みんなありがとう。

 後半から相手が患者を治療しなくなったのがよかった」


「院長、運も実力のうちでさぁ。

 きっと奴らの病院のベッドもいっぱいになったんでしょう」


「そうかもな。それなら治療できないもんな」


院長は優勝トロフィーを受け取ると頬ずりしてキスした。

これできっと病院の名も売れることだろう。


「ところで、観客が誰もいないけどもう帰っちゃったの?」





「いえ、ハーフタイムのお弁当から原因不明の食中毒が出て

 全員が大大学病院に担ぎ込まれたんでさぁ」

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