ショートコント 面接シリーズ~「メンドクセス」
鵜川 龍史
メンドクセス
〔登場人物〕
面:面接官 上手(右側)
応:応募者 メンドクセス 下手(左側)
面:お名前は?
応:メンドクセス。
面:珍しい名前ですね。
応:ギリシャの生まれなのです。
面:へえ、ギリシャ。いいなあ、アテネとか。
応:みんな、アテネアテネ、って、そればっかり。
面:へ?
応:アテネパルテノンアテネパルテノン、スパルテノン!
面:スパルテノン?
応:馬鹿にしてます?
面:いや、今……?
応:だいたいですよ。
面:はい。
応:ギリシャ最大の都市がどこだか、わかってます?
面:すみません。あんまりギリシャ詳しくなくて……。
応:アテネです。
面:アテネじゃん。
応:だから、僕みたいな田舎者は、たまらないんですよ!
面:どちらの生まれなんですか。
応:アテネです。
面:アテネじゃん!
応:へへへ。
面:(めんどくさそうに)日本語お上手ですね。
応:ギリシャ語ほどではありませんが。
面:それは、そうでしょうね。
応:なんで、分かるんですか? ギリシャ語、一言も話してないのに。
面:いや、まあ、普通、そうじゃないですか。
応:普通?
面:え。
応:普通って言いました?
面:は、はい。……すみません。
応:確かに、普通、そうですよね。
面:どっちだよ! (頭を掻きながら)何年前に日本に来たんですか。
応:二年……と。(指を折りながら数える)
面:へえ。
応:二十五年?
面:足せよ!
応:お、それは、業務命令ですか?
面:まだ採用してないだろ!
応:ええ! どうしてですか。
面:面接が全然進んでないじゃないか。
応:僕は気が進みません。
面:だったらやめろよ。
応:お、業務命令ですね。
面:メンドクセ。
応:(返事するように手を挙げて)はい!
面:何?
応:呼びましたよね?
面:呼んでないよ。
応:いま、メンドクセスって。
面:何なんだよ、その名前。
応:クセルクセスの末裔なんです。
面:誰だよ。
応:知らないんですか? ペルシャ戦争でギリシャに大遠征を行なったクセルクセスです!(力強くガッツポーズ)
面:ああ、あの! 「スリーハンドレッド」見ましたよ! スパルタ王のレオニダスを演じたジェラルド・バトラー、好きなんですよね。
応:クセルクセスは、その敵役、でした……。
面:ああ、あのキンキラキンの。
応:はい。
面:パンイチの。
応:はい。(落ち込む)
面:(慌てて慰める)でも、まあ、あれは映画だから。
応:でも、いい映画でした。
面:そんなことより、ペルセポリスにすごい門がある、っていう話を思い出しました。クセルクセス門、でしたか……。
応:別名「万国の門」とも呼ばれています。
面:いやはや、すごいご先祖様だ。
応:でも、それら公共事業によって財政が圧迫され……暗殺されました!(突っ伏して大泣きする)
面:(頭を掻きながら傍白)めんどくせーな。(肩を叩きつつ)お辛いですよね。でも、大昔の話ですし。
応:(ガバッと起きて)大昔ってどういうことですか?
面:大昔は……大昔ですよ。すごく昔っていう意味です。
応:じゃあ、小昔ってどういうことですか?
面:小昔なんてねえよ。
応:そうか、小昔はないのか。
面:小昔はないよ!
応:小難しいですね。
面:それは、使い方が違いますね。
応:じゃあ、大難しいですね。
面:大難しいはない!
応:じゃあ、やっぱり小難しいんじゃないですか。
面:小難しいは、使い方が違うんですよ。
応:へえ。どういう時に使うんですか。
面:ちょっとめんどくさい人とかに使いますね。(めんどくさいを強調。応募者を暗に示す感じで)
応:(意に介さない様子で)ふーん。
面:こういうときは、普通に「難しい」でいいんですよ。
応:(だるそうに)ふーん。日本語、面倒くせえっす。
面:何?
応:(面接官に向き直って)日本語、話すメンドクセスです。
面:いや、いま、面倒くせえって言ったでしょ。
応:言ってないですよ。
面:うそくさいなあ。
応:ウソクセス?
面:はい?
応:ウソクセスです。
面:え? 何?
応:私は、メンドクセス・ウソクセスです。
面:誰だよ!
応:メンドクセス・ウソクセスですって。
面:もういいよ! 不採用!
応:え?
面:ふ、さ、い、よ、う!
応:え?(鼻をつまんで、臭そうなそぶり)
面:ああ、臭いよう、か。バカっ! においの話じゃない!
応:ん? においクセス?
面:なんだよ! においクセスって!
応:兄です?
面:何?
応:兄ですよ。ニオイクセス・ウソクセスです。
面:どんな名前だよ。……そういえば、ソクラテスの奥さんが、クサンチッペっていう名前だったな。
応:同じにおいがする!
面:ひどい奥さんだったらしいけどね。
応:そうなんですか。
面:「そんなにひどいなら、別れたらいいじゃないか」って言われたソクラテスが、「この人とうまくやっていけるなら、他の誰とでもうまくやっていけるだろうからね」って答えたとか。
応:ありがとうございます!(握手するために手を差し出す)
面:(首をかしげる)何?
応:僕とやっていけたら、誰とでもやっていけますよ!
面:いや、無理。
応:どうしてですか。
面:クセルクセスの末裔なんでしょ。
応:そうですよ。
面:うちの会社、スパルタだから。
ショートコント 面接シリーズ~「メンドクセス」 鵜川 龍史 @julie_hanekawa
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