泣き顔彼女

 階段ですすり泣く彼女のことを僕は知っていた。

 特段、彼女は有名人って訳でもなければ知り合いでもない。もちろん、同じ学校の生徒でもない。

 しかし、僕は彼女を知っている。

 でも、出逢ったという定義がお互いが認識して会話したとするなら、彼女とはこの格安ラブホテルの非常階段が初対面だ。

 彼女は、立ち止まった僕を見上げた。

「あなたは確か......」

 彼女も僕の顔を見て心当たりを探る。


 そう。僕と彼女は初対面だが面識はある。


「本町の」

「中央線の」

 駅で度々すれ違うだけの他人。


 毎朝、決まったダイヤに乗る電車。決まった習慣。

 学校は違えど僕は中央線から御堂筋へ、彼女は御堂筋から中央線へ。

 そんな一瞬だけの交わりを毎日繰り返すだけ。


 中央線と御堂筋を結ぶ通路は2通りある。

 単純に言うなら階段を使う通路とエスカレーターを使う通路。

 階段を使う通路は、エスカレーターを使う通路に比べて人通りが少ない。

 僕はそこで彼女を何度も見かけたし、彼女も僕を何度も見てる。

 ただ、目を合わせることはない。

 お互い目が合いそうになると目を反らし、文字通り他人でよそよそしくなにも見ていないと言い聞かせてすれ違うだけの関係。


 そんな相容れない関係の僕たちは一度は交わったもののすぐに黙り、僕は気まずそうに階段を降りようとした。


「待って」


 彼女は僕の手首を掴み留まらせた。


「お願い......助けて」


 そして彼女は、僕に助けを求める。


 彼女の顔は、未だに泣いていた。

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僕は僕自信が嫌いになったあの日、泣いている君に出会った。そして君に恋をした。 My @Mrt_yu

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