2.兄
A「自分の顔があまりにも兄さんにそっくりだったんで、顔を焼いた」
B「あらまあ、アーティスティック」
A「このままじゃ同化しそうだと思ってな」
B「どうかしてるのはお前の頭だよ。なんで自分の方を焼いたのさ」
A「兄さん、嫌がるだろ」
B「うん」
A「人の嫌がることはしちゃいけない」
B「うん……うん?お前は嫌じゃなかったの?」
A「全然?」
B「そうかあ。もう言うことねえわ」
A「いや、言ってくれ。気になるんだがな、この瞼の辺りとか、もうちょいウェルダンにして良かったと思うんだ」
B「レアならまだ戻せたかもよ?」
A「兄さん、顔を焼いた先人としてアドバイスしておくが……」
B「先人て。俺は焼かないよ?」
A「実はレアになってる部分が一番痛い」
B「痛くて当たり前なんだよ。痛くなかったらおしまいなんだって。人間、痛みを感じるうちが花だから」
A「でも兄さん、痛みはない方がいいって言ってたじゃないか」
B「そりゃあ、痛いより痛くない方がいいけど、痛みを感じる心がなくなったら、それどころじゃなくなるって話」
A「俺には心がないのか?」
B「ありまくるよ。ありすぎてそうなっちゃったんだろ」
A「だったら少しばかり無くしてもトントンだな」
B「そうかなあ」
A「で、話は戻るんだが」
B「お前の顔も戻って欲しいよ」
A「それは無理だ。兄さん、こんなことを聞いたことがあるか。この世には同じ顔の人間が三人いる」
B「あー…………」
A「つまりやることはひとつだ」
B「それってさあ、ここで俺の顔を焼けば解決なんじゃないの」
A「兄さんは嫌だろう」
B「嫌だけど。そうじゃない方は後味が悪い」
A「と、言うと思って、事前にそれをやってきた」
B「仕事が早いっていうか、お前は何も言わずに何かをやっちゃうよなあ」
A「そう褒められると、照れるな」
B「よしよし」
A「撫でられると、喜んでしまうな!」
B「いっぱい喜びなよ。お前は凄いやつだ。普通じゃそんなことは出来ない」
B「で、結果はともかく、そこまでの過程を教えてくれないか?」
A「ここだけの話、俺にはもう一人兄がいてな」
B「……初耳だよ。兄ってそんな都合よく生えてくる?」
A「隠し子だったんじゃないか?あっち側から言ってきたんだ」
B「へー」
A「それで、ちょうどいいと思ったから焼いた」
B「生きてるの?」
A「うん。殺したら、また三人目を探して焼かねばならんだろう」
B「ごもっとも、なのかねえ?被害者がでないのはいい事だよ」
A「褒めてもいいぞ」
B「えらいえらい」
A「俺はよくやっただろう?」
B「おうとも。やってくれたよ。その兄とやらに、俺は会わなきゃいけなかったりする?」
A「しない。俺の兄は兄さんだけだ」
B「お前が言うならそうなんだろうな。じゃあ、わざわざ他人に会う必要はないか」
B「焼いたのはもちろん、お前と別の所なんだろう?」
A「全部焼いた」
B「お前は半分だもんな。三人ばらばらでいい感じ、か」
A「もうこれで同化しなくてすむぞ」
B「お前が嬉しいならそれでいいよ」
B「で、さあ」
B「どうだった?実の弟に顔を焼かれて」
B「俺はね、それを聞いて、ちょっと嫉妬しちゃった。俺だけ焼かれてないとか、仲間はずれみたいだろ?」
B「まあ、元からはずれてたんだけど」
B「今更、捨てられた弟を取り戻そうったって、そんな都合よく行くわけないだろう?先にあいつを捨てたのはお前らさ」
B「そこに漬け込んで、思い込ませたのは俺だけどね」
B「正直ビビった。実の兄がいるなんてなあ。今の顔はそんな感じだけど、元はあいつにそっくりだったんだろうな」
B「どうかしそうなくらいに」
B「だから焼いたんだろうさ。焼かなかったらお前の弟に戻ってたかもな?」
B「安心しなよ。お前の弟はどうかしちゃったけど、悪人じゃない。お前が生きてるのがその証拠さ」
B「だけど、俺は悪人だから、お前を躊躇なく殺す」
B「今更、生きられても困るんだよ。正気に戻る要因は、なるべく消しておかないと」
B「それじゃあ、さよなら。弟は俺に任せときなよ。どうせ死後も会えないさ」
B「あいつは俺が地獄に連れてくから、天国で新しい弟でも作ったらいいよ」
ある「A」と「B」 tetori @tetori12
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