ある「A」と「B」
tetori
1.スイカの精
ピンポーン
A「はーい、今開けまーす」
A「よいしょ。随分重い荷物だな。えーっと、これは……」
A「スイカかあ。そういや頼んだっけ」
A「大学生だからスイカの一玉一気食いをしてみよう!ってレポートの締切ギリギリになって狂った脳が勝手に通販サイトをポチッたんだよね」
A「届いたのはいいけど……食べきれるかな?まあ、数日かけて食べればいいか」
A「しゃくしゃく」
A「……半分くらいで飽きてきたな。味というより種をとるのが結構……嫌になってくる」
A「いっその事飲み込んで……むぐ……」
A「……だめだなこれ!やっぱ異物感がすごい!スイカの種ってなんでこんな存在感あるんだろう」
A「あー、もういいや。今日はここまでにしとこう」
A「……」
A「……んー、朝か」
A「食べすぎたかな。なんだか体が重……」
B「おはよう!」
A「えっ?」
B「お兄ちゃん!おはよう!」
A「お、おはよう。って!何!?何なの君は!」
B「スイカの妖精だよ!」
A「す、スイカの妖精?」
B「うん!お兄ちゃんが飲み込んだ種から生まれてきたよ!」
A「へ?生まれ、生まれて……」
A「ぅ、うわぁぁああ!?血が!布団の中!え!?シャツも!?」
B「お兄ちゃんのお腹の中から出てきたばかりだから果汁だらけになっちゃった。ごめんね!」
A「え!果汁!?血じゃなくて!?……そういえば甘ったるい匂いとベトベト感が……」
B「お腹は縫っといたから安心してね」
A「うわ!雑な縫い方されてる!傷物だよこれ!」
B「お兄ちゃんはお兄ちゃんだから多分お嫁さんとる方だし大丈夫でしょ」
B「……あ、そういう感じのことダメなのかな。今厳しいし。もしかしてお嫁に行こうとしてた?だったら責任取ってワタシが娶ってあげるね!」
A「見知らぬ幼女の嫁になる予定はないよ!?というか、お嫁さんになるつもりはございません!」
B「じゃあ安心だね!」
A「何も安心してないよ!?」
B「とりあえずシャワー浴びようよ、お兄ちゃん。ベトベトでしょ?」
A「え、ああ、あー……うん……」
B「何か諦めた顔だね!」
A「うん……この状況の把握とかにね……」
B「シャワー気持ちよかったね!」
A「ナチュラルに入ってきてビックリしたけどね?」
B「ワタシはお兄ちゃんがお湯でシャワーしてるのにビックリしたよ!茹でスイカになっちゃうところだった!」
A「だからっていきなり冷水にするのはやめようね」
B「もともと小さいお兄ちゃんのお兄ちゃんが小さくなっちゃったもんね」
A「君、さては下の話好きだな?」
B「お風呂から出たから早速スイカ食べようよ!」
A「えー。正直この状況で食べたくは……何やってるの?」
B「頭開けるね。ぱかー」
A「はい?」
A「…………えっ、」
A「ええ、……うわ、うわあああ!?」
B「なんと!ワタシの頭の中身はスイカのフルーツポンチだったのです!」
A「グロい!しかもしゅわしゅわしてるの何!?」
B「ソーダだよ。ワタシはまだ子供だからお酒は入れられないんだ!残念!」
B「ちなみに正式にはフルーツポンチじゃなくてフルーツパンチだからそういう意味は含まれないよ!」
A「どこから口出していいんだか分からなくなってきた」
B「口なら出していいよ!味見してね!はい!スプーン!」
A「えー……これ食べるの……?確かにフルーツだけど……」
B「食べないと頭がタプタプで零れちゃうよ!」
A「蓋しなよ……仕方ない、少しだけ。いただきまー……」
B「ギャーーーーーッ!」
A「ヒェッ!」
B「嘘だよ。痛くないよ」
A「そういうのほんとやめてね。動揺したせいでせっかくシャワー浴びたのに果汁でシャツベットベトだからね?」
B「ワタシの中身を零すなんて……いやん!」
A「今更恥じらっても遅いから」
B「零しちゃったのはワタシのせいだから許すけどちゃんと食べて〜」
A「勝手に許されちゃったよ……仕切り直して、と」
A「もぐもぐ」
B「……美味しい!?」
A「美味しいよ。というかフルーツポンチって言っておきながらこれ全部スイカだよね?」
B「スイカ以外のフルーツなんてあってもなくても一緒だよ」
A「なんて傲慢なんだ……」
B「ビバスイカ、エビバデスイカ、エブリワン。人間は滅び、みなスイカになる」
A「魔王みたいなこと言ってる……」
B「世界の半分のスイカ畑はお兄ちゃんにあげるね」
A「気のいい農家が混ざってるよ」
B「食べ終わったら蓋してね!」
A「これ蓋したらどうなるの?」
B「スイカスムージーになるよ」
A「予想の斜め上の答えが返ってきた」
B「氷枕で寝るとシャーベットにもなります」
A「やっぱりスイカオンリー?」
B「他のフルーツがいいの?産んでおいて育児放棄するつもり?」
A「何も悪くないのに良心がズタズタになった」
B「冗談だよ!どうせ、お兄ちゃん、これからワタシしか食べられないような体になっちゃうんだから、他のフルーツなんて目じゃないよ!」
A「八方塞がりだった」
A「これ、食べきったらなくなったりするんじゃないの?」
B「食べたらまた産めばいいんだよ?」
A「え、それはちょっと。僕の体の水分とかがすり減りそう」
B「じゃあ、お兄ちゃんもスイカの精になっちゃう?」
A「なれるものなの?」
B「そのビジュアルだと厳しいかな……面接とか……」
A「面接とかあるの!?あと、さりげなく外見を蔑まれた!?」
B「ワタシのコネがあるだろうからスイカの精にはなれるだろうけど、この職は実力社会だからね。大丈夫?売り込みできる?スイカ神に一生を捧げられる?」
A「いいよ、そんな内部がカルト教団みたいな職は……」
B「でも、お兄ちゃん、大学生なら就職とか不安じゃないの?」
A「うっ、それは……正直…………」
B「じゃあ、ワタシのお嫁さんになるか、世界の半分のスイカ畑を統治するか、スイカ神を信じて新米スイカの精になるしかないよ」
A「三つも案を出されたのにどれも胡散臭すぎる……」
B「よーし!こんなときは光合成だよ。日を浴びればなにか閃くかも!」
A「日差しギンギンだよ。熱中症の不安が増えるだけだと思うけど……」
B「じゃあ、ワタシの蓋でも被ってたら?」
A「自然な動作で乗せてきたね。なんとなくひんやりするけど……」
B「ほらほら、ここら辺で!太陽感じて!糖度貯めて!」
A「糖度なら光合成じゃなく肥料じゃないかな……」
B「……」
A「……」
B「……ウッ…………」
A「ん?何?また僕を驚かせようと……」
A「うん!?」
B「ウオオオオォオォ……………」
A「一瞬で中身がぐじゅぐじゅになって、ゾンビになってる!?」
B「スイカ……萎ム……暑イ……中身……蒸発……」
A「それはそうだろうね!?それにしてもはやすぎると思うけど!」
B「ウウ……オニイチャン……マタ……」
A「えっ、ほんとに萎れちゃうの?急だったからそんな、……あ、あの、そういうのは、えっと、どうしよう、これ……」
B「マタ……ネ…………」
A「ん……」
A「うん?」
A「あー……夢か。そりゃそうだ」
A「ヘンテコな夢だったなあ。ちょっと面白かったけど」
A「途中ハラハラしたからかな、シャツも汗ばんでる気がするし」
A「とりあえず布団から出ようかな……ん、なんか、……硬くて、…………丸い、…………もの、が」
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