第30話 おぞましき巫女
ねえ、女神。一回目のセッションと世界が違ってる。
――よしよし、気づいたな。
――ようするに、ワンパターンじゃないってことよ。
クトゥルフきつい。
――確かに。
唐突にバッドエンドだし、不可避だし。
――あー、まーな。
占い技能、役に立たないし。
――何回も言ったのに。精神値チェックを入れるときは、何か足掛かりなり、クトゥルフになるなり、するから。
丸腰でどう立ち向かえと?
――あれ? 立ち向かうの?
相手にスキをつくるとかして逃げ道つくる! ってできない?
――確かにできなくはない。でもそれやると、クトゥルフじゃない。
クトゥルフやだって言ったのに!
――でもクトゥルフだけ動画観てるじゃない。
スタートがクトゥルフtrpgだったから、それだけ! 観れば観るほど、悪夢なんだけど!
――クトゥルフは夢に出てくるの?
寝付かれなくなって、消耗するの。
――気絶同然じゃないの?
朝、目が醒めると、夕べどうやって寝たのか記憶がない。
――確かにね。夢だから。
食欲もないの、この頃。ストレスたまる。
――わかった。クトゥルフにはしない。
よかった!
――頭いいから、クトゥルフどうかなって思ってたけど、豆腐メンタル。
精神値が初期から低いから!
――精神値あげればいいのに。
どうやって?
――祈ればいいの。
戦いの神よーっって?
――戦いの神じゃなくていい。
クトゥルフの神?
――そうだよ。
……それってどういう意味あるの?
――クトゥルフの神は自分の信徒を殺さない。
そうなの?
――女神のルルブではそうなの。
助かる方法あるんだ!?
――そっから? なにも知らないの?
動画を2つ3つ観たけど、神に祈る人、いなかったよ。
――クトゥルフの神だもの。立ち向かって勝つ方法ないから!
クトゥルフ教になるしかないのか……。
――その通りなのよ。
たすけて……。
――助けられない。
精神値下がっちゃった。
――祈りなさい。クトゥルフの神に。
女神――守り給え。守らせ給え。守り給え!
――精神値チェックしてみ?
1と6
――イチヌーケタ! 謝る。ぜんぜん向いてない。
――クトゥルフの神に忍び寄って殺すしかないぞ。
殺生はなあ……。
――なるほど。大事。
――むう。美男子出してるのに、食いつかないし。
美しいからなんなの?
――うわ! 美男子の価値観、ないの?
つかぬことを尋ねるけど、私の初期値、どうなってる?
――精神値が3。行動力が4。高い方だけど、クトゥルフは向いてない。
プレーヤーのキャパを軽く超えたシナリオでしたね(怒)死にたい。
――精神値が高いのに?
最大値ってふつう、相場どれぐらいなの?
――もっと高い。
――すいません。ルールブック見せてほしいな。
――はい。
――どうやって精神値あげんの?
――唸るようにクトゥルフを呼んでください。
それ、確か、口にするだけで精神値が下がるやつでは? 女神のルルブ、クトゥルフと違う……。
――違うよ?
――いつの時代の奴?
――ルールブック出てから3年くらいの奴。
――ちょっと待って、それって、初期の?
――精神値は他の人にはわからないように決めたの。
あ、私、女神の駒なの?
――その通りだよ。
女神――私を育てて?
――ハイハイ。
――神の巫女かあ。
巫女さんなの? 私。
――今、気づいたの?
え、え? クトゥルフの神、の、巫女さん?
――他に何があるのよ。
人魚みたいな姿してる?
――その話、ひっぱるの?
クトゥルフ怖くて嫌なのに、その神の巫女って!?!
――精神値いっぱいあげるから。
うっうっうっ……恐怖の神の、巫女なの?
――そーいうこと。
いつから?
――あの時からかなあ。
あの時といいますと?
――本棚の整理してたときかなあ。
――やばぁ。
精神値チェック?
――入れて。
6と5
――もう一回。
3と2
――もう一回。
2と1
――もう一回かな。
6と5
――バッシャーン!
どうしたどうした。
――記憶には封印がかかってます。
解くとヤバイの?
――好都合にも、こう書かれてあります。『開けちゃダメ』
ええ? 開けたらどうなるの?
――クトゥルフ。
封印されし巫女ってことか。
――精神値チェック。
2と5
――広い意味ではそう。
厳密に言うとなんなの?
――封印されし巫女、ではなく、おぞましき巫女。
――確かに。
えげつなぁー……おぞましいのか……どんな姿?
――どんな姿かというと、残念ながら、見たことがないので。封印されたので……。
見るべき? 占う。
――精神値チェック。
1と4
――あーこれは! 『自覚のない、二重人格』だ! 多重人格症状がでます。
神の巫女なんて、しょせん目に見えない信仰にすがって生きる頼りない生き物ヨ。こうして現実に根差してリアルに生きる人間が一番強いに決まってるじゃない!
――RPGなんだけどさ、どっちでもいいのか?
?
――生まれつきの主人公がいい?
どういう意味なの?
――しかも自覚ねえ!
――自覚のない主人公って困る!
んじゃさ、女神はいつから女神なの?
――女神って信仰を集めてから。
うん、クトゥルフ世界からきたの?
――違う。どこから来たってわけじゃない。
いつ、うまれたの?
――生まれたときから、ずーっと主人公。
女神はなんなの?
――それを問うか。……成績トップなのに。成績がトップなのに!
創造主?
――そりゃあそうだ。
ねえねえ、女神、私、いい作家になれる?
――なれるわよ。……難しいけど、作家になれる気がすごくするわ。
――大きな間違いだったと思うけどね。
――確かに。
むう! あらがってやるわ! 女神、クトゥルフに対抗できる力が欲しいんだけども!
――いいわ。クトゥルフもびっくりするくらい、本物のダレンシャンにしてあげる。
ダレンシャンって、タイトルも、作者も、主人公も同じ、ダレンシャンなんだよね。
――あったりまえ!
新井素子さんもやってたアレかな。違うかな? 『絶句』?
――フフフ……違う。
え?
――ダレンシャンだから、藤本ひとみと違うところ、見せてやんなさい。
え? なんでその作家さんの名前出てくるのー?
――今までみっちりやってきたことを、これから、いかすのよ。前向きに、ねっ!
謎ばっかりだけど、女神は女神だから、きっとそうなんだよね?
――<おぞましき巫女>完!
絶対零度の心にも咲く花 れなれな(水木レナ) @rena-rena
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