たくさんのぼく
ひだり
たくさんのぼく
たくさんのぼくたちはたくさんの人間によって殺される。だからぼくたちは人間に近づいてはいけないし、見つかったら急いで隠れないといけなかった。
人間はひどい生き物だ。自分たちの気に入ったものは大切にするけれど、気に食わないものは捨てたり、壊したり、殺したりする。だから、ぼくたちは暗い暗い空間の中でじっと息を潜めた。たくさんのぼくたちにとってはとても窮屈な場所だったけれど、そうするしかなかった。ご飯が食べたくても、人間が外にいるせいで暗い暗い空間から出られないときもあった。そうして、食べるものがないときは食べられないものを食べた。ぼくたちにはそうすることしかできなかった。
魚はプランクトンを食べる。虫は植物を食べたり、動物を食べたりする。動物は魚を食べたり、虫を食べたり、植物を食べたり、同じ動物を食べたりする。人間は魚を食べたり、虫を食べたり、植物を食べたり、動物を食べたり、よくわからない菌を食べたりする。
けれども人間は、魚や虫や植物や動物やよくわからない菌を大事にすることがある。それでもひとつわかっていることは、たくさんの人間はたくさんのぼくたちを憎く思っているということだった。
今日も、見つかってしまったたくさんのぼくたちのうちのひとりが、たくさんの人間のうちのひとりに殺された。それから、たくさんの人間はたくさんのぼくたちを探した。そうして、捕まえられたたくさんのぼくたちは、たくさんの人間によって殺された。
けれども、たくさんのぼくたちのうちのぼくが殺されても、たくさんのぼくたちのうちの誰かが生き延びてくれれば、再びたくさんのぼくたちに戻ることができた。それは、同じぼくではないかもしれないけれど、たくさんの人間にとってそんなことはどうでもよかった。
たくさんのぼくたちとたくさんの人間の争いは、きっと終わることがない。それでもぼくたちは一生懸命生きていく。暗い暗い空間でじっと息を潜めることになっても、食べるものがなくて食べられないものを食べても、たくさんのぼくたちのうちのぼくが殺されても、昔々のたくさんのぼくたちがそうしてきたように、今この瞬間も、これからずっと先の未来も一生懸命生きていく。
たくさんのぼく ひだり @hidari09
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