ヒーロー

@blueking

プロローグ

高層ビルが立ち並ぶ街中、私は暇な時間があるときはビルの上から夜を眺めるのが好きだ。

夜の道を行く車の流れを眺めていると本部から連絡がきた。

「またビルの上にいるのか?」

「ビルの上は良いよ、風は気持ちいいし、たまには来てみたら?」

「君みたいな能力が覚醒したら考えるよ、そんなことより仕事だ」

「わかった・・・」

私は手すりから身を乗り出しビルを飛び降りた。

空中で1回転した後スカイダイビングの要領で体制を安定させ道路の方に目を向ける。

するとさっきから見ていた車の流れを乱すほどの速さで走る黒いジープが目の前に飛び込んだ。

「明らかに怪しい黒いジープが見えたよ、あれが目標?」

「そうだ、そのジープの中には盗まれたバルク鉱石が入ったケースが積んである。悪用されれば爆弾でも兵器でもなんでもござれだ」

「それはまずいことになるねっ!」

さらに落下を加速させスーツに仕込んでいたウィングスーツを起動し空を滑空する。

「お前の好きな街を守るためにも頑張ってくれよ」

「私が好きなのは街じゃない、夜が好きなんだよ」

ウィングスーツを制御しジープの真上まで近づきウイングスーツを解除した。

ダンッと大きな音を立ててジープの上に飛び乗る。

「な、なんだ、何か上に乗ったぞ!」

中で男のたちがどよめく声が聞こえた。

「振り落とせ!」

猛スピードで走るジープは右左と蛇行を繰り返し私を落そうと暴れてくる。

「お、落したか?」

車の蛇行を止め耳を澄ませながら男がそんな言葉を口にした直後、私は刀を生成し車に突き立て、そのまま切り裂きジープの天井に大人が通り抜けれるくらいの穴を開けそこから顔を出した。

「そんなんじゃ落ちないよ」

私の声に驚いた大柄な男が腕をマシンガンに変化し発砲してきた。

「ちょっと、オーダーがいるの?、聞いてないって!」

顔を引っ込めてそれを避ける。

「おい!早く弾をもってこいまだ上にいるぞ!もう一度蛇行するんだ!俺は撃ち続ける!」

振り落とそうと蛇行しつつ天井に向けてマシンガンを乱射してくる。

銃弾の嵐をジープに張り付きながらすべて避け、生成した刀で前輪を斬りつけパンクさせた。

コントロールが取れなくなったジープは道路わきに駐車していた乗用車に衝突し横転した。

「もう降参してほしいんだよね、私も暇じゃないの」

バルク鉱石が入ったケースを取り出そうとジープに近づく。

「近寄るな!」

先ほど車内から撃ってきた男がケースをわきに抱え弾を体に巻きマシンガンを撃ちながらジープの陰から現れた。

とっさの事だったが近くのトラックの裏に隠れ身を守った。

男は軽く小走りでマシンガンを撃ちながら数百メートル離れたあたりで弾が尽きたのか腕を元に戻し全力で走りだした。

「危ないなーもう」

トラックの影から身を出し手に持っていた刀を弓と矢に生成し直し、構えて狙いをつける。

「少し遠いかな」

角度を調整し思いっきり引く。

バッと手を放し手元から離れた矢は弧を描くように的である男に向かって加速していく、そして。

バシュッ。

走っていた男の太ももに命中し足と胴体を分離させた。

男の声にならないような叫び声が夜の街に響いた。

私がトランクケースを拾った瞬間通信機が鳴った。

「電波妨害で通信ができなかったんだが相手にオーダーがいると情報が」

「もう戦った」

「え、ああご苦労」

「次からはもっと情報が確定してから連絡して、危うくスーツに穴があくところだったんだから!」

「今度からは気を付ける、ところで物は?」

「しっかりと取ったよ」

「わかった、本部に帰還してくれご苦労だった」

「はいはい、報酬はきっちりと頂くからね、後クリーニング代も!」

そこまで言うと通信は切れた。

これが今の私、[柚木あかね]、ヒーロー名[クリエイト]の日常。

でも今から話すのは昔の事、私がヒーローになるまでの物語。

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