Extra3 小さな打算。大きな誤算。

 冬の夜の山奥でボクはひとり一所懸命に穴を掘っていた。


 今年の冬は比較的暖かい日が続いて雪もそんなに積もりはしなかった……というのは街の話で、山ともなればそれなりの積雪量に見舞われていた。


 最初に雪をどかして地肌が顕になれば、ようやくそこから穴掘り作業の開始だ。


 時折吹く風は冷たく身に染み入る。しかしながら穴掘りも中盤ともなれば体が熱を持ち始め、作業に没頭するうちに寒さも気にならなくなる。


「なんで、ボクが、こんな、ことを――!」


 悪態つきながら人2人分の穴を広げていく。


 ボクが雑用として雇っていた未成年の少年2人。未成年は少年法に守られていて、警察に捕まっても犯行の詳しい内容が表沙汰になることはない。

 その理由は、犯行の詳細を詳らかにして公表したり、犯行に関わった成人の名前を公表してしまった場合、本来守るべきはずだった未成年の素性が芋づる式に暴かれてしまう可能性があるからだ。


 だがこの2人は頭が悪すぎた。


 ボクが振った仕事でポカをやらかすならまだ許せるが、まさか万引で警察の厄介になるとは思っていなかった。

 2人にはそれなりの報酬を与えていたはずだが、きっと突然大金を手にして金銭感覚が狂って散財したのだろう。子どもなんてそんなもんだ――


 せめてもの救いは彼らが警察にボクの存在を伝えなかったこと。


「ふぅ……」


 一旦手を止め、額の汗を拭い再び作業に没頭する。明け方までには作業を終わらせなければならないので休んでいる暇はない。


 しかしながら、彼らはとても運が悪かった。本来なら殺すほどのことではなかったのだが、次に彼らに与える予定だった仕事はを攫うことだった。

 ……のだが、不運にも件の万引騒動で彼女に顔を知られてしまったのだ。これではもう仕事にならない。


 だから処分した。後々そうするつもりだったし、仕事を振る相手は他にもいる。だから躊躇いはなかった。


「ふぅ。ここらが限界か」


 掘っていた土質が固くなった。これ以上は人力で掘り進めるにはきつい。だが、この深さでは埋めた遺体あっさりと発見されだろう。

 でもそれは問題ない。おあつらえ向きに周りには雪もある。遺体を埋めて土をかぶせその上に雪を盛れば少なくとも冬の間は大丈夫。獣に掘り起こされる心配もない。


 ボクは早々に作業を終えて根城に戻るべく2人の少年を埋める作業を開始した。


 …………


「……というわけで、キミに仕事を頼みたい」


 ボクは某寿司屋の男性のように両手を広げ大河くんに言った。


「というわけで――ってのは何のことだ?」


「それは言葉の綾ってやつさ」


 大河くんは露骨に嫌そうな顔をした。


「自分でやればいいだろう?」


「やれやれ。わかってないね。ボクと彼女たちは顔見知りなんだよ。だから支障が出る」


 すると大河くんもボクと同じようにやれやれとお手上げのポーズを取る。


「悪いが俺もその2人とは顔見知りなんだよ」


「……な? ……なんだってぇぇぇぇ!?」


 その叫びは、築うん十年のボロアパート中に響き渡ったに違いない。

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