第21話第21話 出来ない人のやり方があるんです
ラリさんはデルピュネーと、対峙した。ラリさんは拳で、デルピュネーは大剣で。圧倒的にラリさんは不利である。
「ラリ!何やってるんだ!」
ラリのお兄さんが声を上げる。
「猫……耳……食べ…る」
デルピュネーは、ボソボソと呟きながらラリに近ずいていく。
このデルピュネーってやつ、猫耳族が主食とか!?怖いんですけど!
そんなことを考えているうちに、デルピュネーが持っている大剣がラリに振り下ろされようとしていた。
「ラリの馬鹿め!」
フレーワが焦ったように言いながら、走ってデルピュネーに攻撃をする。
が、かすり傷ひとつ付けられない。逆にフレーワの剣が折れた。
「ちっ………最悪だ」
フレーワは剣を投げ捨てた。その後、自分の手を見つめていた。
「ラリだって、これくらい、別に、大丈夫だもん!」
淡々と話すラリさんの背中を見る。意地っ張りなのだろうか。
「私は、これ以上、大切なものを失いたく、ないからね」
背中が小さく見える。
謎の緊張感が走る。
ただ、見ているだけの私は惨めだと思った。見ていることしか出来ない、アホらしい。
大切な物を守ることは、大変かもしれない。自分の身を削って、時間を割いて。
デルピュネーが、剣を振りおろそうと言わんばかりにラリさんを睨みつける。そして、剣が振り下ろされた。
「ラリ───!」
私なんて、震えて、見ているだけで、レイピアを、チートスコップを持ってるのに。
チートスコップ……………。
私にはこれがあるじゃないか!自分の努力無しで敵を倒すのは、納得いかないけどこの状況では仕方がない!
「リトハル!それ貸して!」
私はリトハルに向かって走った。久々の全力疾走。疲れるかと思ったが、そこまで疲れなかった。若さが1番強い気がする。
リトハルは、スコップを渡した。
馬鹿みたいって思うくらいなら、自分で行動しろ!
上司に躾をされるくらいなら、行動で示せ!
デルピュネーに向かってに50メートル位走った。
若いおかげか、速く走れた。
ラリさんに当たる寸前に間に合い、スコップを振る。
「やぁぁぁっ!」
私は、デルピュネーが振り下ろした大剣をスコップで真っ二つに一刀両断した。
そして、その大剣の持ち手の方に飛び乗り、そのままの勢いでデルピュネーの首を取った。
呆気ない感じもしたが、遠征チームからは歓声が上がる。
拍手されているのは分かるが、何を言っているのかはわからない。
デルピュネーは、轟音をダンジョン内に響かせて倒れた。
至近距離にいた私のワンピースの服がヒラヒラと波打った。
胸当てのお陰で、風はお腹辺りまでしたこなかった。
───バカ!
ラリさんのお兄さんの声が、微かに聞こえる。
他の人の声が聞こえにくい。さっきので鼓膜が破れたのだろうか。
ラリさんは放心状態になっている。
ラリさんのお兄さんは、ラリさんを抱擁している。強く、強く抱擁している。
そして、私と目が合うとラリさんを離し一礼した。
「ありがとうございます!」
……………
心の中でも、言葉も沈黙してしまう。
泣きながら、人にお礼を言われたのは初めてだ。てか、この人生でこんな素晴らしいお礼をされたことがあるだろうか。
感謝されるのは、人として嬉しい。心が澄んでいく感じがする。
「わ、私からも、あり…ありがとう、ございま……す」
号泣状態。ラリさんの顔はくしゃくしゃだ。可愛らしい顔が台無しですよって、ナルシストみたいな人とかは言うんでしょうけど。私はそんなイケメンでも可愛くもない。
「これからもよろしくお願いしますって言われたからですよ」
あ、ツンデレみたいになっちゃった。まぁ、気にしないでおこう。
「はぁ。ラリ、何故前に出た。大切なものの守り方が違うだろ」
その場の空気が凍てついた。
KYですか、フレーワさんは。空気を読めよ、クソッタレ。今、兄妹の絆が深まったところじゃないか。
馬鹿じゃないの。だから嫌われるんだ。
私と同僚達も密かに陰口を言う。
ラリさんは、不器用なんだよ。まだ、大切な物の守り方が分かっていないだけであって。
「すみませんでした……私のせいで、皆さんの足を引っ張ってしまって……」
「あのまま、新人が飛び込んでいかなかったら、お前は死んでいた。はぁ。守り方すら分からないやつを連れてくるんじゃなかったな…」
私のイライラメーターが、変な音を立てて爆発した。
ほかの声は聞こえにくいのに、フレーワの声ははっきりと聞こえる。それほど、大きな声で話しているのだろう。
私はフレーワの目の前に、仁王立ちで立ち塞がる。ラリが、私を止めようとするけど笑って「分かっているから」とだけ言って断った。
「大事なものの護り方は、人それぞれなんです!!」
「お前に言ってないだろ」
確かにそれは私に向けての言葉ではない。けれど、それはみんなに当てはまっている気がした。
まだ、大切な人の守り方すらわかっていない私や私も同じ新人。
ラリさんのような、何回か遠征している人だってそうなのだから。
「護り方を考えろって、言葉で言われても、実際にやってみないと分からないものなんです!」
私はいつの間にか、ポロポロと涙を目から零してフレーワに言っていた。
「だが」と言うフレーワを遮るように私は言った。
「フレーワさんは!……私たちも背負っているものが違うんです!あなたの基準に、私達の守り方を無理矢理合わせさせようとしないでください!」
フレーワは、険悪な顔をしてこちらを見つめている。
だが、私にそんなことは関係ない。私の初遠征のパーティーのメンバーが、言いたい放題にされていることに腹が立つ。
それに、フレーワのパーティーメンバーのラリさんについても言っていることにも腹が立つ。
あぁ、むしゃくしゃする。
目から溢れる涙は、段々と大粒になっていった。
上手く伝えれないことに、イライラが溜まっていく。
「あー!もう!」
私は俯いたまま、歯を食いしばって仁王立ちをしたまんまだった。
前に言われたけど、私のせいで大幅に予定と遅れてしまっている。けど、こんなのを永遠に放置していたら、もっと酷くなっていくに違いない。
ここで阻止しておくべきだ。
2回目はないからなって、先程言ったばかりだったのに。
さっきは、いい感じに連携を取れたと思ったのに。どうしてまたこんなことに。
「俺は、幼い頃からここにいた。守り方も自力で見つけてきた。それを今、お前らにやって欲しいだけだ。悪いか」
最後の一言が、問いかけてくる言葉なのか、自分の意見を押し通そうとしているのか。どちらにせよ、フレーワの価値観を私たちに押し付けてきている。
「悪いですよ!」
「どこがだ、ハッキリと言ってみろ」
「自分の価値観を他人に押し付けて、守り方がわからない人がいるんだったら、その人にどうやって見つけたのか、教えてあげればいいじゃないですか!」
はぁー。スッキリしない。納得がいかない。
「ふーん。なら、お前がこの遠征の指揮を執れ」
は?は、は、はぁ~?
いや、全く辻褄があってないんですけど。
意味が全くわからないんですけど。やっぱり頭が根本的におかしかったか。手遅れってやつね。
でも、やるしかない。私の実力をみせつけてやる!
「あぁ!いいですよ!ただし、口出ししないでくださいね!」
「ああ、分かったよ。口出ししない」
威勢のいい私とは正反対に、フレーワは冷静に言った。
─────────
「フレーワ…」
「なんだヴァルナ…」
ヴァルナは、座り込んでいるフレーワに話しかける。
ヴァルナは、フレーワを見つめるだけで微動打にしない。その表情はまるで氷のように冷たい感じだった。
硬直しているヴァルナに、ため息をついて言った。
「別にあれくらい、なんてことないからな」
「強がりね…まぁ、程々にね。嫌われ者の役も」
フレーワの肩が少しぴくりと跳ねる。
「確かに、チームに影響が出てしまうかもしれないが…」
「悪者が居ないと、ほかのメンバーが傷つくから?だよね」
フレーワは、笑を零した。そして、フレーワは折れた剣を片手に取った。
「ミューリにも、ヘールべにも申し訳なかったな」
ミューリは、探索者で、ヘールべは魔道士である。
ヘールべは、エルフ族でヴァルナと同じ種族の可愛らしい女の子である。
小柄な体型に対して、魔力はヴァルナと並ぶ程の多さだ。ちなみに、ヘールべはヴァルナの弟子である。
「ヘールべは、とてもお怒りでしたよ」
フレーワをからかうようにして、ヴァルナは微笑みながら言った。
「取り敢えず、あのクルミがどうやって行くのか、楽しみだ」
少し笑を零してから、フレーワは立ち上がりスタスタとヴァルナに背を向けて遠征チームのところにむかって歩いていった。
「そうやって、心配してるんだよな。いつも、嫌われ者なんてやっちゃって…」
ヴァルナもフレーワの背中を追っていく。
異世界に転生したらスコップ以外何も無かったのでスローライフ送ります。 @tokumitu1225
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