第20話 仲間の大切さを知って

「仲間を頼ればいいのに……」

「クルミ!何を言ってるんだ…」


 私は、呟いてしまった。

 聞こえてないといいなー、なんて思いながら隊長のフレーワをチラッと見る。

 予想通り、聞こえていて、フレーワはこちらを睨んでいた。

 

 背筋が凍った。


 元から鋭い目付きなのに、睨まれてしまうと更に怖くなってしまう。


 足音と、フレーワの防具の金属の音が聞こえてきて、私はビクビクしていた。


「こっちを向け」


 うげっ。最悪だ。目を合わせるとか無理なんですけど。

 仕方なくそちらを向くと、フレーワは微笑んでいるように見えた。

 少しだけ安心できたのは束の間。

 フレーワは、己の左腰に吊り下げてある剣を取った。


 殺されるぅぅ!こんな、仲間割れで死にたくなぁい!


「よくも、僕に、言ってくれたね。さっきは、出来るやつだと、思ったんだがな」


 淡々と喋るフレーワの目を逸らさないよう、私はしっかりと見る。


──ガツッ


「脅しですか」


 あぁ、やばい。挑発しちゃったよ。


 私の顔のすぐ左には、剣が洞窟の壁に突き刺さっている。

 その剣は、フレーワが力ずよく握っていて、軋む音がすぐそこで聞こえてくる。


 ダメダメ。怯えてちゃ、今後何も出来なくなってしまう。


「脅しととってもいいが、これは躾、だ」


 私は右手に、力が入った。

 そして、フレーワの顔のそばまで私の手が迫っていた。

 俗に言う、ビンタをしようとしていた。が、それはしてはならないと思った。


「躾って、私は犬ではありません!今は、仲間です!」


「俺に逆らうな!」


 左手を、半円を描くように横に振る。

 その時に、クロークがバサッと上がりフレーワの、右腰に付いている短剣が目に入った。


「そーやって、他人を押さえつけるようなことをして。仲間を集めてきたから、コミュニケーションが、取れずに今みたいなことになるんです!」


 私は、フレーワの右腰についている短剣を取ろうとする。

 フレーワは驚いた顔をして、右手で刺していた剣から手を離した。

 そして、私を押さえつけようとする。 

 けど、それは焦りによって成功しなかった。

 私にとっては、好都合だった。


 フレーワとの、見つめ合った時間が凄くゆっくりに進んだ気がした。


 私の手は、フレーワの短剣に届いた。そして、引き抜く。

 剣が擦れる音が聞こえたと同時に、フレーワの背後に回る。


「それはラリが、足を引っ張ったことによる事故だ」

「他人のせいにばっかりしている人が、リーダーって。どう考えてもおかしいですよ。皆さんも、なんで何も言わないんですか?」


 フレーワのパーティーメンバーは、みんな揃って目を泳がせた。


 あぁ、上からの圧力なんだと、その時思った。これが権力と言うやつなんだと。


 だったら、私と戦ってあんたが負けたら私がその立場を剥奪して、私が負けたらあんたの言うこと聞いてやる!って言ってやりたい。


 けど、それは出来なかった。こんな狭い洞窟でフレーワの剣を振り回したら、大変なことになる。

壁が崩れ天井が抜ける。そうなれば皆即死だろう。


 わー!私偉いなぁー。そんなことも考えられるって、てんさーい!


「目をそらすってことは、リーダーがなってない、そうゆうことでは?」

「お前が怖い雰囲気を作っているからではないのか?」


 言い訳らしい、言い訳を言ってきた。ラリさんが落ち込んでいるではありませんか。まぁ、あの人の性格上すぐに立ち直りそうだったけど。

 今回は、傷ついただろうな。仲間が、重症になってしまったからね。


「違いますよ……。ラリさんのせいでは有りません。むしろ、私のせいですよ」


 重傷を負った、ミューリさんが口を開いた。何故そこでフレーワを庇うのかはよくわからなかった。裏の事情があろうがなかろうが、こいつを庇うことは腹が立つ。

 だが、今の状況で1番説得力がある人だ。


「それは、お前の考えだろ?ミューリ」

「そしたら!フレーワだって、自分の考えでしょ!?」


 外套を着たヘールベが足を前に出して、両手に力が入っている。日頃の溜まりに溜まっていたものを、全部吐き出したようだった。だが、その勢いはとまった。

 流石にここまで来たら、フレーワは降参してくれるだろうか、と思ったがこの人に常識を求めてはダメだった。


「はぁ。予定が狂ったな。お前がそんなことで、グダグダやっているから遅れてしまったんだ」


 はぁ?ふざけんな。フレーワが、余計なことを言うからこんなことになったんですけど。

 まぁ、強さに免じて許してやってもいいが。

 次はないからな、フレーワ。また、面倒を引き起こしたら次は、背後から斬りかかってやる。


 私は、短剣をフレーワの足元の地面に刺さるように投げつけた。

 フレーワは、剣を布で拭いてから鞘に剣を戻した。


「はぁ。疲れた」


 肩の荷が降りるかな、と思ったけどその逆で増えた気がする。

 あー。肩がこるなぁ。違う意味でね。

 私は右手で肩を揉む。

 そして、列が進んでいく。

 

「あの……」


 ラリの、声がしたので振り向くとフレーワのパーティーメンバーがズラっと並んでいた。

 ラリの目は涙目だった。

 こんなに落ち込んだメンバーを、引っ張っていけると思えないんだけどなぁ。とか、考えながら見る。


「さっきは、ありがとう。あーゆう風にフレーワに口答えできる人がなかなか居なくて、困ってたんだ。勇気をくれてありがと」


 笑わないイメージが着いていたフレーワのパーティーは、清々しい顔で笑えるではないか。

 この笑顔を縛り付けているフレーワは、どんな神経をしているのか、親の顔が見てみたいわ!


「また何か言えば、私の怒りは頂点に達しますから」


 爽やかな笑顔を決めたつもり。そちらも笑顔で返してくれた。

 いい人達なのになぁ。


「その時はまたよろしくお願いします!」


 ラリさんが、頭を下げた後にポツリポツリと皆も頭を下げ始めた。

 そんな、頭を下げられると断りずらいじゃないですかー。

 まぁ、嬉しいですけど。

 あー。にやけちゃうよ。にしし。


「分かりました」


 その場は、それで収まった。


 モチのロンですけど、次はないからね?フレーワよ。


 この初陣大丈夫なのかなぁ。最初から悪い雰囲気が漂っていたらダメでしょうに。

 一件落着したが、分かれ道が出てきた。

 ミューリの探索は使えないので、フレーワの感を頼りにして進んだ。


「左だ。進もう」


 もう、フレーワを信じて突き進むしかない。

 進んでいくと、嵐の前の静けさのように静かだった。

 50人の甲冑の音や、剣の擦れる音が響く。


「おい、止まれ」


 50人もの人が、フレーワの指示で一斉に足が止まる。

 後ろのほうにいた私は、後ろから何かが来ているのがわかった。


「嫌な予感が………」

「まさかの、嫌な予感的中かもな」


 フレーワの一言で、みんなの顔が青ざめる。

 後に聞いた話だが、フレーワの感は当たりやすいらしい。百発百中って訳ではなさそうだけど。


 なんでそうやって言えるかって?

 フレーワのことが嫌いだからってわけじゃないよ?

 さっきの分かれ道で、右に進んで敵を倒すはずが、左に進んで後ろからなにか来てるっていうね。

 どうしてくれるんだい?フレーワさん。私は後方の方で突っ立っているだけの役割なんですけど。

 戦えってか?


「おう。闘ってやろうじゃないか!」


 私はレイピアを持つ。そして、私は構える。


「おい!新人が!」

「待て、フレーワ。新人にこのようなことをさせるのもありだろう」


 フレーワは唇を噛んで、見守った。


 さて、どうしましょう。相手の姿が見えないのですが。スコップはリトハルに、預けましたし。やりたい放題やりますか。

 確か英語で……。


「《ヒート·ヘイズ》!!」


 すると、陽炎のようにモヤがかかった。

 そいで、確かスペイン語で……。


「《アイレ》!!」


 風のないダンジョンに、風が拭き始めた。

 

 うひゃーー。なんか、凄いんですけど~!

 じゃあ、付属することってできるのかな。


「《アイレ·レイピア》!!」


 すると、レイピアに風が付いた。

 そして、私は剣を勢いよく振り下ろした。

 すると、剣に付属していた風が振った方へ向かって行った。そしてモンスターに当たったのか、咆哮が聞こえてくる。


 あ、当たったかな?


「おい!次がくる!ぼさっとすんな!」


 フレーワからの一括。私の体はビクリと跳ねた。


 ここここ、こんなに緊張するのは初めてだ。


 私の夢のスローライフカモン!私が不運の持ち主だからって、こんな仕打ちはひどい!酷すぎる!

 言ってなかったけど(誰に言ってんだろ)、私は不運の持ち主である。

 

 見えないところからの攻撃は、とてつもなく怖い。 


 私は足が震えて恐ろしく、逃げることを忘れてしまった。

 すると、見えない敵から攻撃の合図なのか雄叫びが聞こえてくる。


 まずい!このままじゃ……!


「うおおぉぉぉ!」

 

 誰かの叫び声が聞こえるが、自分の命を守るのに必死でどうでもよかった。

 私のレイピアは、その威圧で折れてしまいそうだ。



───ガぁンっ!


 

 私の目の前はラリさんと同じ種族の猫耳の背中と、焦げ茶色の盾に覆われている。


 その人はラリの、お兄さんだった。


 敵の攻撃を防いだ

 その際に、風が来た。それだけ、強かったのだろう。


「嬢ちゃん!そこどきな!」


 早口で言われて、我に返った。そして、ラリさんが後ろに引っ張ってくれる。

 そして、縦の奥を見ると大きなモンスター……ではなく、美少女が大剣片手でを振り下ろしていた。

 目は赤く髪も赤く、下半身が竜の姿をしている。


「闇のデルピュネーだ!魔石を取り込んでいる!気をつけろ!」


 フレーワの一声で、皆の表情が凍る。


「猫……耳、娘……とら、える!!」


 私の後ろにいるラリさんは、私の前に行きデルピュネーと対峙する。


「やれるもんならやってみろ!!」


「ラリ!!」


 ラリさんの兄の声が、こだました。

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