俺ら、スカイランナーズ 十二話

 「パイロット含めてチーム何人かで学生課に来てほしい。話したい事がある」電話で梅中さんから連絡があった。

 「悪い話ですか?」思わず聞いてしまった。

 「そこは期待して大丈夫よ。いい話」

 「分かりました」

 俺、栗坂、広重で学生課に行くと会議室に案内された。梅中さんと一緒に学生課の偉い感じがする人も一緒だ。

 「何があるんすかね」

 「悪い話ではないと聞いてる」

 席に着くやいなや、まずは書類審査通過を祝われた。

 「人力エアーレース出場おめでとう。大学としても力になれそうな事があれば、内容によるが協力できないかと思っている」

 何をお願いしようかと思い巡らせる。広い一階の作業場が借りられないか、というのが浮かんだ。

 「大学としては体育会部室棟の一階が空いているので、そこを正式に部室として用意、それに大学に横断幕を出そうかと考えているがどうだろうか?」

 思考が止まってしまった。部室の話は嬉しいが、横断幕を出すほどのことなのか。

 「部室は嬉しいです。とても助かります」俺は少し間を置いてから答えた。「横断幕は、優勝したわけでもないので、そんな事をしてもらっても良いかどうか、という感じです」

 横で栗坂が頷く。広重は真面目な顔で抑えようとしているが、なんとなくニヤニヤしている感じがする。

 「横断幕はどんな感じになるんですか?」広重がきく。

 「それはまだ決まっていませんが、出していいかどうかをこの場で確認できればと」

 「出しても大丈夫ですが、出場が決まっただけでという恥ずかしさもあるので」

 「そこはチームの方が心配しなくても良いと思います」

 「そうですかね」

 「そうですよ」

 学生課に呼ばれていい話の事がある、というのが驚きだった。

 「飯でも行くか、三人で」

 学生課での話がどれぐらいの長さになるか分からなかったので今日の作業は休みにしていた。あっさりと終わったのでこのタイミングしか無いだろうと切り出した。

 「いいっすね」

 大学と最寄り駅の間にある定食屋に入った。学割のある焼肉定食を三人とも注文した。ご飯のおかわりも無料なのがありがたい

 「広重、トレーニングは大丈夫か?」

 「何がすか?」

 「悩みとか、うまくいってない事とか無いか?」

 「必要パワーまでまだ少し足りてないですけど、それでも数字は伸びていますし、大丈夫だと思ってます」

 「そうか。本当に無いのならいいんだが」

 誰もが黙ってしまい、微妙な空気になる。

 「……なんというか、弱音とか言ってるの見た事が無いのが逆に心配になって」俺が言葉を続けた。

 「そうっすか? 心配してくれてありがとうございます。なんというか、何かあった時に言いやすくなったっす」

 明るい溜息を吐く。杞憂で良かった。

 「あー、じゃあ一杯だけビール飲んでいいですか」

 「いいぞ。奢る」

 「あざっす!!」

 注文してすぐにビールが出て来て、今回二度目の二度目の乾杯をした。

 気持ちよさそうに飲む広重を見てまた安心感が出てくる。

 「個人的には栗坂さんの方が無口で心配していますけど」

 「元々話すことも無いので」栗坂が言う。

 表情は楽しそうである。

 「とは言っても大会まであと四ヶ月ぐらいなんですね」

 「そうだぞ」

 「新歓、機体の完成、TF(テストフライト)、やることは色々ある」

 「引っ越しも決まりましたし」

 「きっとあっという間なんでしょうね」

 「ああ」

 お店に入った時にはわずかに残っていた空の明るさはすっかり消えていた。

 「琵琶湖で見る日の出って、どんなんだろうな」栗坂が空を見上げながら言う。

 「忙しくて気にしている余裕が無いんじゃないか」

 栗坂も広重もそこで笑ってそれぞれの帰路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集:夏鳥が夜鷹の理由 雪夜彗星 @sncomet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ